世界の底流  
ブッシュのイラン攻撃の危険が迫る
2008年7月18日


 ワシントンに本部を置くInternational Action Center (IAC)が、来る8月2日(土)に全米で大規模なイラク反戦デモを呼びかけている。すでに首都ワシントンをはじめとして全米50以上の都市でこのデモの準備が進んでいる。ちなみにIACは、これまで反イラク戦争の大規模デモを組織してきた団体であり、ジョンソン政権の司法長官であったラムゼイ・クラークが代表である。
 同時に、「Stop War on Iran」というウェブサイトが、8月2日のデモに参加して、イラン攻撃に反対する行動を緊急に呼びかけている。
 実際に、すでにレームダック(死に体)の状態にあるブッシュ大統領が、16万の米軍がイラク戦線で釘付けになっており、さらにアフガニスタン戦線も増兵を強いられるという状況の中で、新しくイラン攻撃を開始することなど、まともな常識では考えられない。
 しかし、現実に事態を検証すると、Stop War on Iranの緊急呼びかけには現実性がある。
 7月13日付けの英紙『サンデータイムズ』によると、「ブッシュ大統領はイスラエルに対して、長距離ミサイルによるイラン核施設攻撃の“琥珀色のライト”を発した」と報道している。同紙によれば、「琥珀色のライト」とは、「即時に攻撃できるように準備せよ、そして準備が整ったことを知らせよ」という意味だという。
 つまり、米国は、アフガニスタン、イラク戦争で懲りたので、代わりに傀儡の軍隊に戦争をやらせることにした。すでにソマリアに「イスラム法廷会議(連合を改め)」政権が成立した時、隣国のエチオピア軍に侵略させ、崩壊させた。しかし結果は同じく、ソマリアの混乱と抵抗闘争には拍車がかかり、またエチオピア軍も引くに引けない膠着状態に陥った。米軍は、陰で戦闘指揮をするだけで、犠牲をだすことはない。
 このようなソマリアの前例があるので、イランに対しても、今度イスラエルを使って攻撃させる。しかも、アフガニスタンやイラクのように地上軍を派兵して、イランの領土を占領するのではなく、空爆や長距離ミサイル攻撃でもって核施設だけを一挙に破壊する。米国の思惑では、こうすればイランの核による報復を逃れることができる、と言う。
 同じく7月13日付けのイスラエルの『エルサレムポスト』紙は、「7月11日(金)付けのイラクの国防省筋によると、イスラエル空軍がイラクにある米空軍基地を離着陸して、イラン攻撃の予行演習を行っていると語った」と報じている。
 私は、かつて、1967年の第3次中東戦争のとき、エジプトのカイロに住んでいた。6月5日、イスラエル軍がエジプト、レバノン、シリア、ヨルダンに攻め入り、僅か6日間で勝利した。イスラエルのエジプト攻撃は、攻撃の初日にイスラエル空軍がナイル河沿いに隠されていたエジプト空軍基地を一挙に先制攻撃をして、エジプトの制空権を奪ってしまった。これがイスラエルの勝利の最大要因であった。
 そのため、イスラエル空軍は6日戦争の1ヵ月前から、地中海のキプロス島をターゲットにして、繰り返し予行演習を繰り返し、正確にイスラエル空軍がエジプトの秘密の軍事飛行場のすべてを先制攻撃で一挙に破壊することができるまでに、準備をしていたのであった。エジプト側も国際社会もそのことに全く気づかなかった。
 現在、イランに対して同じことが起こっている、と言いたい。米国もまた、昨年末から、盛んにイランの核施設を空爆とミサイル攻撃で一挙に破壊し、戦争を短期間に留める作戦について盛んにアドバルーンを揚げていた。
 米上院には580号、下院には362号という2つのイラン封鎖の決議案がされている。これは、大統領に「イランに出入りする人、車両、船舶、飛行機、汽車、貨物を厳しく検査する」権限を与える、というものである。
 これは、米海軍がホルムズ海峡を封鎖することになる。ホルムズ海峡の最も狭いところは21マイル、航行可能な幅は2マイルしかない。このようなペルシャ湾の封鎖が行なわれれば、イラン、イラク、サウジアラビア、クエート、カタール、バーレーンからの石油の輸出がストップする。これは世界中の石油供給量の4分の1以上にのぼる。原油価格は天文学的に高騰するだろう。
 しかし、上下両院では、これら2つの決議案は超党派的な賛成を得た。そして、議論なしに採択されるだろう。民主党の下院院内総務のナンシー・ペロシ議員のスタッフの1人は、「法案はバターに熱いナイフを入れるようにスムーズに採択されるだろう」と語った。
 ここで明らかなことは、イランは2003年以来「核兵器の保有を放棄している」という事実である。この地域で核の脅威を振りまいているのは、ペルシャ湾に派遣している核武装した米艦艇であり、またすでに200発の核兵器をもっているとされるイスラエルの2カ国である。
 米議会では、7月15日、これまでのイランの経済制裁を強化する法案が上下両院に超党派で提出された。
 7月7日付けの『ニューヨーカー』誌にセイモアー・ハーシュがこれまで米国の対イラン秘密作戦を暴露している。それは、昨年からイラン国内の反政府武装勢力に対する支援、イラン革命警備隊の国境越しの誘拐と尋問、イラン貨幣の偽造と流通など政権の不安定化を狙ったものであった。これに対して、議会は新たに4億ドルの予算を採択した。これによって、この秘密作戦は一層エスカレートするだろう。