世界の底流  
コペンハーゲンCOP15に向けて
2009年11月22日


 来る12月7〜18日の12日間、デンマークのコペンハーゲンで、第15回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)が開かれる。議長は、ラスムッセン・デンマーク首相が勤める。
 デンマーク会議は、2012年に期限が切れる「京都議定書」以降をカバーすることになる、かなり長期的な議定書を作成するための交渉となる。
 京都議定書は、1997年、京都で開かれたCOP3で締結された。そして2005年2月16日に発効した。現在、192カ国が批准している。京都議定書の締結から発効まで、8年の歳月がかかったのを勘案すると、12月のコペンハーゲンのCOP15は、ぎりぎりの日程である。2012年になると、京都議定書は無効になるからである。
 最近、バンコク(9月28日〜10月9日)、つづいてバルセロナ(11月2〜6日)で開かれた実務者交渉の議事録を通じて、コペンハーゲンCOP15の模様を考えてみよう。

1.リオ地球サミット以来の気候変動枠組条約の歴史
 1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境と開発サミット(地球サミット)は、歴史的文書である「アジェンダ21」を採択したと同時に、気候変動枠組条約と種の多様性枠組条約(来年名古屋で開かれる)という2つの重要な国連条約を採択した。
 92年の気候変動枠組条約(UNFCCC)は、大気中の温室効果ガスの排出が気候に影響すること(地球温暖化)を防ぐための行動の枠組みを規定した。このUNFCCCは、194カ国の批准を持って、1994年3月21日に発効した。オランダの環境大臣であるイボ・デブア気候変動枠組条約が事務局長が勤める。
 1997年12月、京都で開催された第3回締約国会議(COP3)では、UNFCCCの議定書(Protocol)を採択した。この京都議定書では、(先進国と社会主義計画経済から市場経済への)移行国が、二酸化炭素(CO2)の排出を削減するこを約束した。 
 UNFCCCでは、京都議定書を締結した先進国・市場移行国を「付属書I 国(Annex1Parties)」と呼んでいる。
 京都では、付属書I国は、6種類の温室効果ガスの排出を、1990年レベルに比べて、平均5.2%を、2008〜2012年間に削減することに合意した。会議のホスト国であった日本政府は、京都では6%の削減を約束した。京都議定書は、2005年2月16日に発効した。現在。批准国数は192カ国に達している。
 UNFCCCこのは2008〜2012年の期間を「第1次コミットメント」と呼んでいる。来る12月のコペンハーゲンCOP 15での合意は、「第2次コミットメント」となる。
 2005年、カナダのモントリオールで開かれたCOP11では、京都議定書第3条9項に基づいて、付属書I国が、第1次コミットメントが終わる2012年までに新しいコミットメントの議論を行う場として、「京都議定書のもとでの付属書I国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)」という長い名の作業部会を設けられた。これは、少なくとも第1次コミットメントの期間が終わる7年前に、これは京都議定書第3条9項に基づいて京都以降の議定書を作成するものであった。そして、2005年、同じくモントリオールで開かれたCOP11は、同じく長い名の「条約のもとでの長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」を設立した。以後、AWG-LCAはCOP13までの期間、「条約ダイアローグ」と呼ばれる南北間の話し合いのワークショップを4回も開いた。

2.バリロードマップ
 2007年12月、COP13がインドネシアのバリ島で開かれた。ここでは、1990年のレベルから25〜40%の削減が必要であるということに合意した。しかし、これは法的に拘束力のある数値ではなかった。
 それに途上国に対する長期協力の問題が中心になった。バリでは、それまでの条約ダイアローグのワークショップで指摘された長期協力の内容を、「緩和(Mitigation)」「適応(Adaptation)」「資金(Finance9)」「技術(Technology)」「能力向上(Capacity Building)」「ビジョンの共有(Shared Vision)」6の点に絞った。
 バリ島で採択された「バリ・ロードマップ」では、2009年12月のコペンハーゲンCOP15までの2年間に、UNFCCCと京都議定書の実施状況を話し合うということに合意した。この「バリ・ロードマップ」に基づいて、「バリ行動計画(BAP)」が作成された。 
 これは、コペンハーゲンまでの2年間という期限付きであった。しかし、このBAPをめぐっては、南北対立の点にでは曖昧な表現が使われた。とくにコペンハーゲンで採択される「議定書」が法的に拘束力をもつものであるかはわからない。
 BAPに基づいて、AWG-LCA/AWG-KPの交渉が、2008年には、4月バンコク、6月ボン、8月ガーナのアクラ、12月ポーランドのポズナンで、立て続けに計4回も開かれた。
 2009年には、3月29日から4月8日までボンで開かれた。その主な目的は、2つの「特別作業部会(AWG)」の交渉草案を、ザミット・クタヤール議長(マルタ気候変動大臣)のテキストとして、作成することにあった。
 さらに、6月1〜14日、再びボンで、インフォーマルなAWG-LCA/AWG-KP交渉が持たれた。ここでは、議長が提出したテキスト草案が討議にかけられた。

3.バンコクとバルセロナの両AWG会議
 ポスト京都の議定書をめぐるAWG-KP/AWG−LCAの交渉が、その前半は2009年9月28日〜10月9日、バンコクで開かれ、さらに、続いて後半は11月2〜6日、バルセロナで、延べ17日間開かれた。両会議ともに、政府代表、国際機関、NGO、学者・研究者、企業、メディアなど3,000人以上が参加した。
 政府を代表する実務者によるAWG−KP/SWG−LCA交渉の目的は、これまでに提出された議長の草案に加えて、国連用語で「Non Paper」と呼ばれる各グループ代表による提案文が大量にあるのだが、これらをコペンハーゲンCOP15で採択される文書に一本にまとめることにあった。いずれにせよ、両会議ともに、最近、国連会議のなかで、最も規模の大きく、かつ最も注目を集めた交渉であった。
 にもかかわらず、膨大な時間、エネルギー、カネを使ったにもかかわらず、多くの重要な点で合意に至らなかったことは残念である。

(1)AWG―KP

 2012年の京都以後の議定書をめぐって、いくつかの南北対立の論点がある。
 第1は、先進国・市場移行国、つまり付属書I国のポスト京都のCO2排出削減をめぐる問題である。
 鳩山首相は、2009年9月、わずか1日のニューヨークの国連気候変動枠組条約サミットで、「日本は、2020年までに、1990年レベルと比較して25%の削減を行なう」と発表した。しかし、これには、「主要な排出国」のすべてが参加することを条件にしたものである。これに対して、中国・インド連合は、「主要な排出国」という言葉はUNFCCCのどこにも書いていない、むしろ、「歴史的責任」を取り上げるべきで、「共通だが差異のある」アプローチをすべきだと反論した。
 にもかかわらず鳩山イニシアティブは、途上国、つまり「77カ国・中国グループ」から賞賛された。
 また、EUに加盟していないノルウエイも2050年に排出量ゼロを達成するために2020年には1990年レベルの半分または3分の2を削減することを約束した。
 それまで、削減については、「2020年までに30%の削減」を唱えて、世界をリードしてきたEUは、この日本、ノルウエイのイニシアティブに脅威を感じた。
 一方、ブッシュ政権の下で、世界最大の排出国である米国が8年間、京都議定書から脱退してきた。民主党のオバマ大統領になってやっと、京都議定書にカムバックした。しかし、下院はオバマ派だが、上院の支持は不明である。したがってオバマ政権にとっては、時間が必要である。米政府の気候変動交渉団の団長は、Carol Brownerという女性であるが、彼女は「米国には、コペンハーゲンの前に米議会で気候擁護法(これ自体不完全である)が採択される見通しはない」といった。さらに「コペンハーゲンで拘束力のある議定書が成立するあてはない」とも語った。
 その点から見て、コペンハーゲンのCOP15では、拘束力のない合意文書に終わる危険がある。オバマ大統領は、削減のターゲットを明確にした拘束力のあるグローバル条約の締結を、2010年にまで延期しようというCOP15の議長になるデンマークのLars Lokke Rasmussen首相の「2段階方式」を支持している。つまり、2010年にCOP16を開催するということになる。
 この提案については、UNFCCCのデブア事務局長は反対の意を、シンガポールで開かれたAPECサミットで表明した。
 低開発国(LDC)グループは、「エコロジカル債務」を議定書の中に盛り込むことを主張している。これはNGOが古くから要求してきた最もラジカルな案である。
 第2の争点は、12年以降のCO2削減に、主要な排出国を含めるかどうかにある。
この場合、中国をはじめとする新興国(BRICs)を参加させることである。新興国の言い分は、まず先進国・移行国(付属書I国)が京都議定書のターゲッをト達成した後の議論であるという。
 APECサミット後に中国を訪問したオバマ大統領は、この点について提案したが、確約を取れなかったようだ。

(2)AWG−LCA

 途上国に対する援助を議論するAWG-LCAでは、議長草案はバリ行動計画の達成に比重が置かれていた。すなわち、温暖化の被害を受ける国に対する援助、主要な途上国のCO2排出削減と「緩和」と「適応」を解決する先進国の援助などが主な議題であった。
 途上国側は、2012年以降、つまり京都議定書以降のCO2排出削減問題(すなわち第2次コミットメント)で、先進国・移行国(付属書I国)に対して、法的に拘束力のある議定書、すなわち京都議定書を修正した文書を作成すべきだと主張している。
 また途上国グループは、この資金は「新たな追加の資金」つまり政府開発援助(ODA)とは別途でなければならないという。
 しかし、途上国グループの中でも、途上国に対する資金、技術援助については、法的に拘束力のある決議にするかどうかで意見が分かれている。主要な途上国グループは、先進国と途上国の間に「緩和(Mitigation )」の防火壁を設けるべきだとしている。しかし、温暖化の影響を受ける脆弱国は、京都議定書を補足すべき新たな議定書の作成を要求している。
 日本は鳩山首相が、9月に、国連サミットで、温暖化対策として、2012年までの3年間に、途上国に、総額90億ドルを拠出することを宣言した。
 日本は2008年以来、自公政権のもとで、5年間に総額100億ドルの資金援助を約束してきた。すでに90カ国以上に円借款や無償援助の形で拠出してきたというのだが、まだ10億ドルが拠出されている。つまり鳩山イニシアティブの90億ドルのうち、80億ドルを2012年までに拠出しなければならないことになる。
 デブア事務局長は、2012年までに、世界で100億ドルが必要だといっている。世銀は、『気候変動に適応する経済』レポートのなかで、年間75〜100億ドルを必要とする、といっている。
 EUは、年間に50〜70億ドルが必要だといっているが、自分の拠出額については、明らかにしていない。
 2013年以降の途上国への拠出金を、どの機関が担うべきかについても、論争がある。すでに、「気候変動基金」、「適応基金」、「体制強化・マッチング・メカニズム」とするなどの案がでている。要は、国連のUNFCCCの下に置くか、世銀(グローバル環境基金)のもとに置くかという2つの提案があるが、途上国グループは、UNFCCCの下にある資金援助のメカニズムを使うべきだという。
 また途上国は、先進国が、政府の援助ではなく、市場や、またあるときは途上国に負担を負わせようとしていることを、警戒している。これは、「市場にもとづいた排出削減アプローチ」と呼ぶ。低開発国を代表してバングラデシュ代表は、「市場自体が生み出した温暖化の解決を同じ市場に任せるわけにはいかない」と語った。さらに、先進国の拠出額は、GNPの1.5%とするべきだと主張した。
 EUは、資金供与については、2国間、地域間、多国間それぞれの方法を選ぶべきだという。米国はこのEU案を支持している。
 この途上国支援問題は、主要な途上国を第2次コミットメントに入れるために欠かせない。多分、この問題がコペンハーゲンのCOP15に主要な議題になるだろう。

 コペンハーゲン会議の最中、12月12日、「気候変動についてグローバル行動デイ」が企画されている。