世界の底流  
オバマ大統領のアフガニスタン戦略
2009年4月14日


 1. アフガニスタンへの増派発表
 オバマは、大統領選挙キャンペーン中、「イラク戦争に反対してきた」ので、イラクから米軍の「戦闘部隊を18ヵ月間で撤退させる」と公約してきた。そのかわり、「テロとの闘い」のために、「アフガニスタンに米軍とNATO軍を増派させる」ことを唱えてきた。選挙キャンペーン中だった昨年7月、オバマは「少なくとも2個旅団のアフガニスタン増派が必要だ」と語っていた。
 オバマ大統領は、就任後の今年2月17日、17,000人の米軍戦闘部隊の増派を発表した。現有駐留米軍は36,000人である。このアフガニスタン戦争のエスカレーションをめぐる論争は、イラク問題をしのぐ論議を呼んだ。
 まず、2月末、下院議員の間で、オバマのアフガニスタン増派案の「再検討」を要求する署名活動が始まった。2週間で、カルホルニア州選出のBob Filner議員をはじめ、11州14人の下院議員(民主党8人、共和党6人)が署名し、3月末オバマ大統領に提出した。
 それには、「米軍の増派と占領は、アフガニスタンに不可避的な災難をもたらし、そのつけを支払うのはアフガニスタンの民間人である。アフガニスタンが自力で統治出来るようにするには、軍事的なエスカレーションは非生産的である。またアフガニスタンで軍事的な成功を収めれば、勢いパキスタンでの軍事活動を強めるよう圧力がかかるだろう。それはこの地域に危険な不安定化をもたらし、この地域の反米感情が高まるだろう」と書いてある。
 これは勇気のある発言である。問題は400人の下院議員の中で、わずか14人の発言であるという点であるが。
 マスメディアの分野でも、アフガニスタン増派に反対する論調が高まってきた。
 米軍司令官David D. McKiernan将軍のアフガニスタン・ツアーに参加した『ワシントン・ポスト』紙のJackson Diehl記者は、「今年は、確実に暴力がエスカレートし、米兵の犠牲も増えると予想できる。少なくとも以後数年間は、決定的に状況が好転するとは誰も思っていない。米軍司令官自身、アフガン軍が2016年までに独自に国を守ることが出来ないと思っている。ということは、これから7年間、何万人もの米軍が駐留しなければならないし、その間米軍の戦死者が増えることを“戦略的忍耐”しなければならない」と書いている。

2. ブッシュの遺産
 アフガニスタンへの増派は、オバマの専売特許ではない。実はブッシュ政権から引き継いだ戦略である。
 アフガニスタンでの米軍・NATO軍が確実に増え始めたのは、外国軍隊の占領に反対するゲリラが台頭し始めた2004年以後のことである。とくにエスカレーションが目立ってきたのは、2008年1月、アフガニスタン南部に展開するNATO軍を補強するために、3,200人の第24米海兵隊の派遣が発表された時である。
 2008年4月、ブッシュ大統領は2009年までに7,500〜10,000人の増派することを発表した。当時のゲイツ国防長官によると、これは、アフガニスタンのゲリラの台頭を危惧する幅広い超党派の議会の支持があったからだと言う。
 ゲイツ自身がそのメンバーであった「イラク研究グループ」の報告書を皮切りに、2006年末、2007年末、2008年はじめ、それにオバマ政権の国家安全保障顧問であるJames L. Jones退役将軍が共同議長となっている報告書など、超党派のアフガニスタン報告書が次々と出された。
 それら報告書のすべてが、アフガニスタンに「より多くの軍隊の増派」、「より良い対ゲリラ戦略」、「同盟国間の一致した努力の必要性」を提案している。
アフガニスタン駐留の米工兵隊が発行する『Freedom Builder Magazine』2009年3月号によると、17,000〜30,000人の米軍と海兵隊、それにともなう兵站を収容する軍事基地とインフラ建設のマスタープランを作るために、すでに少数の技術工兵隊が2008年7月に到着した、と報じている。
 いずれにせよ、ブッシュ大統領は、2008年9月、士官学校の卒業式で、アフガニスタンでは、2006年から2007年にかけて米・NATO軍が41,000人から62,000人に「静かに」増えていることを明かした。 
 ブッシュ政権からオバマ政権への移行期であった2008年末には、すでに増派の詳細が完成していた。ペンタゴンによれば、トイレから弾薬にいたるまで、決まっていた、という。
 これまでの情報を総合すると、米軍17,000人の増派にNATO(英国、ドイツ、イタリア、オーストラリア)軍の増強分を加えると、2010年には外国軍隊90,000人がアフガニスタンに駐留することになる。

3. アフガニスタン戦争の泥沼化
 アフガニスタン国内に「革命的アフガニスタン女性協会(RAWA)」という組織がある。RAWAのEメールによると、「アフガニスタン人にとっては、オバマもブッシュも違いはない」「ブッシュとオバマの、誤った、そして破壊的な戦略は、アフガニスタンとその周辺国に災厄と紛争をもたらす」と書いている。
 オバマ政権は独自の戦争戦略を描こうとしているが、それは、これまでの踏襲でしかない。したがってその結果は決まっている。オバマ政権は、ブッシュがイラクで行った誤りを繰り返すだろう、というのが、アフガニスタンのブログに多く見られる意見である。
 オバマ政権が就任以来、まず手を着けたことは、戦争目的の再検討であった。1月末、ゲイツ国防長官は議会での証言で、「我々のゴールはアフガニスタンをテロリストや過激派が米国や同盟国を攻撃する基地にしないことにある」と答えた。オバマ大統領も、カナダのCBCテレビのインタービューに対して、「戦争は必ず勝つ。なぜなら我々はアフガニスタンを北米攻撃の基地にさせないという能力を持っているからだ」と語った。
 ブッシュが「イラクを民主化する」というゴールを諦めたように、オバマも「アフガニスタンを民主化する」というゴールを放棄したようだ。
 オバマはイラク戦争を縮小しようとしているが、そのめどは立っていない。「イラクからの撤退」という言葉自身もきわめて曖昧になっている。
 2月18日、ペンタゴンでの定例記者会見でアフガニスタン駐留のDavid McKierman司令官は、「一時的だが、暴力が高まるだろう」と語った。この暴力は、必ず民間人の犠牲者を生む。1月末、在アフガニスタン国連援助使節団の報告書によると、2008年に殺された民間人の数は2,118人に上る。2007年比では40%の増加であった。
 RAWAのEメールでは、民間人の犠牲が増えている。オバマ政権発足の数週間で100人のアフガン人が殺された、という。
 オバマ政権下、アフガニスタンでは、民間人の犠牲者は1日平均2.2〜2.3人であり、ブッシュ政権時代よりも高い。
 そして、1人の民間人が殺されると、3〜500人のタリバンやゲリラを生み出すことになる。これは外国軍隊の占領下の国では当たり前のことである。
 最近、アフガニスタンの元司令官であったDavid Barno退役准将は上院軍事サービス委員会での証言で、「対ゲリラ戦は少なくとも2025年まで続く」と語った。 
 
4.カルザイ政権の腐敗
 アフガニスタンのカルザイ大統領はブッシュの「お気に入り」であった。しかし、カルザイ自身と政権の腐敗ぶりは目に余るものがある。
 2月9日付けの『インターナショナル・ヘラルドトリビューン』紙によると、バイデン副大統領は、上院議員だった昨年2月、他の2人の上院議員とともにアフガニスタンを訪問した。カルザイ大統領は羊と米のご馳走で晩餐会を開いた。バイデン議員と他の2人の質問は、もっぱら「腐敗」問題に集中した。なぜなら、カルザイ政権の腐敗度は世界一であることが知れ渡っていたからだ。
 これに対して、カルザイは「腐敗は全くない」「たとえあったとしても自分の責任ではない」と答えた。これには、3人とも開いた口がふさがらなかった。バイデン議員は、突然、ナプキンを投げ捨てて立ち上がり「ディナーは終わり」と言い、他の2人とともに部屋から出て行ってしまった。晩餐会は異例の短い時間に終わった。
 今日、カルザイ氏にとって、世界は大きく変わった。あの時のバイデンは米国の副大統領である。そして、彼を贔屓にしてくれたブッシュ氏はもはやいない。ケープを風に靡かせ、ねずみ色のアフガン帽をかぶったしゃれ者は、カブールが陥落して以来7年間、大統領として君臨してきたが、今では、ワシントンからも、自国からも嫌われ者に成ってしまった。
 オバマ大統領は、カルザイを信頼できない、無能な男だと思っている。クリントン国務長官は「カルザイは麻薬国の大統領だ」と言った。ホワイトハウスのアフガニスタン政策の立案者たちは「戦争に負けるのではないか」と心配している。そして、カルザイを除け者にして、州知事たちと直接交渉している。
 カルザイは、反乱の拡大に悩まされている。人びとは、カルザイの経済政策の失敗と政府の腐敗を非難している。アフガニスタンでは役所、警察署に入るにはすべての入り口で賄賂を払わねばならない。以前、コーヒーショップの入り口に必ず貼ってあったカルザイの写真は、今ではほとんど見られない。
 今年8月20日は大統領選挙の日である。大統領の任期は5年である。カルザイは再選を願っているが、有権者の80%が「カルザイ以外の候補者に投票する」と答えている。
 アフガニスタンでは、反乱が広がり、腐敗が蔓延し、けしの栽培が国中を覆っている。この中で、ワシントンもアフガニスタンも、カルザイの辞任が、国の建て直しの前提条件だと考えている。
 元カルザイ政権の外務相Abdulla(アフガニスタンでは1字の名前が多い)は「アフガニスタンは、カルザイ政権下で、最初は「Good」で、ついで「Not So Bad」で、やがて「Bad」になり、いまでは「Worse」だと述べた。彼はカルザイの大統領対立候補と目される。Abdullaは、カルザイが再選されれば「急激に崩壊するか」「ゆっくりと崩壊するか」の2つの選択肢しかない、という。
 カルザイの側近によれば、カルザイは「疲れており」「敵を怖がり」「身の危険」を感じている、と言う。にもかかわらず、彼は、断固として再選をめざしている。
 2月4日、国連Ban事務総長の訪問時に、カルザイ大統領は、記者会見を開いた。アフガン人記者が米国の新指導部との関係を聞いたところ、カルザイは、舞い上がり、名前こそ出さなかったが、米軍の攻撃でアフガン人の犠牲者が出ていることについて米政権が、「沈黙しろと圧力をかけている」と暴露した。さらに彼は「市民を犠牲にするな」「アフガン人の家を捜索するな」「アフガン人を逮捕するな」などの要求を繰り返した。
 不思議なことに、カルザイが口にしなかったことがある。それは、イラク戦争勃発以来、アフガニスタン戦争は2次的な地位に追いやられてきた。その結果、カルザイは国家の運営に必要な資金を受け取っていない。そこを、タリバンが侵食している。そして、オバマが封じ込めようとしているのも、タリバンの進出なのだ。
 にもかかわらず、カルザイは、アフガニスタンで唯一の政治家であり、軍、警察、それに米国などの資金を一手に握っている。そして、Abdullaのほかに、元蔵相Ashraf Ghaniぐらいしか大統領選の候補者はいない。
 オバマ政権は、好むと好まざると、アフガニスタンでは、カルザイを相手にしなければならないことに気がつくだろう。

5.アフガニスタンで消えた武器
 2月12日、米下院の公聴会に提出された会計監査院の報告書によると、ペンタゴンがアフガニスタンの治安部隊に供与した武器が管理されておらず、盗まれるか、タリバンに売られるかの可能性がある、ということだ。
 2004年12月から2008年7月までの間、米軍から、アフガニスタン治安部隊に対してライフル、ピストル、迫撃砲など87,000個の武器が供与されてきた。これは、米軍がアフガニスタンに送った小火器の3分の1にのぼる。これの記録が全くない。
 さらに悪いことに、ハンガリー、エジプト、スロベニア、ルーマニアなど21カ国から供与された135,000個以上の武器についても、記録がない。
 これまで、判明したところでは、これらの武器の中で、盗まれたり、ゲリラに売られたりした分で判明しているのはわずかだと言う。

6.オバマはタリバン穏健派と交渉か
 3月9日付けの『インターナショナル・ヘラルドトリビューン』紙によると、オバマ大統領は、3月6日の記者会見で、「米国はアフガニスタン戦争に勝利することはない」とし、「イラクでスンニーの過激派と交渉して、メソポタニア・アルカイダを分断孤立させることに成功したように、アフガニスタンでもタリバンの穏健派と交渉することで、和解へのプロセスを切り開くことが出来る」と語った。
 しかし、アフガニスタンがイラクと異なるところは、パキスタンの部族地域の問題を抱えていることだ。オバマ大統領が17,000人の増派命令を出すと同時に、Afpak(アフガニスタンとパキスタンの造語)戦略の検討を開始した。これはワシントンに留まらず、イスタンブール、カブール、ロンドン、パリ、ブルッセルなど広範囲な場所で行われている。
 一方、オバマ大統領は、ボスニア和平のDayton協定に成功したRichard HolbrookeをAfpak特使に任命した。
 タリバン穏健派との交渉には問題がある。米国民は、9.11以前、オサマ・ビンラディンに聖域を与えたタリバンと交渉することに心理的な抵抗を感ずるのではないか。
 タリバン穏健派と交渉するという戦略を推しているのはNATO、中でも英国である。たしかに、米国人の心中には、9.11の記憶が阻んでいたかも知れない。しかし、時代は変わった。
 オバマ大統領自らがタリバンとの交渉のドアーを開けた。
 米国が、9.11当時、タリバンのリーダーで、アフガニスタンを支配していたモハマダ・オマル師と交渉するのはまだ先のことだろう。オマル師は今でも、パキスタンのQuettaにあるタリバンの基地から、南部の司令官を指揮し、湾岸諸国から資金を集め、戦場に戦士と武器を送っている、と米政権は見ている。オマル師は、「和解出来る」相手ではない。
 すでに、英国はタリバンの司令官であったSalam師を恭順させた。そして、2007年、彼はHelmand州のMusa Qala郡長に任命された。以後、Salamは同郡で最も不人気で、腐敗した支配者になった。Salamに対する訴状は耐えることがない。
 いずれにせよ、タリバン穏健派との和解という戦略は、Salam の例で、つまずいたようだように見えた。
 一方、アフガニスタン政府は、オマル師らのタリバン指導部とムジャヒディーンの脱落者Gulbuddin Hekmatyarなどとの交渉の糸口を探ってきた。これはサウジアラビアやパキスタンに誕生した文民政府などがアフガニスタンのタリバンに交渉の場につくよう説得したためである。
 アフガニスタン政府の代理で交渉に当たっているArsallah Rahmani議員は、タリバンに対して「アルカイダと手をきること」「学校、道路、教師、技師などに対する攻撃を止めること」を交渉の前提条件だと提示している。
 これに対して、タリバン側は、「家宅捜査と逮捕を止める」「アフガニスタンの収容所、キューバのグアンタナモ基地、アフガニスタンのバグラム刑務所に収容されているタリバンを釈放する」ことを条件にしている。
 「政府の形態」や「憲法」といった大きな問題は、後回しになっている、とRahmani議員は語っている。
 この交渉はいくらか進展を見せている。アフガニスタン政府は、収容所からタリバンを釈放しはじめ、一方、タリバンはある一定の場所での攻撃を控えている。
 これ以上の進展は、カルザイ大統領が米国の承認を取り付けなければならないだろう。
 カルザイ政権は、これまで、独自の融和政策を取ってきた。それはタリバンが現憲法を認め、武装解除を受け入れ、平和的な市民生活に戻ることを約束すれば、恩赦が与える。このようにして、降伏したのは6000人に上る。しかし、この中にタリバンの幹部は1人もいない。
 オマル師の行方は不明である。しかし、彼の代理で、力のある司令官Bradarが政府と接触している。彼はパキスタンの港町カラチに住んでいると言われる。Hekmatyarはタリバンのメンバーではないが、恐るべき原理主義者であり、タリバンと同盟している。彼は、パキスタン国境のペシャワルに住んでいると言われる。彼の娘婿でカリスマ的リーダーのGhairat Baheerは最近バグラム刑務所を釈放された。これは政府側の和解政策の結果である。Hekmatyarは、交渉では軟化し、カブールから外国軍隊の撤退を唯一の条件だとしている。
 タリバンとの和解交渉は、政府や米軍だけでなく、国連や国際赤十字など複数の国際組織がひそかに続けてきたが、最近になって、これを公然化している。

7.米軍の攻撃による民間人の犠牲
 2月末、アフガニスタンの米特殊作戦部隊のWilliam McRaven司令官は、2週間にわたって、全土で米コマンドによる秘密作戦の中止命令を下した。その理由は、民間人の死傷者が急増したためである。
 米軍のアフガニスタンでの戦争では、特殊作戦部隊によるタリバン戦士を狙った急襲作戦であった。この攻撃は週に数十回行われる。これは、主として地上からの砲撃と空爆に依存している。そのため、市民、とくに女性や子どもの被害が多い。2月に発表された国連の報告書によると、アフガニスタンでの米軍特殊部隊による秘密作戦の民間人被害は2008年には前年比で40%も増えている。勿論、これには、タリバン側の自爆テロによる被害も入っている。
 おかしなことに、McRavenn 司令官の直属の上司であるDavid McKiernan将軍は(米軍とNATO軍を統括する)作戦中止の命令を知らなかった。彼の報道官Gregory Julian 大佐は、記者会見で、中止命令を否定した。一方、中東と西アジア地域を統括するDavid Petraeus将軍は、特殊部隊の攻撃中止を支持した。
 どうやら、米国のアフガニスタンの軍事作戦をめぐって司令部の中で混乱があるようだ。

8.アフガニスタン軍の増強
 オバマ大統領のアフガニスタン戦略のもう1つの目標は、アフガニスタン治安部隊と警察部隊の増強である。これは弱体な中央政府をカバーするためである。
 3月20付けの『インターナショウナル・ヘラルドトリビューン』紙によると、ペンタゴンはアフガニスタンの治安部隊と警察部隊を400,000万人以上の規模に増強する計画を立っている、という。これは現有の2倍の規模となる。そして、タリバンとアルカイダを一掃したと信じていた2002年、ブッシュ政権とペンタゴンが計画した人数の3倍である。
 オバマ大統領は、アフガニスタンとパキスタン(Afpak)戦略という、より広い見地から、この計画を承認するだろう。しかし、オバマの国家安全保障チームが、この戦略に必要な資金を試算したところ、向こう6〜7年間で100〜200億ドルを要することが判り、呆然とした。
 現在、アフガニスタン政府の年間予算は11億ドルである。これは主として、米国と同盟国から供与されている。つまりペンタゴンの増強計画は、現在政府の予算の2倍ということになる。
 しかも、この試算は、単にアフガン治安部隊や警察部隊の育成にかかる費用だけで、戦闘など治安部隊の出費は含まれていない。
 オバマ政権の中には、このような治安部隊の増強が、暴力を増幅させ、腐敗したカルザイ政権の脅威となるのではないか、と懸念するものもいる。
 ヨーロッパの国の中には、湾岸の産油国などNATO以外の国も拠出するように、治安部隊の増強のための「アフガニスタン国軍信託基金」を創設するという提案もある。
 3月27日、オバマ大統領は、アフガニスタン軍の訓練のために4,000人の米軍の増派を発表した。これは、就任後、発表した戦闘部隊17,000人の増派の追加である。
 2年前、ブッシュ大統領は、アフガニスタン派兵を60,000人にするといった。オバマ大統領の2度にわたる増派計画は、ブッシュの計画を踏襲したにすぎない。

9.NATOの亀裂
 アフガニスタン占領は、米国とNATOの共同作戦のはずであった。しかしオバマ大統領の戦略はNATO加盟国に歓迎されているわけではない。
 オバマ大統領は、4月2日、ロンドンのG20サミット後、NATOのサミットにも出席した。ここでのヨーロッパの反応は冷ややかであった。4月8日付けの『フィナンシャルタイムズ』紙によれば、ヨーロッパ側は、当面のところ、5,000人の戦闘部隊と2,000人の訓練部隊を増派する。また幾らかの民間人や400人の憲兵を送るという案も出た。しかし、すべては、アフガニスタンの8月の総選挙の結果を見てからというものであった。
 2008年5月、EUは400人の警官を訓練のために送ると約束した。しかし、あまりにも給料が安いので、200人のボランティアしか集まらなかった。
 ヨーロッパ側は、アフガニスタン戦争に対する世論の風当たりがあまりにも悪いので、恐れをなしている。「我々の軍隊が遠い土地でなぜ死ななければならのだ」という疑問に政府は答えられない。
 1月に行なった『FT』紙の世論調査では、ドイツ人の60%、英国人の57%、フランスとイタリア人の53%が、たとえオバマ大統領に要請されても、アフガニスタンへの増派に反対だという結果が出ている。
 そもそも、NATOのアフガニスタン戦争への参戦は、共通の戦略に基づくものではなかった。ドイツとオランダは、渋る議会に対して、「任務は平和維持で、タリバン・ゲリラと戦うものではない」となだめた。またフランスとドイツは、米特殊部隊とともにタリバンやアルカイダ掃討作戦に参加したが、これは秘密にされた。
 オバマ大統領のアフガニスタン戦略にとって、NATOの参加は、決定的である。もしNATOが参加しなければ、戦争は「アメリカ化」されてしまう。そして、NATOの亀裂は、米国がアフガニスタン戦争で敗北するより、もっと危険なことである。