世界の底流  
移住労働者の送金額はODAの3倍
2009年1月18日


  08年11月2日付けの『インターナショナルヘラルドトリビューン』紙は、米国の国際送金会社「Western Union」を例にとって、移住労働者の本国の家族への送金問題を解説している。
 2007年の1年間、移住労働者が本国に送った送金総額は3,000億ドルに達した。これは、先進国政府の途上国政府に対する開発援助(ODA)の3倍に上る。
 Western Union は、1851年、電報会社として発足し、1871年に送金業務を始めたのだ。しかし、エアメール、ファックス、そしてインターネット時代に入った1992年、一時破産に追い込まれた。そのため電報部門を売って、送金業に特化したといういきさつがある。
 現在では、200カ国に365,000ヵ所の営業所を置き、主として移住労働者の送金を業務としている。これは、マクドナルド、スターバックス、バーガーキング、ウォールマートなどの営業所を合計した数の5倍である。送金会社の中でも群を抜いて大きい。
 同社のChristina Gold社長は、「これからますます移民は増えるだろう。それにつれて、わが社の利益も膨らんでいく」と語った。同社の利益(手数料)は年間10億ドルに上る。
 必然的に、Western Unionは、移住労働者の動向に詳しい。同社の調査部は、米国政府のCensus Bureauの能力をはるかに上回っている。使用言語も英語だけでなく、フランス語、スペイン語、中国語などの国際公式言語のほかに、フィリピンのタガログ語やガーナのTwi語、カリブ海のPhagwa語、太平洋のフィジー語などを広告に使っている。同社の幹部たちは、「移住労働者を“英雄”」と祭り上げている。
 さらに、移民法の改悪を促進しようとしたコロラド州選出の共和党のTom Tancredo下院議員の弾劾を企てたこともあった。
 巨大化したWestern Unionは、途上国の経済開発政策、米国の移民政策を左右する勢力となっている。一方、巨大化することによって、何百万もの移住労働者の送金を安全、安価にすることが出来、また、送金額を増やすことにもなる。これがWestern Unionのうたい文句である。
 同社は、送金手数料が高いことを批判されている。現在は送金額の4〜20%の手数料を取っている。銀行は手数料が安いが、何週間もかかる。
また、同社が不法移民から利益を得ており、さらに不法移民を促進している、と批判されている。
 このような批判に対抗するために、Western Unionは、過去4年間、10億ドルの広告費を使った。そして、ある所では、手数料を下げ、米国政府の移民政策を批判したり、移住労働者支援グループに寄付したり、不法移民の合法化法案の通過に関与したりした。
 これは、大きな功を奏したようだ。
 たとえば、シカゴの移住労働者の支援者で、1998年に、虚偽の広告で同社を告訴したMatthew Piers弁護士は、このような同社のイメージチェンジについて「私以上に驚いた人はいないだろう。私はWestern Unionの“第1の敵”だったのだから」と語った。
 Piers弁護士の訴訟は、Western Unionが、「メキシコに300ドル送金する時の手数料は15ドル」と広告したが、為替の両替率をごまかすので、実際の手数料は25%になる。法廷では、Western Unionは間違っていないと弁護したが、結局、数百万ドルの賠償金を支払わされた。
 Western Unionの広告のすさまじさはマニラのある政府事務所に行けば判る。そこには50万人ものフィリピン人が、海外で働く際の政府の書類を得るために詰め掛けるところである。ここの壁、椅子の背、デスクの上、隣のカフェテリアのメニューの上にも「Western Union」の文字がある。移住するフィリピン人は出発前にセミナーに参加する義務がある。そこで、最も役に立つ事項はどのようにして家族に送金するか、である。ここでは、Western Unionの名が事前に移住労働者の頭に刷り込まれる。
 中東に出稼ぎに行ったフィリピン移住労働者には、娯楽設備はない。彼らに「フィリピン・クラブ」などのイベントがあれば、それは間違いなくWestern Unionが主催したものである。
 2006年、米州開発銀行の調査によると、「米国内のラテンアメリカ系人口の40%は不法移民であり、Western Unionの送金ルートを使っている」という。これに対して、Western Unionは、「顧客が不法移民であるかどうか判らない」と言う。
 これは嘘だ。たとえばラテンアメリカから越境してくる移民たちはテキサス州の国境を越えるのだが、1999年、ここの強制収用所が不法移民で満杯になったため、バスを仕立てて、不法移民を同じ州のブラウンビルにあるホームレスのシェルターに移動させた。
 ここでWestern Union は、彼らに無料のランチを提供し、同時にダイヤルフリーの電話番号が書いてあるTシャツ、バンダナ、パンフを配ってマーケティング・キャンペーンをした。
 同じ時期、Western Union は、ホンデュラスやエルサルバドルに強制送還された不法移民たちに対して同じようなマーケティング・イベントを行なっている。彼らはWestern Union が用意した特別の地域に入れられる。そこでWestern Unionのイベントをしている若い女性は、「不法移民たちは、1週間以内に米国に戻ってくる」と匿名を条件に語った。
 Western Unionは移民推進派である。同社の本部がコロラド州のデンバーにあるが、不法移民に激しく反対しているコロラド州選出のTancredo下院議員と移民政策をめぐって紛争を起こした。3年前、Tancredo議員は移住労働者の送金に課税することを提案した。これに対してWestern Unionは彼を議会から追い出すキャンペーンを行なった。Tancredoは、無事再選されると、今度はWestern Union が、不法移民を促進しているスペイン語ガイドを援助している、と非難している。
 まだまだ、Western UnionとTancredo議員との紛争は続くようだ。