世界の底流  
新型豚インフルエンザの根源は多国籍畜産会社
2009年5月10日


 
1. 国連WHOとFAOに要請書を送ろう

 私はグローバルな課題についてキャンペーンする国際NGO「avaaz.org」から時々メッセージを受け取っている。Avaazとはさまざまな言語で「声」を意味する。オタワ、ロンドン、リオデジャネイロ、ニューヨーク、ブエノスアイレスなどに住んでいるスッタフからなるグローバル・チームで活動している。
 5月5日のメールでは、「豚インフルエンザの発祥地が、汚く、危険で、非人間的な巨大な多国籍養豚工場であるという証拠が挙がっているとして、WHOとFAOに対してこれを調査、規制する要請書に署名を呼びかけていた。
 詳細は、以下のWeb Siteで見てください。
http://www.avaaz.org/en/swine_flu_pandemic?cl=225667149&v=3273

 豚インスルエンザの発生のニュースが広まるにつれて、各国政府は、メキシコへの旅行、豚肉の輸入禁止、その他国内へのウイルスの侵入を防ぐあらゆる手段を援用している。
 しかし、豚インフルエンザが、どこで、だれが発生させたかについての調査はなおざりになっているようだ。
 現在までのところ、メキシコのVeracruz 州のラグロリア(La Gloria)にある米系多国籍養豚会社「スミスフィールド・フード社(Smithfield Food Corporation)」のXaltepec養豚工場が、H1N1のウイルスの発生源であると非難されている。ここの住民は、「グラウンド・ゼロ地」になってしまったと怒っている。
 AP通信によれば、ここでは、1万頭の豚が狭く、不潔な場所に押し込められ、薬のカクテルをシャワーで毎日浴びせられている。最も恐るべきことは、豚の排泄物のプールである。これは豚舎の下から流れ出て、自動的にプールに貯められる。ここからものすごい悪臭と、大量のハエが発生し、地域の住民を悩ませている。豚舎の周囲には、腐った豚の死骸が転がっている。これらは、あらゆる疫病の発祥源となる。
 メキシコ当局は、ラグロリアの5歳になる男の児Edgar Hernandes君が最初の発病者だと発表している。Xaltepec養豚工場が発祥地であることは間違いない。Victor Ochoa支配人は、すべての豚にはワクチンを施しているとし、「ここで起こったことは、不幸な偶然にすぎない」と弁解した。

 スミスフィールド社は『フォーチュン』誌の500社の中に入る世界最大の多国籍養豚会社である。その本社はバージニアにあり、資産は14億ドルに上る。米国内で屠殺される豚の中で、同社が扱うのは3匹のうち1匹以上に上る。1997年、スミスフィールド社は、「連邦クリーンウオーター法」に違反した罪で1,260万ドルの罰金を支払った。現在、ミズリー州では住民訴訟が起こっており、ペンシルバニア州ではFBIの捜査が行なわれている。
 同社のJoseph Luter V社長は、「豚の男爵」と呼ばれているが、メキシコから遠く離れたニューヨークで、彼の豚とウイルスとの関係を激しく否定した。

 これまでWHOは、早くから、「新しい疫病の発生は不可避である」と警告してきた。EUとFAOも「伝統的な小規模の養豚業から巨大な工場型への移行は、疫病の発生と流行の危険性を増す」と言ってきた。
 5月7日付けの『インターナショナル・ヘラルドトリビューン(IHT)』紙はスミスフィールド・フード社がポーランドやルーマニアなどの東欧に投資していることを報じている。
 同社の東欧への進出は、他のEU政府が感知しないところでひそかに行なわれた。同社は、ポーランドとルーマニアが農業国であり、失業者が多く、賃金が安いこと、それにEUの多額の農業補助金を狙ったものであった。これは、スミスフィールドのような近代農業に優先的に支払われる。同社は、ルーマニアでは40カ所にのぼる最大の養豚業者となり、巨大な食品加工工場をもっている。今年は、ルーマニアのスミスフィールド社は、年間1,500万ユーロの補助金をEUに申請している。
 同社は、わずか5年間で両国の政治家どもを手なずけてしまい、環境保護の法律も圧殺し、近隣の住民が訴えられないようにした。
 スミスフィールドLuter社長は、「我社の戦略は、大規模(big)に、かつ俊敏(fast)に投資することだ」と述べた。彼は、「米国では、豚肉の値段が1970年から2004年の間に、5分の1に下がった」と自慢する。米農業省によれば、年間消費者1人当り29ドル節約したことになる。しかし、これっぽっちの節約の代わりに、それに払う代償とは比べものにならない。
 ポーランドとルーマニアでは、スミスフィールド社は豚舎だけでなく、飼料工場、屠殺場を含む一大食品工場を築き上げた。
 ルーマニアの西部ハンガリーとの国境近くのCeneiにあるスミスフィールド社の養豚工場では、2007年に豚がインフルエンザに罹ったことがあった。燃やすことが間に合わない豚の死骸がごろごろしていた。このときは、被害は豚だけにとどまり、幸い今度のように人間には伝染しなかった。
 スミスフィールド社の進出は、ルーマニアの養豚業に重大な災厄をもたらした。EUの統計によると、ルーマニアでは、2003年から2007年の間に小規模養豚業が477,030軒から52,000軒と90%も減少した。スミスフィールド社の養豚工場が雇ったのは900人の従業員、あるいは、契約労働者であった。それに100軒の農家から飼料を買い付けている。
 スミスフィールド社の大規模養豚工場が供給する安い豚肉は、ルーマニアの小規模養豚業を破産させたばかりでなく、遠いアフリカの象牙海岸の養豚業者までも破産に追い込んだ。ヨーロッパから安い豚肉が輸入されるからだ。
 これは米国でも同様である。1980年から2005年の間に、米国の養豚業者が667,000軒から67,000軒と、90%も落ち込んだ。
 スミスフィールド社はノースカロライナ州で政治家を買収するのに、約100万ドルを使った。1999年、同州をハリケーンフロイドが襲った時、豚の排泄物を貯めたプール6ヵ所があふれ出した。これは大きなスキャンダルになった。同州はあわてて、プールの規制に乗り出した。