世界の底流  
オバマはイラク反戦派の味方か
2008年6月


 バラク・オバマ上院議員が民主党の大統領候補に選出された。もし彼が11月の大統領選挙に勝てば、黒人奴隷の汗と血で創られた国で黒人の初代大統領になる。
 民主党予備選でオバマ候補がクリントン候補に勝利した最大の理由は「オバマだけがイラク戦争を止めさせられる」と人びとが信じたからだ。だが、はたしてオバマは反戦の旗手だろうか。

1.イラクからの撤退論について

 オバマはイラク戦争を終わらせることが出来るだろうか?
この問いに対して、米国では今日、反戦派たちの聖書になっている『撤退の論理』の共著者Anthony Arnoveは、こう答えている。
 「オバマがイラク戦争を終了させると信じている人たちは、後で苦い失望をあじわうだろう。
 第1に、オバマはこれまで米軍の「全面的な」撤退と言ったことはない。第2に、彼は撤退を唱えてはいるが、その撤退計画によると、米軍はこれから先、何年もイラクに駐留することになる。多分その期間は、彼の就任一期目の4年を上回るだろう。第3に、仮にオバマが米駐留軍の数を減らすとしても、代わりに民間の警備会社や外人部隊を増やすだろう」と言っている。
 オバマは「大統領に当選したら、16ヵ月以内にすべての戦闘部隊をイラクから撤退させる」と公約している。しかし、戦闘部隊はイラク駐留米軍総数の半分以下である。だから、オバマの言う撤退は半分に過ぎない。
米戦闘部隊に代わる警備会社や外人部隊は、イラクではもっぱら対ゲリラ戦を担当する。あるいは、イラクの治安部隊や警察に対して対ゲリラ戦の“訓練”をするだろう。つまり、米戦闘部隊は去り、イラク軍が登場すると言うことである。
 しかし、バグダッドに世界最大の米大使館が置き、イラクに巨大な米軍基地を建設していれば、誰の目にも、イラク治安部隊、イラク警察、民間の警備会社、外人部隊などと外見こそ異なるが、彼らが米国の権益を守るためにあることは明らかだ。

2.アフガニスタンに増強

 オバマはイラクからの撤退を言うが、アフガニスタンについては兵力増強を唱えている。彼に言わせると、「イラクの占領は悪いが、アフガニスタンの占領は善い」というのが、アフガニスタンへの兵力増強の言い訳である。
 しかし、占領に善と悪があるはずはない。米国が9.11でテロ攻撃を受けたとして、テロリストを匿っていたタリバン政権を打倒するためにアフガニスタンを攻撃した。これがフセイン打倒のイラク戦争につながったことは明白である。アフガニスタン攻撃、イラク攻撃ともに、「テロ対する報復攻撃」である。
 そして両方とも、ブッシュは「テロとの戦い」には失敗した。2つの戦争の結果、世界はより危険になり、米国民をテロから守っていない。中東地域はより不安定になり、何万人もの人びとが殺された。米国は孤立し、嫌われ、そして攻撃の的になった。

3.オバマの外交政策

 オバマの外交政策は本質的にはブッシュのそれを変わらない。ただ、これまでのような過激なユニラテラリズムではなく、少しだけ協調的になるだろう。しかし、「予防戦争」というブッシュのドクトリンを廃棄するものではない。
 オバマは「アメリカの指導力」の回復を強調している。そして、これを軍事力で達成しようとしている。この点ではブッシュと全く変わりない。
 オバマの外交政策のアドバイザーの1人であるSamantha Powersは「人道的介入」を強調している。これは米国の反戦派が支持すべきことなのだろうか?

4.オバマはタカ派

 6月4日、オバマはイスラエルの有力なロビイ団体American Israel Public Affairs Committee(AIPAC)の会合に出席して、「東西統一エルサレムをイスラエルの首都」とするイスラエル案を「支持する」と語った。この「統一エルサレムを首都」については、これまでどの大統領もあえて言及してこなかった。国連はこれまで、エルサレムは「国際都市」であるとして、イスラエルによる併合を認めていない。
 またオバマはマイアミのCuban American National Foundationで演説している。これは亡命キューバ人のコミュニティで、これまで数知れないテロリスト、殺人者、麻薬密輸人を排出してきたところである。そしてこれはどのマスメディアもなぜか報道しなかったのだが、オバマは「47年におよぶキューバ制裁の継続」を語っている。国連はすでにキューバ制裁を不法だと決議している。
 オバマは「ラテンアメリカを失った」と言った。彼は、民主的に選出されたベネズエラ、ボリビア、ニカラグアなどの政権を「真空地帯」と呼び、この“真空”を満たすのは米国の使命だと語った。
 またオバマはコロンビアが国境を越えてエクアドルを侵略したことを是認した。
 これらの言から見ると、オバマはブッシュよりタカ派である。

5.オバマとシカゴ派

 オバマはクリントン候補が、世界最大のスーパーマーケットであるウォルマート社の取締役であることを攻撃していた。彼は「私はウォルマートでは買い物をしない」とまで言った。
 しかし、クリントン候補が大統領選のレースから撤退した3日後、CNBCテレビに出演して「私は成長派、そして市場自由主義者である」と語った。そして、言葉だけでは足りないとして彼の経済政策チームにウォルマートの熱烈な賛美者であるJason Furman (37歳)を加えた。
 オバマが市場を愛していることと、彼の語る「変化」とは一見相反するように見えるが、決してそうではない。なぜなら、オバマは10年間、シカゴ大学で法律を教えていた。このシカゴ大学こそが、ニューディールに対して反革命を起こした新自由主義派の巨頭Milton Friedmanとその一派がいた大学である。
 オバマは根っからの「シカゴ派」である。オバマのチーフエコノミストはシカゴ大学のAustan Goolsbeeである。彼は、“左翼”であると称しているが、「中道右派」である。
 06年、Friedmanが死去したとき、『ニューヨークタイムズ』にその偉業を称える文章を書いたのはGoolsbeeであった。
 その他オバマ陣営はシカゴ派で固められている。
 最近、Furmanがケインズ派をオバマ陣営にリクルートし始めた。すでに経済政策研究所のJared BernsteinとJames Galbraithの名が挙がっている。Galbraith はFriedmanの天敵であったJohn Kenneth Galbraith の息子である。そして、オバマは「現在の経済危機はこれまでワシントンに長く居ついていた誤った政策の論理的帰結である」と語った。しかし、はたしてオバマはワシントンのシカゴ派を放逐できるだろうか。

6.オバマとイスラム教

 民主党ミネソタ選出の下院議員Keith Ellisonは、初のイスラム教徒である。彼はオバマの選挙スローガンの1つである「団結」に感動し、自らアイオワにある米国で最も古いCedar Rapidsモスクにオバマを案内することを買って出た。しかし、オバマ陣営から「キャンセル」の通告を受けた。Ellisonは「私は決して忘れない」と憤慨した。
 オバマはカトリック、プロテスタントを問わずキリスト教会に足を運んでいる。またシナゴーグにも訪れている。なぜ彼はモスクを拒否するのか。
 実はオバマがイスラム教徒であるという噂が広まっている。彼の実父はケニアからの留学生である。そしてイスラム教徒である。離婚した白人の母が再婚した相手のインドネシア人もイスラム教徒である。母とともにインドネシアに住んでいたオバマは、単に授業料が安いという理由でカトリックの学校に通っていた。
 いずれにせよ、オバマは米国の孤立しているイスラム教徒を失望させたことは間違いのないところである。