世界の底流  
チャベス大統領の「21世紀の社会主義」
2008年9月18日

 
1. 地区評議会の発足

 ベネズエラのチャベス大統領は、「ボリバル革命」を唱えていたが、最近では「21世紀の社会主義」という表現をするようになった。チャベスは、世界銀行に対抗して「南銀行」を提案し、米国の「米州自由貿易地域」を撤回させるなど、ラテンアメリカに広まっている反米・反ネオリベラリズムのリーダーとしての立場はよく判るが、ベネズエラ国内の経済政策については、外国資本と基幹産業の国有化、そして協同組合による連帯経済の推進、といった漠然としたものしか伝わってこなかった。
 ベネズエラのチャベス大統領は、7月28日、26にのぼる新法発布と法改正行なった。また、8月24日には、「4月13日社会ミッション」の発足を宣言した。これら2つの政策は、チャベスの「21世紀の社会主義」への第1歩となるものである。これは、チャベスの言う「貧しいコミュニティをエンパワーする」実際の道筋を明らかにしたもんである。
 これら2つのプロジェクトは、上から政府によってベネズエラ全土にコミュニティ単位で組織された「地区評議会(Communal Council)」を通じて実施される。地区評議会は、農村部では200〜400世帯、都市部では20〜50世帯を単位とした小さなコミュニティに組織されている。この地区評議会は、これまで、中央・地方政府と官僚機構に独占されてきた行政権力を草の根の人びとの手に取り戻すために組織された。

2.「4月13日社会ミッション」

 「4月13日」という日は、2002年4月、ベネズエラ経団連「FEDECAMARAS」
が仕掛けた右翼クーデタをチャベスが崩壊させた記念日である。
 「4月13日社会ミッション」は、ベネズエラ24州中8州で47の部門(セクター)でパイロット的に展開される。予算は1億8,600万ドルが計上されている。この予算の80%は、地区評議会によって使われ、残りの20%は関連省庁によって使われる。
 プロジェクトの目標は「貧困根絶」である。
 チャベスは、このプロジェクトを通じて、将来、これら地区評議会が「社会主義コミューン」に発展することを目指している。いうまでもないが、これは、世界ではじめて労働者が政治的権力を行使することになった1871年の「パリコミューン」になぞらえたものである。
 地区評議会は、さまざまな社会運動を包括したものである。1998年、チャベスは、大統領になると同時に、ネオリベラリズムに不満を持つ貧しい人びとをコミュニティ単位で組織し始めた。やがて、これは隣組組織(Neighbourhood Associations )、医療委員会(Health Committees)、住宅組織(Housing Organizations)などの部門別組織に発展した。これらが今回の地区委員会の母体となったのであった。
 チャベスは、2006年、「地区評議会」を法制化した。そして、コミュニティそれぞれの独自の開発計画を作成するようになった。
 現在、ベネズエラ全土に組織された地区委員会は36,000にのぼる。
 これまでの既成の行政機構では貧困撲滅を達成することはできない。そこで、「4月13日社会ミッション」が、地区評議会においてそれぞれ水、電気、道路、住宅、学校、医療などの分野でコミュニティになにが必要かを調査することからはじめる。それにもとづいて、開発計画を作成して、政府予算でもって実施する。
 2003年以来、ベネズエラ政府は、すでに30ヵ所の地区評議会で「社会ミッション」計画を確立した。
 ベネズエラの「社会ミッション」の達成に重要な役割を演じたのは、キューバが派遣した医師や教師である。彼らはボランティアとして、貧しい地区で働いている。
 現在、「社会ミッション」は、文化、植樹、消エネルギー、先住民の権利(主として土地の権利)、ストリートチルドレンやホームレスなどの分野に活動を広げている。
 この地区評議会は、将来の21世紀型社会主義の最小の単位となるだろう。

3.26個の新しい法律

 7月29日にチャベス大統領が制定した26の法律は、新しい経済の建設の基礎となるものである。この法律は議会で採択されたものだが、保守派が強く妨害した。
 新しい法律は、「社会ミッション」と同様、コミュニティをエンパワーし、人民経済を創設する。
 その中で「公共機関に関する法律」を例にとると、国営企業や公共サービスを行政と地区評議会が共同で運営する。言い換えれば、この法律は、地区評議会を行政に統合することになる。そのことによって、行政の権力を地区評議会に移行するのを推進する。
 「住宅に関する法律」によれば、国家レベルの住宅プロジェクトにも地区評議会が関与することになる。また、「食糧安全保障と主権の法律」では、地区評議会が直接、食糧の配布や農業に関与することになる。
 「開発と人民経済の発展に関する法律」は「生産モデルは、資本の再生産ではなく、コミュニティのニーズに応えたものでなければならない」、そしてそれは、「社会的生産の会社」、「社会的流通の会社」、「ファミリイを基礎として生産」となる。
 チャベスによれば、地元の工場は地区評議会のコレクティブな所有となる。