世界の底流  
ハマスの勝利についてのQ & A
2006年2月21日


1. ハマスとは何か?

 ハマスとはアラビア語の「イスラム抵抗運動」の略である。1987年12月、第1回インチファーダの時代にSheik Ahmad Yassin師によって創設された。マスメディアはハマスを、自爆テロ専門の戦闘集団と見なしているようだが、それはIzzeddin al-Qassamという軍事部門であって、ハマスはパレスチナの解放をめざす政治集団である。
 ハマスの前身はイスラム国際運動の「イスラム同胞団」である。ハマスは純粋にパレスチナ人のグループであり、パレスチナ問題の解決に特化している。
ハマスの憲章はイスラエルの破壊を目的にしている。イスラエルの承認と妥協を否定している。また憲章はパレスチナ人の武装闘争を容認している。
 しかし、一方では、ハマスは、行き届いた社会サービスのネットワークを、特にガザ地区で持っている。パレスチナ人の多くは、パレスチナ自治政府よりもハマスから物質的な援助を受けていると言える。この点、政治的、宗教的、イデオロギー的に異なる人びとからハマスが支持を受けている理由がある。
 ハマスは、勿論ドグマに縛られている一方、環境の変化に対応する能力も持っている。過去に、ハマスは、彼らが反対したオスロ合意の産物としての選挙に参加を拒否した。しかし、今では明らかに考えを変えたようである。それ以前、すでにハマスは、パレスチナとイスラエルの共存の道を探っていたようだ。
イスラエルの学者Shaul Mishal とAvraham Selaが書いた『パレスチナのハマス』は、ハマスを理解するのに良い本である。2000年に書かれたので少し古いが、今日でも有効である。

2.ハマスはテロリストか?

 答えは「イエス」だ。しかし、過去にテロリストが、政府、あるいは、その指導的地位についた例は少なくない。それは、イスラエルのかつてのIrgun Z’vai LeumiやLochamei Herut Israel(LEHI or Stern Group)などの反英テロリストたちはその良い例である。これらのグループからのちにManachem BeginやYitzhak Shamiriのようにイスラエル政府の首相になった者もいる。
 パレスチナ自治政府のファタも長い間、イスラエルの軍事、あるいは民間目標をターゲットにした攻撃を続けてきた。ハマスは第2次インティファーダの暴力を担ってきたので、ハマスが決意すれば、ファタよりうまく暴力をコントロールできるだろう。

3.ハマスへの投票は、パレスチナ人がイスラム原理主義を支持していることになるのか?

 そうではない。最近、パレスチナ人の間で宗教が果たす役割は大きくなっているとはいえ、パレスチナは依然として、非宗教的社会である。たしかにハマスは独自の支持者を持ってはいるが、選挙でのハマの勝利は、宗教、イデオロギー、あるいは暴力にもとづくものではない。むしろ、それはファタの失敗と腐敗によるものである。確実にハマスのほうがよりよく組織されてあおり、腐敗していないという考えにもとづく。ハマスに投票した人びとは、ハマスの英雄的な行為ばかりではなく、クリーンなイメージ、謙虚さ、正直さに投票した。これは自治政府とまさに対照的なものであった。
 さらに、ハマスの人気は、慈善事業と社会的サービスのネットワークにある。ハマスは、無料の食事を提供する幼稚園、学校、女性の教育センター、成年のスポーツ・クラブなどを建設している。またハマスのクリニックは、無料で病人を診てくれるし、家を破壊された貧しい家族や難民に対して資金の融資を行っている。
 つまり、ハマスは腐敗したパレスチナ自治政府のオルタナティブであったと同時に、イスラエルが作り出したパレスチナの貧困の解決に必要なものを提供したのだ。
 国連の統計では、2005年、1日2.20ドル以下の所得は120万人、人口の64%に上っている。またこの中で、1日1.60ドル以下の人は半分である。ハマスは、国連に次ぐ、第2の食料ドナーになっている。
 イスラエルの攻撃がパレスチナ人の生存のインフラを破壊した。自治政府が埋められないバキュームをハマスが埋めている。
 なによりも、それは変化を望む票であった。ハマスはオルタナティブであった。腐敗に加えて、ファタはパレスチナ人にイスラエルとの交渉ではファタは何も出来ないと感じさせてしまった。パレスチナ人にとって、ファタは何の結果をもたらさなかった。そこでハマスにチャンスを与えることにしたのだ。

4.ハマスの勝利はイスラエルに対する攻撃が激化するだろうか?

 そうではない。最近の世論調査では、パレスチナ人は現在の停戦が続くことを望んでいる。勿論、パレスチナ人は武力で占領地を回復することに賛成しているが、一方では民間人を攻撃することに反対している。勿論、西岸のユダヤ人入植地では誰もが武装しており、民間人と民兵を区別するおとは出来ない。しかし、パレスチナ人は暴力は今のところ解決の武器ではないと考えているようだ。
 ハマスはこのようなパレスチナ人のフィーリングを熟知している。それで、これまで1年間、ハマスの出した政治犯の釈放などの条件は守られていないにも関わらず、停戦を守り、またその意思を表明してきた。

5.それはイスラエルがテロリストと交渉しないということの理由になるだろうか?

 それは意味のない質問だ。第1に、2001年初めのタバでの交渉以来、イスラエルはファタと交渉してこなかったではないか?したがって、イスラエルがハマスとの交渉を拒否すると言っても、選挙前と変化はない。
 イスラエルがハマスの憲章を変えよというのは正しい。しかし、和平交渉は敵と行うもので、味方やパートナーと結ぶものではない。また、ハマスの軍事指導者が選出されたのではなく、政治部門のリーダーであった。10年前、北アイルランドでの和平交渉でも、同じレトリックがあった。そして、シンフェン党と言うアイルランド共和国軍(IRA)の政治部門と交渉するべきだと悟った。おなじ、プラグマティックな思考が必要だ。

6.イスラエルは選挙結果を心配しているか?

 答えは「イエス」だ。ハマスは憲章でイスラエルの破壊を謳っている。最近まで、インティファーダで、恐ろしい自爆テロを行っていた。最近、ハマスがソフトになったからといって、イスラエルにとって脅威がなくなったことにならない。少なくとも、今までは、イスラエルの承認を認めていない。
 イスラエルにとって脅威がなくなったのではないが、ハマスが政党に選出され、与党となったことは認めるべきである。勿論ハマスが正統な政党として行動することを望むべきだが、交渉しないわけはいかない。ハマスを脅威と感じることは自由だが、将来を考えると交渉の相手にするべきである。

7.ハマスはイスラエルと交渉する用意はあるだろうか?

 現在までのところない。しかし、これは変化する可能性はある。ハマスの憲章は、交渉を禁じており、イスラエルとのいかなる妥協も許していない。一定期間、ハマスはこれを尊重するだろう。しかし、ハマスの幹部は、パレスチナの与党として、変わりうることを示唆している。ハマスはみずから変化すべきであることを認識している。「ハマスは直接交渉はしないが、イスラエルがその気ならば、交渉には1,000の方法がある」、つまり、第3者を通じた交渉の余地があることを語った。
 アラブ連盟の事務局長は「ハマスは、2002年のベイルート宣言にもとづいて、イスラエルと交渉すべきである」と語った。これはサウジアラビアの提案により、アラブ連盟はイスラエルとの平和と国交正常化を行うよう呼びかけたものである。これは、イスラエルが1967年以来占領を続けている地域からの完全撤退、ガザと西岸地区にパレスチナ国家を建設し、東エルサレムを首都とし、国連総会決議第194号にしたがって、パレスチナ人難民を解決することを行えば、アラブ連盟加盟国はすべての地域から軍を撤退する、という内容であった。
 イスラエルはこの提案を完全に無視した。しかし、これは、パレスチナ・イスラエル紛争の恒久的な解決にむけた交渉の基礎である。
 いずれにせよ、ハマスはイスラエルと承認し、交渉するよう国際的圧力を受けるだろう。ハマスはパレスチナ人の世論を気にしている。そして、世論はイスラエルの占領を終わらせる方法を支持している。ハマスが組閣しても、アラブ連盟とパレスチナ世論に従うことを選ぶだろう。 http://www.zmag.orgを参照。