世界の底流  
アフガニスタンとパキスタンのタリバンの共闘
2009年4月23日


1.パキスタン軍情報部がタリバンを援助

 3月27日付けの『インターナショナル・ヘラルドトリビューン(IHT)』紙は、米国政府高官の話として、「パキスタン政府はアフガニスタンのタリバンへの援助をやめると約束しているにもかかわらず、パキスタン軍情報部がタリバンを直接援助し続けていると語った」と報じた。
 その高官によると、「パキスタン軍のスパイ組織(情報部)のタリバンへの援助は、資金、武器、それに戦略的プラン作成など多岐に亘っており、その結果、タリバン勢力はアフガニスタンに増派される米・NATO軍と互角に対峙することが出来る」と言う。
 パキスタン軍の情報部の中で、直接「タリバン援助」を担当しているのは、「情報部(Inter-Services Intelligence−ISI)の中の秘密の「S Wing」である。S Wingについてはほとんど知られていない。ただ、これは、パキスタン国外でのISIの作戦を担当する部門である。
 「S Wingのメンバーが、8月の総選挙を控えて、タリバンの司令官たちと武力攻撃を強めるべきか、あるいは縮小するかなどについて、定期的に会合を持っているという証拠がある」と米高官は言う。
 英国政府も、最近、しばしばイスラマバードに特使を送り、ISIに対して、その影響力を使って、タリバンの司令官たちが、総選挙前に攻撃を緩めるよう説得して欲しいと要請した。
 ITH紙が、ワシントンとイスラマバードでそれぞれ数人の政府高官と同時に取材した結果、すべて匿名だったが、「ISIとタリバンの接触を証明するものは、電子探知機と信頼できる情報屋を通じて」だと言う。
 S Wingを通じたISIのタリバン支援はすでに1年以上になる。そして、最近では、支援の方法も対象がタリバンに限らず、拡大している。
アフガニスタンには、勢力の大きい反政府組織は3つある。第1は、ムハマッド・オマール師が率いるパキスタンのクエッタを根拠地としるタリバン、第2は、Gulbuddin Hekmatyarが率いる戦士たちのネットワーク、第3に、Jalaluddin Haqqani率いるゲリラ組織である。
 ISIは、戦略プランについて、タリバンに指示を与えている。例えば、54人の死者がでたカブールのインド大使館の爆破などは、ISIの指示によると思われる。
 また、S Wing はパキスタン国内のマドラサ(イスラム神学校)からイスラム過激派をタリバンのためにリクルートしている。
 米軍の高官によれば、タリバンは、十分に、自力でアフガニスタン国内の軍事作戦を展開する能力をもっている、と言う。なぜなら、彼らは不法な麻薬取引や、豊かな湾岸産油国からの寄付によって戦費を賄っているからである。だが、アフガニスタンの東部の国境近くで作戦をする場合、ISIに支援を要請している。
 ISIの支援の対象は、アフガニスタン東部の連邦直轄部族地域に根拠地を置くタリバンに限らない。ISIは昨年11月、ムンバイを攻撃したといわれるパキスタン出身のLashkar-e-Taibaとも協力している。
 昨夏、米国が彼にインド大使館爆破についての証拠を突きつけたので、パキスタンのザルダリ大統領は、やむをえずISIのトップを罷免した。ザルダリ自身の地位が不安定だが、適当なオルタナティブが見つからないので、パキスタン軍は当分変わることがないだろうというのが、米国の見方である。

2.アフガニスタンとパキスタンのタリバンの共闘

 オバマ大統領の米軍17,000人増派の発表と同時に、アフガニスタンとパキスタンのタリバンは、これまでの経緯や反目を超えて、団結している。
 3月28日付けの『ITH』紙には、複数のタリバンの戦士とのインタービュが載っている。それによると、米軍増派に備えて、若いゲリラ司令官たちは、道路への爆破攻撃や自爆テロをもって、米軍を迎える準備が出来ているという。
 アフガニスタンのタリバンのリーダーであるオマール師は、パキスタンのタリバンに密使を送り、アフガニスタンで共闘するよう説得した。
 そもそも、パキスタンのタリバンはアフガニスタンのタリバンから派生したものである。その司令官たちの多くは、アフガニスタンとの国境地域の出身で、かつてアフガニスタンで戦ってきた元戦士である。
しかし、最近では、パキスタンのタリバンは、自国政府の打倒に集中していた。
 パキスタンのタリバンは、3つのグループに分けられる。北部に基盤を置くBaitullah Mehsud、Waziristan南部に基盤を置くHafiz Gul Bahadur、パキスタンの反乱の根拠地で連邦直轄部族地域のMaulavi Nazirがそれぞれリーダーである。
 Waziristanに近い町Dera Ismail Khanで行なったIHT紙のインタービュによるとオマール師は、昨年12月末と今年1月はじめに、6人から成る代表団をWaziristan に送った、と言われる。代表団はパキスタンのタリバンに対して、これまでの対立を解決して、また、パキスタン国内での闘いを縮小して、アフガニスタンで増派される米軍と戦うように説得した、と言う。
 今年2月には、パキスタンのタリバンは、「統一したムジャヘディン評議会」と名乗る統一評議会(Shura)を設立した。その時の声明には、「彼らはこれまでの対立を解消して、ともにアフガニスタンの米軍と戦う」と書いてあった。また声明には、「オマル師とオサマビンラディンに対する忠誠が記されていた。
 しかし、アフガニスタンのタリバンのスポークスマンのZabiulla Mujahidは、代表団を送ったこと、パキスタンのタリバンがアフガニスタンで戦うことになったということを否定している。なぜなら、これまでアフガニスタンのタリバンは「現地のアフガニスタン人が戦っている」と、言い続けてきたからである。
 パキスタン政府の高官は、「両者の会合が実際にあった」ことを認めている。そして、「多分オマール師に忠実だが、独立して戦っているアフガニスタン・タリバンのリーダーの1人であるSirajuddin Haqqaniに影響を受けたのだろう、と言う。Haqqani と彼の父Jalaluddin HaqqaniはWasiristan で最も影響力を持っており、アルカイダとパキスタンのISIの双方と強いコネを持っている、と米国の高官は言う。彼らは、アフガニスタン東部での戦闘と、カブールでの攻撃を強めている。
 オマール師の代表団の団長は、ヘルマンド州の司令官であるMullah Abdulla Zakirであった。彼は2001年米軍に捕虜になり、キューバのグァンンタナモ基地に投獄された。2007年に釈放され、現在はタリバンの司令官である。彼の本名は、「Abudulla Ghulam Rasoud」である。
 このAbudulla Zakir司令官はパキスタンのタリバンの中でも評判が良い。彼はスピーチがうまく、また優秀なトレーナーである。とくに、パキスタンのタリバンの統一に力を注いだ。
 Zakirが熱心なわけの1つに、Waziristanでの安全保障でもある。なぜなら、この地域に対する米軍の無人爆撃機による攻撃が激しいからである。最近数ヵ月の間に30回の攻撃を受け、ゲリラ司令官の2人が戦死した。
NATO軍の司令官は、アフガニスタンとパキスタンのタリバンが統一することは、非常に危険なことだと言っている。

3.パキスタン・タリバンがパンジャブに浸透

 一方では、パキスタンのタリバンは、地元の戦士たちと共に、パンジャブに勢力を伸ばそうとしている。なぜなら、パンジャブは人口密度が高く、パキスタンの人口の約半分が住んでいるからである。
 このことは、パキスタン政府と米国にとって、国家の安全を脅かすものである。今年3月、パンジャブの首都ラホールでのスリランカのクリケット・チームに対する恐るべき攻撃、また昨秋、首都イスラマバードのマリオットホテルでの爆破事件は、これを証明する代表的な例である。パンジャブの不安定化は、即、パキスタンの不安定化につながる。
 米軍の無人爆撃機が連邦直轄部族地域を攻撃を強めれば、その報復として、パンジャブでのタリバンの攻撃が激化する。
 Dera Ghazi Khanはタリバンの根拠地域とパンジャブとのゲートウエイに当る。それだけではない。ここには、パキスタンの核プログラムの1環であるウラニウム加工工場がある。
ここでは、厳しいイスラム教の戒律が敷かれている。その証拠に、理髪店、音楽店、インターネットカッフェは一掃された。また、ドラムやダンスなど伝統的な祭りもなくなった。一時期静かだった宗派間の対立も再燃した。
 アフガニスタンとパキスタンの戦略を検討するオバマ政権のチーム・リーダーである元CIAのBruce Riedelは、「タリバンがパンジャブで活動を始めている」と語った。
 80年代以来、パンジャブでのタリバンの多くは、パシュトン族である。その中には、ISIの支援を受けて、カシミールでインド軍と戦った元戦士たちである。米国からの圧力で、ムシャラフ前大統領が、パンジャブ・グループに対する援助を打ち切ったため、ある者は地下に潜り、ある者は、連邦直轄部族地域に移住し、そこで、タリバンやアルカイダと結びついた。しかし、一定のイデオロギーに基づいたものではない。パンジャブ・タリバンの割合は、タリバン中の5〜10%に上ると言われるが、パンジャブの地理に詳しいのが強みである。
 アフガニスタンと国境を接しているもう1つの州、北西辺境州にあるSwat渓谷(人口130万人)はタリバンが全面的に支配している。さる2月、タリバンと米・NATO軍との間で停戦協定が結ばれた。
 4月13日、ザルダリ大統領は、Swat渓谷地域に対して、議会で全員一致採択された「イスラム法を適用する政令」に署名した。このような譲歩は、パキスタン政府がどうしてもSwat渓谷で平和が必要であったからだ。07年まではSwat渓谷は観光地であった。
 イスラム教の導師たちは、この地域の貧困に依拠して、急速にイスラム教を広めている。
大地主に土地を貧農に開放の圧力をかけている。
 Swat渓谷で起こっていることは、パンジャブについても言えるだろう。タリバンは、単に、米・NATO軍と戦うことだけではなく、階級戦争を仕掛けている。