世界の底流  
ブッシュのイラク増派計画は失敗する?
2007年1月16日


 新年早々、ブッシュ大統領は、イラクへの21,500人の米兵力の増派を発表した。その主たる目的は、バグダッドの治安回復にある。そのためになぜ増派するのかというと、これまでは米軍がバグダッド市内で“テロリスト”の掃討作戦を行なっても、そのまま市内に駐留することが出来ないので、基地に引き返すと、たちまち、“テロリスト”が戻ってきて元の木阿弥になる。これを防ぐために、作戦後も市内に駐留する軍隊を増派するのだという。
 今回のブッシュの増派計画が打ち出された背景には、米国主導のイラク復興計画がある。その詳細が明らかにされたところからはじまっている。それは復興チームを倍増させ、22チームにする、さらに米人専門家を4倍の500人にするというものであった。しかし、現在のバグダッドの治安状況で、新たに要員をリクルートできるのか、そして彼らの安全をどう守るのか、現在までのところそれは保証できない。
   しかし、問題は、今回の増派計画の成功に不可欠なことはイラク政府の協力である。そのイラク政府から抵抗を受けている。増派計画発表と同時に、イラク駐留米軍は、バグダッド防衛作戦図をもって、すでに何日もイラク政府の説得を試みてきたが、増派米軍の第1陣が到着しているのに、まだ成功していない。米軍側はこのバグダッド攻撃をイラク戦争最大の決定的戦場と見なしている。
 米軍が直面しているのはこの問題に限らない。まさに問題の連鎖である。たとえば米軍とイラク軍の司令部間の関係が曖昧なことからはじまり、補給路がズタズタであることなどに及んでいる。はたして、掃討作戦を始められるのかと疑う人もいる。
 そもそもイラク政府はシーア派から成っている。一方、米軍はシーア過激派、スンニー過激派ともに掃討作戦のターゲットにしたいのに、イラク政府は断固として、スンニー派過激派のみをターゲットにすると言い張る。つまり、作戦の戦略そのものからして、米・イラク間は一致していない。米軍にとってこの戦略は作戦の要である。イラク政府と会合するたびに、米軍はイライラを募らせ、「我々の戦略はイラク政府を引きずり込むことを目指しているが、そのイラク政府自体が問題の一部なのだ。まるで彼らの人質になっているようなものだ」とぼやいている。

 イラク側の作戦司令官を誰にするかをめぐって、米軍とイラク政府との間で揉めている。マリキ首相は、米軍が全く知らない南部シーア派出身のAboud Qanbar准将をイラク側の司令官に指名した。この男はスンニー過激派に対してとくに敵対的であった。このことが、一層、米軍のイライラを助長することになった。米軍側のバグダッド作戦の司令官は、第1騎兵師団司令官のJoseph Fil Jr.少将である。そして、米軍とイラク軍はパートナーという立場で共同作戦を遂行することになっている。しかし、米軍はこれまで、単独で作戦を遂行してきたので、このパートナーという概念は全く新しいものである。たとえば、シーア派、スンニー派過激派を対等にターゲットにすることについて、戦闘中にイラク司令官との間でいざこざが起こる可能性がある。このような想定されるいざこざを解決するために、イラク政府の要求を入れて、イラク首相と国防と内務の2人の閣僚、米軍駐イラク最高司令官、イラク国家安全保障補佐官による「危機評議会」を設けることになった。Qanbar司令官はここに裁定を委ねることになる。見掛けは立派な制度だが、この場合、マリキ首相が明確なリーダーシップを発揮するか、米軍は不安に思っている。
 このような作戦の指揮についての不安に加えて、補給路などといった、作戦計画を立てる前に解決しておかねばならない問題が山積している。大勢の追加米軍とイラク軍がバグダッドに入るには、市内9軍区全域に等分して少なくとも30〜40ヵ所の「共同安全所(Joint Security Sites)」を設けなければならない。これは警察署内に設けることを想定したものだが、警察署はすでにゲリラのターゲットとなっていて、多くは破壊されている。バグダッドの多くの地区では警察署がないし、あったとしても作戦所には使えない。そのため、代替として大邸宅を使おうとしている。この場合、邸宅を接収して、周囲を厚さ15フィートのコンクリートの壁、鉄条網で覆い、マシンガンの見張り塔などで固めなければならない。
 しかし、問題はこれだけでは終わらない。たとえばイラク軍の高機動性多目的車輪着車両(HMMWV)や米軍兵士を乗せたトラックを走らせる燃料をどこで補給するのかという問題がある。これまでにも、この燃料補給不足はすでに問題になっているのに、さらに大勢の追加米軍部隊がバグダッドに入ってくる。
 
 ブッシュが公表した21,500人の追加派遣軍の80%はバグダッド防衛に当てられる。とすれば、この米軍を保護する部隊、つまり米軍基地を守り、作戦部隊の安全を保護する部隊はその3倍必要である。そのため、イラク米軍司令官たちは、クエート駐留の米軍をすでにひそかにイラク入りをさせている。このような現地司令官の勝手な行動は、ラムズフェルド国防長官時代は決して許されなかった。つまり、追加は21,500人に留まらないのだ。