世界の底流  
アパルトヘイト時代の多国籍企業を告訴
2009年8月28日


 南アフリカのイーストロンドンでは、黒人弁護士たちが、黒人労働者たちから、アパルトヘイト時代の多国籍企業の「不法行為」について証言を集め、米国の裁判所に告訴することを進めている。
 告訴の対象となったのは、メルセデス・ベンツ、ジェネラル・モーターズ、フォード、IBMなど世界的な多国籍企業であった。
 このことは、今年4月、米国の法廷が、黒人弁護士Dumiza Ntsebezaを団長とする原告団に対して、南アフリカのアパルトヘイト政権を、意図的に、示唆し、支えてきた多国籍企業を外国人でも告訴する権利を認めるという歴史的判決を受けてのことであった。これは、外国人が人権侵害を米国の法廷に訴えられるという「米国外国人不法行為法」にもとづく。
 そこで、John Ngcebetsha を団長とするNtsebezaを含むNcebetsha Madlangaの黒人弁護団は、8月はじめのウイークエンドに、イーストロンドンのDuncan村のGompoホールで、労働者から聞き取りを始めた。
 この村では、メルセデス・ベンツの工場で働いていた労働者がいる。その労働者たちは、工場で働いている間、メルセデス・ベンツ社が、南アフリカ軍の人権抑圧を目的とした装甲車を生産していた、ことを証言した。
 メルセデス・ベンツ社は、アパルトヘイト政権を支援するために黒人労働者の権利を抑圧した、とNtsebaza弁護士は述べた。またNtsebaza弁護士は、軍用装甲車を生産したのを目撃した人は、証言して欲しい、と述べた。
 今回の告訴状では、メルセデス・ベンツ社が、黒人の集会やデモの抑圧に使われたUnimog型装甲車をアパルトヘイト政権に納入していた、と書かれている。
 同様に、ジェネラル・モーターズ社やフォード社も拷問、暗殺、アパルトヘイトを示唆し、援助した、と告訴状にあった。IBMは、アパルトヘイト時代、黒人をバントゥースタンに強制移住させる技術を提供した、と訴えられている。
 これら多国籍企業は、単に南アフリカでビジネスをしていただけでなく、アパルトヘイト政権に協力し、労働者を苦しめたり、失業させたりした。この企業と政府との関係を明らかにする証言が必要だと、Ntsebeza弁護士は語った。
 これまでのところ、13件の告訴状が裁判所に提出された。その損害賠償総額は、4,000億ドルに上る。
 Ngcebetshe弁護団長は、賠償額は陪審が決めることだと言っている。
 Ntsebeza弁護士は今回の告訴の狙いは、今後、多国籍企業が投資をする場合、まず、その国で人権侵害があるかどうかを調べなければならない、という点にある、と言っている。
 米国側の弁護人であるTyler Giannini教授は、ハーバード大学のロースクールにある国際人権クリニックの所長だが、「これは、アパルトヘイト時代の犯罪の生存者に対する補償である。これらの企業についての証言は十分にある。このケースは、国際法の発展にとって重要である」、と述べた。
 告訴人の1人、元メルセデス・ベンツ工場の労働者であったMichaek Ngaloは、裁判には勝つという確信をもっている。「私は、1990年に労働者の権利を主張したため解雇された」と証言している。
 この集団訴訟は、2001年にNtsebeza弁護士によって始められた。そして、ケープタウン大学の社会学部のLungisile Ntseba 教授が原告団の代表になり、「米国外国人不法行為法」にもとづいて、提訴した。
 当初、この告訴状は、2004年には、米地裁でJohn Sprizzo 判事によって却下された。しかし、この集団訴訟は、今年4月8日、ニューヨークの南部地区高裁で、「これらの企業は、アパルトヘイト、拷問、暗殺、その他の犯罪を示唆し、支援したと見なし、裁かれるべきだ」とShira Scheindlin 判事が判決を下した。