世界の底流  
イラク戦争・アフガニスタン戦争で儲ける方法
2008年4月

 
1.イラク駐留米軍を上まわる “民間委託業者”の活動

 ブッシュ政権は、米議会もマスメディアも知らないところで、イラクの占領軍を倍増している。というのは戦争に従事する民間人の数が増えている、という事実がある。彼らは“民間契約業者”という名で呼ばれている。
 現在、イラクでは、そのような“民間委託業者”が18万人にのぼっている。この数は駐留米軍の16万人をはるかに上まわる。
 彼らの行動を監督するものもいないし、その犯罪は野放しになっている。
いいかえれば、これは「影の軍隊」である。彼らは、米国内では到底受け入れられない汚い行為をイラクで引き受けている。いうまでもないことだが、軍事企業(Military Company)にとっては、まことにうまい汁なのだ。
 ブッシュ政権は「グローバルな反テロ戦争」の名の下に、Blackwater USA、DynCorp、Triple Canopy、Erinys、ArmorGroupなどの軍事企業に何百億ドルもの国家資金をつぎ込んできた。彼らは、この資金でインフラを建設するだけでなく、イラク人民兵を養成してきた。現在、これら“民間委託業者”はとてつもなく強大になり、イラク政府軍を圧倒するまでになった。
 1991年の湾岸戦争前にイラク駐在大使だったベテラン外交官のJoe Wilsonは、「政府が、イラクの治安を正規の軍隊以外の民間人に外注するのは非常に危険なことだ。 ブッシュ政権はこのような民間軍事企業に何百億ドルもの資金を注ぎ込んでいる。その結果、彼らは米国政界で強大な軍事利権集団になっている。将来、彼らは誰に忠誠を誓うことになるだろうか」といった。
 米議会もマスコミも、ブッシュ政権がイラクでこのような企業に支払っている金額を正確に知ることは難しい。米議会筋は、イラク戦費として1ドル支出されるたびに、その中の40セントが“民間委託業者”に支払われていると推定している。ちなみに、現在イラク戦費の総額は1週間、約20億ドルかかっている。
 このようなことになったのは、ブッシュ政権がイラク戦争を開始にあたって国際的な合意を取り付けることが出来なかったためである。むしろ、国際的に合意を取り付けようとしなかったといったほうが正しいだろう。
 ブッシュ政権は、外交努力の代替として、カネで済む民間委託業者と、名目的に派兵している“有志連合軍”をもって済ませている。
 2003年3月、米軍の戦車がイラクに攻め込んだとき、かつてないほどの多くの“民間委託”部隊を引き連れていた。
 1991年の湾岸戦争では、正規の軍隊と民間委託業者の比率は10対1であった。ところが、今日では、民間の委託業者の数は正規の軍隊を上回っている。2007年7月の時点では、イラクで米軍のために働く民間軍事企業の数は630社以上にのぼる。そこで働く“民間委託業者”の数は18万人にのぼる。これは100を超える国から集まってきている。これは米駐留軍16万人を上回る人数である。
 したがって、米国がイラクに派遣している総数は、40万人にのぼる。これは有志連合軍を除外した数である。民間委託業者の中で、軍事行動に従事している人の数は不明である。2007年、米国政府が発表した公式統計では、業者の数は170社、従事している人の数は48,000人となっている。「これは本当の数ではない」とWilsonは言っている。
 ブッシュ政権がこれら“外人部隊”にいくら支払っているかは不明である。しかし、議会筋は60億ドルと推計している。
 これに加えて、ブッシュ政権はイラクの復興のために、民間企業に巨額の資金を払っている。このとき、これら企業の従業員を護衛するために、数十億ドルが支払われている。
 その中の最大の企業は、実は英企業のAegis Defence Service社である。この企業の社長は英国の退役陸軍中佐Tim Spicerである。彼は、かつてアフリカの紛争に関与した外人部隊長として知られている。
 次いで大きな受注会社はテキサスに本社があるDynCorp International社である。同社はイラク警察の養成費として、10億ドルを受け取った。BlackwaterUSA社は、国務省から米国人外交官の警護費として7億5,000万ドルを受け取った。
 これらの仕事は、DBR(ハリバートン社の子会社)やFlour社が受注し、その子会社に下請けにだすことが多い。
イラクでこのような仕事に従事する“民間委託業者”の日当は平均650ドルである。時にはそれは1,000ドルになることもある。
 「彼らの収入は、国防長官の給料を上回ることがある。これを正当化することが出来ない」と米下院国防委員会のJohn Murtha(ペンシルバニア州選出の民主党議員)委員長は言った。昔、このような仕事は兵士が行っていた。その中には、特別な訓練を必要としていないものが多い。だがゲリラ地区をトラックで走らせるといった死と隣り合わせの仕事もある。
 そのほか、料理、洗濯といった、日常的な仕事もある。しかし、ここでもロケット砲や迫撃砲による攻撃を受けるという危険もある。
 彼らの多くは、実際の戦闘や治安作戦に参加している。また捕虜を尋問したり、軍事情報を収集したり、演習飛行をしたり、米軍の高官を護衛したりする。またあるときには、驚くなかれ、米軍と有志連合軍の部隊を指揮したことさえある。
イラク駐留総司令官のDavid Petraeus将軍は、「“民間委託業者”に護衛されたことがある」と今年はじめに告白した。彼のほかに、少なくとも3人の司令官の将軍がイラクでこれら私兵に護衛されているという。
 民主党オハイオ州選出のDennis Kucinich(前の大統領選挙に立候補)下院議員は、下院政府機関改革委員会でイラクとアフガニスタン戦争の経費を調査しているが、「イラクでは、米軍を上回る民間委託業者が駐留している。これは前例のないことだ。この場合、民主的な管理は出来ないし、また、そうする意欲もないようだ」と語った。
 実際、彼らの犯罪が法廷で裁かれることはない。これまで起訴されたのはたった2件だが、それも1つは仲間の委託業者を刺殺したケースであり、もう1つはアブグライブ刑務所で自分のパソコンに子どものポルノ写真を入れていたケースであった。一方、イラク駐留米軍のほうは、すでに64人がイラク人に対する殺人の罪で裁判に掛けられている。
 今年1月、米上院の公聴会で、Petraeusイラク駐留総司令官は、イラクでの民間委託業者の役割について証言した。同司令官は「これら数十万人の民間治安部隊の駐留あってこそ、米軍は使命を達成することができる」と証言した。

2.アフガニスタン政府軍の武器はすべてセコハン

 2006年以来、アフガニスタンではタリバンの活動が活発化している。これに対するアフガニスタン政府軍は米軍の兵站と軍事支援に大きく依存している。
 しかし、アフガニスタン政府軍と警察向けの武器弾薬を昨年初めから米軍に独占的に納入しているのは、マイアミに本社を置くAEYと呼ばれる小さな会社である。社長は22歳のEfraim Diveroliであり、副社長はライセンスを持ったマサージ師である。
 昨年以来、同社は米軍から3億ドルの武器弾薬の納入を受注している。しかし、『ニューヨークタイムズ』紙の調査と米軍とアフガニスタン軍にインタービュしたところによると、同社が納入した弾薬は40年もたったものであり、パケージはすでにバラされたものだったという。
 納入された弾薬のほとんどは、旧共産圏の古くなった在庫であった。これらは、すでに米国務省とNATOが、時代遅れで、使い物にならないとして、破棄するためには何百万ドルもかかると判断したものだった。
 この取引には、仲介業者が存在し、連邦政府の不法な武器取引を取り締りのリストをすり抜けていた。その上、何千万ものライフルと機関銃の弾薬は、中国で製造されたものであった。これは明らかに、米国の法律に違反する。
ひそかに録音されたDiveroili社長の会話によると、古くなった1億丁のアルバニア製の銃の納入に際して「賄賂が使われた」という。
 引き続き、『ニューヨークタイムズ』紙のAEY調査によると、ついに米軍は、中国製の武器を納入したこと、さらに武器弾薬の製造元を偽ったことにより、AEY社との取引を中止したという。3月27日、米軍筋は配達証明付でDiveroili社長に対して、その旨を通達したという。
 この問題が発覚したのは、昨年秋のことであった。パキスタン国境に近いアフガニスタンのナワでアフガニスタン政府軍のAmanuddin中佐(アフガン人は名前が1つしかない)が警察署の薄汚れた床でライフルの弾薬箱を調べていたとき、箱が壊れて中身が床に転がった。そこには1966年度の中国製であることが書かれてあった。
 彼は、「我々にこのような武器を使えというのか。ほとんどがゴミ同然のものだ」と怒りをあらわにした。
 古くなった弾薬は機能が減り、正確でなくなり、使えない。そればかりでなく、発射と同時に爆発したりして、味方が負傷するという危険さえある。
AEY社について、これまでいくつかの国でのインタービュ、政府の秘密報告書、実際に当該弾薬を調べた結果、米軍の武器調達担当者は、審査もなく、あやふやな契約書で未熟な会社を納入業者に指定したことが判明した。
 米軍のAEYとの取引中止と同時に、国防総省の検察長と移民関税局がともにAEYが納入した武器の製造元と腐敗の疑いに関して調査を開始した。
 この調査が終わるまで、AEYは米軍との取引を中止しなければならないが、これまで契約した分の納入をすることができる。
 アフガニスタンの米軍の武器納入担当者は、AEYが納入したアフガニスタン政府軍の武器弾薬を調査し始めた。最後に納入したものは木箱で、中にはバラバラになった弾薬が入っていた。そこで、ロックアイランド武器庫の米軍の担当官に連絡をとり、AEYとの契約を解消する可能性を打診した。2月末、担当官はAEYと面接し、その結果、「弾薬の包装木箱の基準を厳しくした」だけに終わった。
 AEY社は、2004年以来、少なく見積もっても、3億ドルの契約をしている。Diveroili社長は、毎年2億ドルの武器を納入してきたという。
 Diveroiliなど20代の若者たちが、ろくな経験もコネもなく、どうしてこのような大きな契約を結ぶことが出来たかは謎である。
 2006年、アフガニスタンでのタリバンの攻撃が激化した。駐留米軍は、アフガニスタン政府軍と警察の訓練と武装を急がねばならなくなった。そこで大量の武器の注文が出てきた。
 それは、52種の武器のリストであった。ライフル、ピストル、機関銃などの弾薬、手榴弾、ロケット砲、ショットガン、迫撃砲の弾薬、戦車用の弾薬などなどが含まれる。これらは、アフガニスタン政府軍が旧ソ連軍から引き継いだ旧式の武器が使われている。ということは、ほとんどの武器弾薬は、米国以外の国から調達しなければならない。
 米軍が発注した2006年9月のデッドラインをクリアできた10社の中にAEY社も入っていた。Efraimの父であるMichael Diveroiliは1999年には、警察に武器を納入する会社を経営していた。息子のEfraimは、2005年に19歳で社長に就任したとき、米国が援助しているボリビア、パキスタンなど向けの武器、ヘルメット、防弾チョッキ、X線用のバッテリーなどへ納入会社になっていた。同時に、イラク軍向けの570万ドルに上るライフルを米軍に納入していた。このような関係から、アフガニスタンの緊急の要請に答えることが出来たのではないか。

3月28日『ヘラルドトリビューン』紙より