世界の底流  
サンクトペテルブルグG8サミット
2006年7月30日


 7月15〜17日、ロシアのサンクトペテルブルグにおいて、G8サミットが開かれた。ロシアで開催されるのは、サミット史上初めてのことであった。
 当然のことながら、今年のサミットは昨年のグレンイーグルスでの貧困根絶の公約を検証すべきであったが、むしろ、悪化する中東情勢、イラン、北朝鮮の核問題に議題が奪われてしまった。わずか、疫病、教育の2議題がサミットの申し訳のような議題として、宣言文に触れられた。
 当初、NGOは、ロシアの市民社会が弱体なことと、ロシア警察の警備が厳しいことなどを理由に、昨年の英国のグレンイーグルスのような大規模はデモを計画することを諦めていた。
 7月3〜4日、ロシアと海外から市民社会の代表600人が、同市に集まり、7つのワークショップに分かれて、G8首脳に対する声明文を作成した。
 そのなかで、「貧困・貿易・金融」に関するワークショップは、ロシアの「G8実行委員会」の代表Olga Ponizova(ECO-ACCORDの代表)と「貿易と金融のリンケージについての国際作業グループ」の代表(米国のCNESの代表)Nancy Alexanderの共同代表は、(1)、2010年までに500億ドルの追加の援助金を拠出すること、その中の50%をアフリカに、(2)、2010年までにGDPの0.7%をODAに拠出すること、(3)、60カ国を対象に100%の債務帳消しすること、その中に、貧しいCISの国を含めること、(4)、ODAの中に債務帳消し分を換算することをやめる、などの要求を声明文に盛り込んだ。

1.G8サミットの評価

(1)ODAの倍増について

 何ら新しい約束はなかった。昨年のグレンイーグルスの公約を繰り返しただけであった。つまり、2010年までにアフリカへのODAを250億ドル増やす。途上国全体では500億ドルの追加資金を出す。
 OECDの開発委員会(DAC)加盟国のODAは2005年には前年比31%増を記録し、総額1,070億ドルになった。G8はそのなかで75%を占める。しかし、EURODADの調査によれば、EUのODAの約3分の1、つまり135億ドル分は、債務帳消し、難民費用、ヨーロッパ国内の留学生の費用であり、何ら新しいODAの増額ではない。

(2)債務帳消しについて

 債務帳消しについては、G8は、IMFと世銀のIDAは重債務貧困国(HIPCs)に対しては、帳消しした。またアフリカ開発基金についても、帳消ししたと宣言した。ナイジェリアの債務300億ドル分も帳消しをした、と述べた。しかし、ここには、ナイジェリアが債権国に支払った124億ドルについては、触れていない。それは、主に、英国、フランス、ドイツというG8のメンバー国が受け取っている。
 IMFは予定より6ヵ月早く、2006年1月6日、総額33億ドルの債務帳消しを行った。IMFはHIPCs以外のカンボジア、タジキスタンの2カ国を加えた。これで、19カ国は、これから10年間、年間11億ドルの債務返済が軽減されたことになる。
 世銀の債務帳消しは、まったく不完全である。まず、モーリタニアを債務帳消し対象国から外した。また2005年中の債務帳消し作業を理由のなく遅延させた。その結果、世銀の手元には、消化しきれない帳消し資金が55億ドルも残った。
 アフリカでは帳消しの度合いはミックスしている。ウガンダ79%、ガーナは76%の帳消しであったが、タンザニア、ザンビアは74%であった。マリは56%、モザンビークは48%とアフリカでは最も低い。その理由はマリ、モザンビークともにIMF、世銀、アフリカ開発銀行以外からの借り入れが大きいからであった。
 ラテンアメリカでは、状況はより悪い。帳消しを受けた4カ国は、米州開発銀行からの借り入れが多いため、債務総額の3分の1しか削減されなかった。ガイアナは21%、ニカラグアは23%、ホンデュラスは28%、ボリビアは31%の削減に留まっている。
 サンクトペテルブルグでは、G8は「債務問題は終わった」と言ったが、これは真実とは程遠い。
 低所得国は3,800億ドル、中所得国では1兆6,600億ドルの債務を抱えている。ロシアのプーチン大統領は、CISのメンバー国に対する債務帳消しを議題に盛り込もうとしていた。また、市民社会のG8に対する声明文にも盛り込まれていた。しかし、G8の宣言文には何も書かれていなかった。

(3)米ジュビリーの声明

 2005年には21のHIPCsの債務が帳消しになった。またIMF・世銀が課しているプログラムをクリアすれば、さらに20カ国の債務帳消しが行われることになっている。
 2005年の債務帳消しによって、アフリカのブルンディでは子どもが学校に行けるようになった。ザンビアの農村では、医療費が無料になった。しかし、まだ解決していない問題がある。それは、債務帳消しに付随しているIMF・世銀の構造調整プログラムという条件であり、中所得国の不当な債務に関して、これをもたらした無責任な貸付についての監査を行うことである。
 2005年の債務帳消しの恩恵を受けたのは途上国の10人のうち1人だけである。2015年のMDGsの達成のためにはより広い債務帳消しが必要である。

(4)貿易について

 G8は、WTO交渉の行き詰まりに対して、自ら何ら解決案を出さなかった。代わりに、パスカル・ラミイ事務局長に対して、WTO交渉のデッドラインを2週間延期すること、加盟国と協議して、農業と工業製品の関税問題を解決するように指令した。
 ただし、WTO未加入のロシアをプーチン大統領は、「先進国は、伝統的な商品(農産物)の貿易を阻害する要因を取り除く義務がある。同時に輸出に対する国家レベルでの補助金の支出をやめるべきである」と述べた。これは、日本などの農産物に対する高い関税と、米国、EUの輸出補助金の撤廃を示唆している。ロシアが未加入なのは、米国との間で豚肉と牛肉の安全検査をめぐって対立が決着していないためである。最終的な合意と署名は、10月に見込まれている。

(5)原油高について

 米国ジュビリーと「石油変化インターナショナル」の共同調査では、貧しい途上国にとって、原油価格の高騰は、2005年の債務帳消しの効果(浮いた資金をヘルスケア、教育に当てる分)を無にしていると、いう。
 たとえば、サハラ以南のアフリカにとって、2005年の石油価格の高騰分は、105億ドルに上る。これは2005年、アフリカ14カ国が受けた債務帳消し額の10倍である。「G8首脳たちは、かつて石油危機が債務危機の引き金になったことを忘れているようだ。やがてこれが、気候変動につながっていったのだ」と述べた。 
 途上国はこの気候変動によって最も大きな打撃をうけた。その犠牲者は数億万人に上り、貧困削減を行った多くの国で、状況を逆転させたのであった。
その対策が、G8の言うような原油の増産ではないはずだ。

「石油変化インターナショナル」のGraham Saulは、

(1)、石油および他の化石燃料産業に対する直接、間接の補助金を廃止すること
(2)、省エネ、再生可能なエネルギー開発支援の劇的な増加
(3)、すべての不正で不公正な債務の帳消し、さらに債務危機の再発を防止するため、責任ある金融基準を確立すること、

をG8に対して要求した。