世界の底流  
インド・中国の新しい石油枢軸
2006年2月9日


 2月8日付けの『日経新聞』によると、「エクソン、シェル、BPの石油メジャー3社の2005年12月通期決算では、1年間の利益が合計837億8,000万ドル(約9兆9,000億円)に達した」という。 
エクソンは世界最大の企業で、米国ロックフェラー系資本、シェルとBPはヨーロッパのロスチャイルド系資本であり、石油会社セブン・シスターズのなかのトップ3である。
 3社は、前年比で40%近くの増加を記録した。これは、原油相場が歴史的な高値となったことで、大儲けをしたのであった。
 70年代の石油危機の時もそうであったように、石油メジャーはアジアで儲けている。ペルシャ湾岸からアジアに輸出される原油価格は、バレル当たり2ドル割高に設定されている。これはいわゆる「アジア石油プレミアム」と呼ばれる。
石油・天然ガスなど化石燃料の国際市場は、自由貿易ではないし、またこれまでもそうではなかった。まずOPECという強力な生産国カルテルが存在する。一方、消費市場はOECDなど先進国政府によってコントロールされている。
取引はすべてドル決済である。ということは、輸入国は一定の額のドルの外貨準備金を用意しておかねばならない。
 原油価格はWest Texas IntermediateやBrentと呼ばれる西側原油市場での価格が基準となっている。しかし、これは世界の原油市場ではほんの一握りの市場でしかない。
 さらに、これに輪をかけて次にのべる2つの規制がある。
第1に、ニューヨーク商品取引市場と国際原油取引市場での原油先物取引業者の投機がある。彼らは原油価格を異常に高くつりあげている。しかも、状況は悪くなる一方である。1月はじめに、フロリダのタンパにあるLiberty Trading GroupのJames Cordier 社長は「巨額の投機資金がエネルギーの先物取引市場に流れ込みはじめた」とAP通信に語った。
 第2に、アジアにおける米軍の存在がある。これが石油ドル依存を強化する役割を果たし、さらに地域の不安定と暴力を増大させている。
  アジア大陸には、一方では、湾岸、中央アジアという世界最大の石油生産地域を抱え、他方では、最も成長する石油消費経済がある。にもかかわらず、地域外の市場、取引の枠組み、さらに軍事力に縛られるなど第2バイオリンの引き手にとどまらざるを得ない。これは政治にも経済にも悪影響を及ぼす。
 たとえば中央アジアは中国に近いのに、そこからのパイプラインは常に西方にしか向かっていない。イランとインドを結ぶガス・パイプラインは良いビジネスなのに、米国のイラン制裁の危険が大きいため、多分このプロジェクトは実現されないだろう。
 21世紀がアジアの世紀だというならエネルギー、こうしたエネルギー部門でのアジアの不利な状況は変えねばならない。
 今こそ、客観的材料が良いときはない。中央アジアは、世界でも有望な石油産出地域となるだろうし、インドと中国は最大の経済成長率を記録している。石油メジャーは最も高い利益をあげている。サウジアラビアの新しい国王がまず中国、インド、パキスタン、マレーシアを訪問したのは偶然ではない。
  ここ一年間、インドと中国は石油と天然ガスを手に入れるために協力する気配をみせている。これはエネルギーのグローバル市場を大きく変動させる要因になるだろう。
 1月12日、インドのMani Shankar Aiyar 天然ガス大臣が、北京を訪問し、ONGC Videsh Ltd(OVL)と中国国営石油公社(CNPC)の海外での開発プロジェクトに共同事業するという協定に署名した。
しかし、これはインドと中国の半官半民企業による共同購入の枠組みにとどまらないだろう。今日、海南島にインドと中国の共同石油備蓄基地建設プロジェクトが浮かんでいる。  
 これはやがては、アジアにおける独自のエネルギー市場と秩序の構築、つまり「アジア石油枢軸の創設」につながっていき、さらにこれは米国にとって大きな政治地図の塗り替えをもたらすだろう。
  インドと中国が共同の石油開発をはじめるには、さまざまな政治的な解決が必要である。たとえば、ミャンマーが中国に天然ガスの供給を申し出ているが、これには米国の邪魔立てを考慮に入れるべきだ。米国はインドを最も弱い環と見て、インドに圧力をかけるだろう。「アジア共同体構想」についても、米国はインドに圧力をかけて妨害しようとしている。
 これまでのところでは、インドと中国の新しいエネルギー・パートナーシップはOVLとCNPCが共同でシリアのal-Furat油田を購入したことに始まる。現在では、ロシアのウドムルト共和国の油田購入に動いている。
 過去には、2社はライバルだった。たとえば、OVLはカザフスタンで中国に負けている。また1月には中国の海外石油公社のナイジェリアでのAkpo油田の購入問題では、インド政府がOVLに投資は「危険」であるとして、拒否権を振るったため、敗退した。したがって、インドと中国が手を結んだことの意義は大きい。