世界の底流  
グリーンスパンはサブプライム・ローンの違法性を無視
2008年1月


 
1.10年毎に起こる金融危機

 07年8月、米国で低所得者向けのサブプライム・ローンの破綻がきっかけとなって、グローバルな金融危機が起こり、これが全世界の実体経済を突如脅かしはじめた。
 1987年のウォール街の株価暴落の「ブラックマンデー」、1997年タイにはじまり、インドネシア、韓国などアジアの小タイガー諸国を襲った通貨危機、2007年のサブプライム危機と、10年毎に世界的な規模での金融危機が発生している。
 1929年大恐慌の再発を恐れる米、日、ヨーロッパの中央銀行は、金融緩和政策と称して、大量の通貨を増し刷りして、市場にばら撒いてきた。その結果、すさまじい規模でのカネが金融市場に溢れかえった。そして、この大量のカネは製造業など生産的な部門に投資をするのではなく、カネがカネを生む事業、つまり投機に走った。世界は巨大なカジノと化してしまった。
 一方、米国が唯一の超大国となり、ドルの支配が一層高まった。すでに産油国はドル建てを取ってきたのだが、それに、中国、インド、東南アジアなどの急成長国、旧社会主義の市場経済移行国なども、これまで日本がたどってきた輸出志向型経済政策をとり、ひたすら米国市場への輸出を増やしてきた。
その結果、日本と同様、巨額の貿易黒字を抱え、ドルを溜め込んだ。このドルで米国の国債を大量に買い込んだ。ドル危機が予想されるのだが、溜め込んだ米国債を売りたくても売ることが出来ない、というジレンマに陥っている。一方、米国はいくら赤字国債を発行しても、ドルが世界通貨である限り、「グリーン・ペーパー(ドル紙幣)」を増し刷りすれば良く、債務不履行になることはない。

2.サブプライム危機は防げた

 クリントン政権時代に遡るのだが、ITバブルがはじけた。そこで、ITに代わるものとして、投機資金が住バブルを起こした。
 住宅バブルの仕組みはいたって簡単である。まず、住宅をローンで買える階層にプライム・ローンを供給して、住宅ブームを起こした。住宅に対する需要が飽和状態になると、今度は、より低取得層に、金利の高いサブプライム・ローンを供給して、住宅を買わせた。
 このとき、低所得世帯に借り易くするために、最初の2年間は金利を安くするが、その後は金利が高くなるという制度をとった。
 住宅ブームが続き、住宅の価格が上昇し続ければ、これは問題ない。2年後に、住宅の担保価値は高くなるのだから、これを担保にして、より安いローンに切り替えることが出来る。しかし、住宅価格が暴落すれば、たちまち高い利子の返済は出来なくなり、家を差し押さえられる。しかし、担保価値が暴落したのだから、家を失った低所得世帯は、ローンには残る。差し押さえた債権者も損をする。これは当然、予測されていたことであった。
 したがって、サブプライム・ローンは直ちに、証券化された。これは「リスクの分散化」として、合法的な行為だと言われている。
 はたして、合法的な行為であったのだろうか。
 2007年12月19日付けの『インターナショナル・ヘラルドトリビューン』紙によると、「米国には、このようなローンを禁止する法律があるのだが、少数の人びとが警告を発していたが、アラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会議長はこれを無視した」と報じた。
 そのなかの1人は、昨年9月の亡くなった連邦準備制度理事会の理事であったEdward Gramlich であった。彼は、すでに7年も前に、これら低所得世帯に住宅ローンを供与することが危険であると警告していた。彼は理事会の監事に対して、サブプライム・ローンの貸金業者の親会社または資金貸し手の米国の銀行を調査することを提案したが、グリーンスパン議長によって無視された。
 2001年、米財務省の高官Sheila Bairがサブプライム・ローン貸金業者に対して、「ベストプラクティス規範」を遵守することと、第三者に、調査させることを提案した。しかし、貸金業者はほとんど第三者の調査を拒否し、そのなかには、「規範」の存在すら否定するものもいた。また、第三者の調査を受けたものも、「規範」を守るものはいなかった。
 2004年には、カルフォルニアの住宅問題のアドボカシイNGOがグリーンスパン議長と会合したとき、サブプライム・ローンにはいんちきがあり、規則無視する行為が横行していると警告した。Greenlining InstituteのJohn Gamboa とRobert Gnaizda はグリーンスパン議長に会い、彼の権限でもって、ボランタリーな行動規範を守らせるよう促した、2人は、「グリーンスパンはやれないということについての理由は言わなかったが、しようともしなかった。単に関心が無かったようだ」と述べている。
 サブプライム・ローン危機が世界経済の不況に繋がってきた今日、「一体ワシントン(ホワイトハウスと議会)はどうしているのだ」と言う声があがっている。
 連邦準備制度理事会やホワイトハウスの行為を見ると、すでに手遅れになるまで、事態の推移を見守り、手を打たない。彼らの関心は、金融のイノベーションにある。また彼らは、ITブームが終わった時以来、経済を支えるのは住宅ブームであると信じていた。
 グリーンスパンは、「準備制度理事会はすべてのスブプライム・ローンの調査をやるには人手が足りない。また住宅バブルとその崩壊に原因があるのではない」と弁護した。
 新しい議長のもとで、準備制度理事会はやっと重い腰をあげて、サブプライム問題に取り組むことになった。それは13年前に作られた「Home Ownership Equity and Protection Act 」を無効にして、新しい法律を策定することになった。旧法は、ローンを出すとき、借り手の収入と返済能力を証明するペーパーが必要となっている。新しい法律には、借り手が返済困難に陥るような隠れたコストやダマシの条項を禁止することが加わる。
 これは、Gramlich やBairなどが、何年も前から提案してきた点である。しかし、サブプライム・ローンの貸し手はもう貸すことを止めるか、あるいはすでに破産しているので、新しい法律を遵守するものはもはやいない。
 グリーンスパンは最近書いたメモワールの本のなかで、サブプライム・ローンが何百万もの世帯に持ち屋を提供することが出来た、と自画自賛している。そして、「サブプライムが金融危機を引き起こすだろうということを知っていた」とも述べている。何という恥知らずの男であろうか。彼は、金融危機の戦犯である。
 そして、米国には、13年も前に、このような無責任な貸し方を禁止する法律があった。
 しかし、それに違反したのは、金融の番人のトップであったのだ。