世界の底流  
IMF・世銀の年次総会の開催について
2006年8月9日


1.IMF・世銀年次総会の開催をめぐって

 9月17〜20日、IMF・世銀の年次合同総会が、シンガポールのSuntec会議センターで開催される。ここでは、24カ国の蔵相・中央銀行総裁による世銀の開発委員会、IMFの国際通貨金融委員会の会議と、それに続く単にセレモニーに過ぎない19〜20日のIMF・世銀全加盟国の蔵相・中央銀行総裁の合同会議などが開かれる。総会には加盟国184カ国より1万6,000人が参加することになっている。
 これに先立って、14〜20日、同じSuntec会議センターで、IMF・世銀が主催する市民社会フォーラムが開かれる。これには、IMF・世銀に登録されたNGOだけが参加を許される。
2000年、チェコのプラハで開催されたIMF・世銀の年次総会以来、それまでは、NGOは独自に理事や各国の代表に対してロビー活動をいってきたのに対して、IMF・世銀の事務局がアレンジするNGOフォーラムが毎日連続して開催されるようになった。しかし、これは、テーマもIMF・世銀が選び、パネリストもNGOからはIMF・世銀お気に入りの1〜2人が象徴的に選ばれるだけで、大部分はIMF・世銀事務局の担当スタッフレベルが大勢並ぶ。圧倒的にIMF・世銀側のPRショー化してしまった。
一方、登録したNGOは、会期中、会議センター内で、それぞれの「不当な債務」、「IMFに対するオルターナティブ」、「公共サーブスの民営化」、「IMF改革」などについて、独自にセミナーを開く。
 これに対して、インドネシアの「インドネシアの開発に関する国際NGOフォーラム(INFID)」は、シンガポールの対岸で、フェリーで30分のところにあるインドネシア領のバタム島のBatam Haj Dormitoryで、9月15〜17日、「国際ピープルズ・フォーラム」を開催する。これはシンガポール警察が、IMF・世銀の会議中、一切の集会、デモを禁止しているためである。また、シンガポールへの入国自体も制限しているからである。
 しかし、INFIDによると、8日現在、バタム島のインドネシア警察は、同島での集会を禁止したという。9月8日付けの『ジャカルタ・ポスト』紙によると、バタム島のローカルNGO18団体が「国際活動家の集会はバタム島の投資環境を悪化させる」として、反対していると報じている。INFID側は、「彼らは警察と企業にカネで買われた」と非難している。

2.ウォルフォビッツ世銀総裁の腐敗撲滅の十字軍的ミッション

 シンガポールでのIMF・世銀年次総会での目玉的議題は融資相手先の「腐敗撲滅」である。
 以前から「腐敗」は政治的にデリケートな問題であった。これまで、ドナーたちは比喩的に、あるいは、非公式に言及していただけだった。しかし、ネオコン出身のウォルフォビッツが世銀総裁に就任するとともに、彼の強いイニシアティブではじまったのだった。
 しかし、腐敗が問題視されるのは途上国政府に限られ、ドナーや多国籍企業の腐敗は問題にされないし、その責任は問われない。
 2006年に入ると、「腐敗撲滅」は、世銀や先進国政府などドナーたちの最大の政治議題となった。ドナーたちは、「腐敗」を理由に融資や援助停止をはじめたのであった。
 1年前、ウォルフォビッツが総裁に就任して以来、最初の半年は、静かに担当スタッフの話を聴くだけに過ごしたが、その後は、みずから「腐敗撲滅」ツアーに出かけ、アルゼンチン、インド、イエーメン、コンゴ、バングラデシュ、ケニアなどへの融資を凍結した。
 彼のメシア的使命は、世銀外からは勿論、世銀のスタッフや理事たちからも危惧の的になった。世銀理事たちは、腐敗についての総裁の勝手な解釈についての危惧しており、またスタッフたちの中には、彼の十字軍的行動が、ネオコンが意図している世銀の弱体化につながると危惧しているものもいる。
ウォルフォビッツ総裁は、「腐敗は複雑な様相をもっている」という内外の批判を受け入れざるを得なくなった。彼の融資凍結はニュースにはなるが、この複雑な問題の解決にはつながらないのだ。
 2006年の春季会議では、総裁は「すべての賄賂の受け手には贈り手がおり、それは先進国である」という事実をしぶしぶ認めた。そこで、今年9月の年次総会に向けて、「ガバナンスと腐敗防止についての規定を厳格にする:ガバナンスとアカウンタビリティを改善し、開発を促進する」という報告書を作成することになった。
 そこで、総裁室は、「腐敗」についてのフレームワーク作成に着手した。世銀理事たちは、総裁からの「腐敗と成長との関係」や「世銀はマネー・ラウンダリングをどのようにチェックするべきか」など長文の質問表に答えなくてはならないはめになった。8月末に発表された報告書は、
<http://www.worldbank.org/html/extdr/comments/
governancefeedback/gacpaper.pdf

に掲載されている。
 
 重大なことは、これまでの世銀融資の腐敗に対する役割が全く抜けていたことだ。

 またブッシュ大統領が、同じように「国際的な腐敗撲滅は米国の外交政策の優先事項である」<www.state.gov/r/pa/scp/2006/70236.htm>と言っている。ここでは、米国が腐敗撲滅で指導的役割を演じるといっている。
 しかし、滑稽なことに、米国は国連の腐敗防止国際条約を批准していない。これにはすでに条約成立に必要な60カ国以上が批准している。

 EURODAD、AFRODAD,LATINDADなどのNGOは、世銀総裁に手紙を送り、「世銀の腐敗撲滅のプロセスが拙速であり、世銀には腐敗を規定する権限はなく、さらにこれは新しい条件の追加になる」と批判した。

3.NGOのアジェンダ

 シンガポールやバタム島でのNGOのフォーラムの最大の議題は、「不当な債務の帳消し」問題である。
 これは、IMF・世銀の「腐敗撲滅」の十字軍批判と、それに対抗するものである。
 それは、地理的にシンガポール総会でのNGOフォーラムの開催国がインドネシアであり、長い間、世銀が、スハルト独裁政権を、「開発のショー・ケース」として持ち上げ、巨額の融資をしてきたためである。
 また、最近、独裁政権時代に累積した巨額の債務の帳消しが、アルゼンチン、イラク、ナイジェリアなどの中所得国を対象にして実施されているという事実も、このNGOの動きを後押ししている。イラクを除いて、公には帳消しの理由になっていないが、これらの国は、かつて独裁政権であり、この時代に債務が累積している。
 インドネシアに関しては、ウォルフォビッツ自身が、1986〜89年、スハルト独裁政権次代に、大使を務めた。
 INFIDは、「97年に暴露された世銀自身の報告書によると、対インドネシア融資の20〜30%は腐敗していたことを認めている」と述べた。しかし、その後も融資は増え続けた。そして、インドネシアが東チモールを不法占領していた時代も融資は増え続けた。
 インドネシアの対外債務総額は1,340億ドルである。その中で、政府自身、および政府が保証している債務は800億ドルである。その返済のために、2006年、インドネシア政府予算の26%が当てられた。これに対して、保健費は2%、教育費は5%に留まっている。人口の50%が1日2ドル以下の貧困ラインの生活を強いられている。世銀はインドネシアに対する最大の融資機関であり、その総額は120億ドルに上る。
 このような、世銀の腐敗した融資の実績にメスを入れない「腐敗撲滅」は、ウォルフォビッツ総裁自ら「天に向かってつばする」ことと同じである。