世界の底流  
カラカスの第6回世界社会フォーラムについて
2006年2月21日


 1.今年の社会フォーラム


 今年の世界社会フォーラム(WSF)は、例年のように1ヵ所に集中して開くのではなく、大陸別に分散型で開催することになった。
というのは、2005年のポルトアレグレの社会フォーラムでは、2006年にはアフリカで開くということが決定されたが、その後、どうしてもアフリカの開催地の調整がつかなかったので、1年先の2007年1月にケニアのナイロビで開くことにしたといういきさつがあった。
 そこで、1月19〜23日、マリのバマコでのアフリカ社会フォーラムを皮切りに、1月24〜29日、ベネズエラのカラカスでアメリカ社会フォーラム、そして大地震のために3月25〜28日に延期したパキスタンのカラチでのアジア社会フォーラム、最後に5月4〜7日、ギリシアのアテネでヨーロッパ社会フォーラムというように、大陸別に分散して開かれることになった。
 ところが、アメリカ社会フォーラムが開かれたカラカスでは、ベネズエラのチャベス大統領が実質的に主催者をなったため、ベネズエラ政府の政治戦略の色彩が大きく影響した。たとえば、チャベス大統領の演説は2時間に亘り、彼のボリバル革命の宣伝の場となった。
そして、誰ともなく、カラカス・フォーラムを第6回世界社会フォーラムと呼ぶようになった。

2.オルタナティブ社会フォーラム

 なかには、チャベスにフォーラムを乗っ取られたと危惧する向きもあったようだ。カナダの反グローバリゼーションの評論家カオミ・クラインなどは、すでに2003年の段階で、WSFの「チャベス化」すなわち、「新しい草の根の運動のショーケースであるべき集会が、数人のセレブの長演説の場と化してよいのだろうか」と警告していた。
 NelsonGarrido組織などチャベスの石油政策に反対するグループがベネズエラ中央大学の工学部で、「オルタナティブ社会フォーラム(ASF)」を開催した。これには、アナーキスト、環境運動家、先住民活動家が参加した。
ASFではベネズエラ政府や伝統的な政党政治に反対する人びとが新しい自立した社会運動のネットワークつくりを目指していた。とくにエクアドルの石油開発やベネズエラの金鉱開発などラテンアメリカで進行中の巨大開発プロジェクトが環境に及ぼす影響を議論した。
 またチャベス政権が、シェブロン・テキサコ、エクソン・モービル、スペインのRepsolやシェルといった巨大石油資本に対して、1940年代以来最大の開発利権を供与したことについても議論された。
 Homoet Naturaというベネズエラの環境団体のAngela GonzalesとLusbi Portilloの2人はコロンビアとの国境沿いにあるPerija山での炭鉱開発計画を非難した。Homoet Naturaはベネズエラ政府によって「CIAの支援をうけたグリーンマフィア」と言われている。
 ベネズエラのYukpa、Bari、Wayuu先住民などは1月27日、ボリバル広場からベネズエラ広場までをチャベス政権の炭鉱開発に反対するデモ行進した。

3.第6回世界社会フォーラム

 参加者数は、当初予測された10万人に及ばなかったが、7万人を超え、2,00団体にのぼり、140カ国から参加した。5日間に6つ+1(ジェンダー)のテーマ別フォーラムが開かれたが、これは良く準備されていた。このほか、参加者によるセミナーは1,800に及んだ。
 参加者には空港からホテルまでの無料のシャトルバスが提供され、さらに先進国並みに発達している市内の地下鉄もWSFのバッジを見せると無料になった。
 市の中心部にそびえる豪華なカラカス・ヒルトン・ホテル、優美なテレサ・カレニョ劇場、Parque Central(中央公園)などメイン会場には、最高の会議場やフォーラム会場が備わっていた。しかし、市の中心部から遠いカルロッタ軍空港やParque del Este(東公園)などその他の10ヵ所の会場は、不便なため参加するものが少なかった。これは、ポルトアレグレのように1ヵ所に会場が集中しているのに比べて、不満が多かった。
 ベネズエラのWSF実行委員会がとくに重点的に組織したのは、隣国コロンビアの労組、フェミニスト、アフロ系、先住民などコロンビアの活動家を招待することであった。これはコロンビアが、南米大陸のなかでは、唯一、長く続く内戦と暴力によって、選挙による左翼政権実現の可能性が見えない。そのため、市民社会の成熟が急がれていた。
 同時にまたベネズエラ実行委員会は、米国の活動家、とくにグローバル正義のために戦っている活動家の参加に力を注いだ。たとえば、Global Exchange、緑の党、反戦団体などを招待した。とくに、反戦運動のシンボル的存在であるシンディ・シーハンさんはチャベス大統領の特別ゲストであり、そのスピーチはテレビで放映された。このとき、彼女は、チャベスがいつもブッシュのことをMr.Dangerと呼んでいるのに対して、Mrs. Hope と紹介された。
 カラカスWSFが、これまでのWSFと異なっていた点は、反ネオリベラリズム、反軍国主義の基調に加えて、ALBA(キューバ、ベネズエラ、ボリビアのトリオによる経済同盟)色が強調されたことであった。とくに1月27日のチャベス大統領の2時間のスピーチ、キューバのRicardo Alarcon 国会議長のスピーチなどは、その最たるものであった。

4.ハイチ情勢をめぐる分裂

 カラカスWSFで見られた1つの問題点は、貧困層を援助するNGOと社会的変革を志向する草の根の社会運動との対立であった。
 それはハイチの政治情勢をめぐる対立であった。アリスティード大統領支持派は、チャベス大統領とCamille Chalmers(Social Himispheric Council 代表)が壇上に並んだのを見て驚いた。これはアリスティードを追放した米国製クーデターの正当化につながると思った。
 また、米国やカナダのハイチ連帯運動やハイチの草の根活動家は、左翼のブラジル政権が、国連を通じてとはいえ、ハイチの治安維持に軍隊を送っていることに抗議してブラジル大使館でデモを行った。

WSFに関する情報はhttp://www.forumsocialmundial.org.br