世界の底流  
メキシコシティの世界水フォーラム
2006年3月26日


 ペルーの一匹狼の大統領選挙候補者Ollanta Humalaが人権侵害をしたという最近の告発は非常に疑わしい。
 この告発までは、Humala は大統領選では最も優位にあった。よく調査したところ、彼を告訴した者は、米国際開発局(USAID)のファンドを受け取り、さらにNational Endowment for Democracy(NED)の援助を受けていることが判明した。米国政府は、その利益を守るために、ペルーの選挙に介入しているのだ。
 Humalaは、元陸軍の将校で、彼が創設した新しいPeru Nationalist Partyと、10年の歴史を持つ中道左派のUnion for Peruによる民族主義、反ネオリベラルな連合の推薦を受けている。
 彼は、メスティソである。かれはこれまで伝統的にペルーの主要な国家機構を握ってきたリマの白人エリート層に属したことはなかった。彼はしばしば、ペルー社会に残っている植民地的人種差別表現でもある「成り上がりの“Cholo”(先住民)」とあざ笑われている。その通り、Humala の支持者たちは貧しい、非白人の多数派であり、現在のAlejandro Toledo大統領の不評判なネオリベラルな“改革”の犠牲者である。
 Humalaは、ボリビアのモラレス新大統領と会合した。モラレスと同様、Humala もまたコカの葉製品を商品化し、国際市場を拡大することに賛成している。一方、彼はコカインの取引には強く反対している。また彼は、ペルーの天然資源の開発をペルーの支配のもとに置くことを主張している。ペルーの天然ガスやその他の鉱山の開発に関しては、ペルーが少なくとも49%のシェアを持つべきだと主張している。彼はまた、最近米国とペルーの間で結ばれた自由貿易交渉(FTA)については国民投票に問うことを約束している。FTAは米企業の利益を極度に重視したものである。
 このようなHumala の選挙公約はペルーのエリートや多国籍企業の利益に抵触する。そしてまた、ネオリベラルな「ワシントン・コンセンサス」坊主どもの怒りを買った。彼らは隣国のボリビアでのモラレスの華々しい12月の勝利に続いて、ペルーに左翼、反帝国主義、ポピュリスト政権が出現することを恐れた。
 しかし、モラレスとは異なって、Humala は政治の舞台ではニューカマーである。そこである人びとはもし、Humalaが選出されたなら、かつてエクアドルの選挙中、ポピュリストで売り込み、後に信頼を失った元陸軍将校Lucio Gutierrezの二の舞を踏むのではないかと危惧している。米国では、リベラルも学者たちも揃って右翼コーラスに参加している。そして、むしろ右翼候補のLourdes Flores Nanoを応援している。
 Humalaはベネズエラのチャベス大統領とも会合した。両人とも軍の将校出身で、チャベスは1992年、Humalaは2000年にクーデターを起こして失敗している。しかし、ベネズエラのチャベスと異なるところは、ペルーには石油の埋蔵がない。
 今年、2月15日、Humala は一連の戦争犯罪の罪に問われた。それは強制失踪、拷問、殺人未遂などの容疑である。これは1992年、彼が指揮官としてジャングルの中で、極左の毛派「輝ける道」やゲバラ派のMRTAと対ゲリラ戦を闘っていた血なまぐさい内戦時代に起こったといわれる。この内戦は80年代と90年代にペルー社会を席巻した。
 この容疑についてHumalaは断固として否定している。しかし、これは選挙に影響して、たちまち、彼は2位に落ちたのであった。
 Humalaを告発したNGOは「National Coordinator for Human Rights」(通称「Coordinadora」と呼ばれる)である。これはいくつかの人権団体のアンブレラ組織である。この告訴が真実にせよ、でっち上げにせよ、マスメディアはこの組織の過去や背景を調査したことはない。
 ラテンアメリカに詳しい人にとって、CoordinadoraがNGOで、長い間米国政府の資金援助を受けていたと聞いても驚かないだろう。
 ワシントンにある非営利団体「Washinton Office on Latin America」による“公式”の歴史には記載されていないが、CoordonadoraはUSAIDとNEDによって10年以上も資金援助を受けてきた。USAIDもNEDもともに民間団体の形をとってはいるが、米国務省の支配下にあり、米外交政策の不可欠の道具になっている。
 米国の資金援助はNGOの活動に影響を及ぼすのだろうか?
USAIDの元総裁Andrew Natsiosははっきりと2003年の問題のスピーチの中で、USAIDの契約者や援助を受けたNGOは米政府の手中にある、と述べた。また、USAIDより小規模だがNEDも、その創設者の1人であるAllen Weinsteinが1991年に『ワシントン・ポスト』紙が語った記事によれば「我々が現在やろうとしていることの多くは、これまで25年間、CIAがやってきたことだ」という。
 これまでの数年間、USAIDはCoordinadoraに、リマのOTIを通じて資金供与してきた。このOffice of Transition Initiativeという言葉が意味するように、USAIDは、米国の利権がある国、あるいは政権交代を目指す国にOTIを置いている。
 ラテンアメリカとカリブ海でOTIが置かれている国は、ボリビア、コロンビア、ベネズエラ、ペルー、ハイチである。驚くことに、世界中で最大のOTIが置かれているのはイラクである。OTIはより小規模なNEDよりもはるかに多くの資金を米国の政治的、経済的利益に沿うNGOに供与してきた。USAIDの報道官からのE-メールによると、USAIDはCoordinadoraに762,750ドルを供与してきたという。しかし、CoordinadoraのFrancisco Soberon代表によると、かつてそのようなことがあったが、今はない、という。しかし、その直後、彼は、メンバー組織が現在も受けていることを認めた。その1つ、APRODEHは少なくとも53,264ドルをUSAIDより受けとったといった。1年前にすでにUSAIDに情報自由法に基づいて資金供与の実態と数字の公開を要求しているがいまだに返事がない。
  SoberonはCoordinadoraがNEDから資金をうけていることを否定した。しかし、NEDのウエブ・サイトにはこれまで資金供与した団体の名が記載されているが、金額は明らかにされていない。我々の要請にも答えていない。しかし、ベネズエラとハイチの例で明らかになったことは、USAIDの金額に比べて、NEDの額は少ないはずである。Coordinadoraの米大使館との関係はどうか?国務省の返答では、1993年に、Coordinadoraの幹部たちがリマの米大使館に、ペルーのゲリラ活動が盛んな地域の視察旅行の報告を行っている。この時代、米政府がペルー政府の対ゲリラ掃討作戦を支援していたことを考えると、そのようなCoordinadoraの米大使館への報告は、スパイ行為に等しいのではないか。
米政府はこのような資金供与から見返りを要求しているのではないか。  
  Soberonn は断固として「ノー」というが、Humala を告発したことと、Humala の支持率が低下したことは、米国が見返りを得たことになる。
(ZNetより)