世界の底流  
米国に新しい反ブッシュ運動がはじまる
2005年1月20日


 『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』2005年1月18日号に、Thomas Crampton記者が「ブッシュは新しい質の政治的反対運動に直面している」というタイトルの記事を書いている。
 それによると、米国には、1960年代、マーチン・ルーサー・キング師の公民権運動を皮切りに、黒人、マイノリティ、女性、そしてベトナム反戦など、国を2分するほどの規模で、人びとの反体制運動が燃え盛った。しかし、その後の4半世紀、政治的に平穏の時代が続いた。
 しかし、2004年11月の「ブッシュ2期目の大統領選挙」を期に、政治アナリストの言葉によると、「新しい政治的反対運動の時代」が始まった。
 ここで、「Women Against Bush(ブッシュに反対する女たち)」のCaryn Schenewerkの例を挙げている。彼女は、ワシントンで20数社の企業弁護士をしていて、それまで全く政治に関心がなかったが、ブッシュの再出馬が決まるとインターネットを通じてWomen Against Bushという組織を立ち上げた。これは彼女が言う「Sex and the City(米国の低級なテレビドラマ)」時代の女性たちを組織したものであった。旗揚げまもなく、この組織は47州に広がり、会費を払っている人数も5,000人を越えた。11月大統領選挙当日未明まで活動を続けたが、その後は、「男女同一賃金」「女性の健康」、「中絶の権利」など女性のさまざまな要求を掲げて続けていくつもりだ。
 米国には、先の大統領選挙において、民主党とは関係なく、反ブッシュを掲げてJohn Kerryを支持した草の根グループが数多く生まれた。それらが集めた資金は1億8,800万ドルに達した。これは、ブッシュ派の同様の団体が集めた資金の3倍であった。
 その結果、バージニア大学のLarry Sabato教授によれば、「現在米国では、かってなかった政治的事態が起こっている」と、いう。これまでの米国歴代大統領で2期目の大統領選挙において、相手候補との得票率の差が最も低かったのは、Grover Clevelandで3%、Woodrow Wilsonで3.2%であった。しかし、ブッシュの場合はわずか2.4%であった。
 Sabato教授は、ブッシュ大統領は、「これほどの僅差で再選された大統領は、米国史上始めてのことであるばかりでなく、このように良く組織された反対勢力に直面したのもはじめてのことである」と分析している。
 現在の米国の草の根の「反ブッシュ運動」の実態についていくつか挙げる。

 第1に、「Win Without War」がある。これは元メイン州選出のTom Andrews下院議員が代表で、イラク戦争に反対する42の全国団体を擁している。Andrews代表によれば、「21世紀型の反戦運動だ」というが、その1例として、昨年3月に「バーチャル・マーチ」というのを展開した。これは米国議会の電話交換機を動けなくするもので、100万人が一斉にワシントンの議会に電話をかけたのであった。

 第2に、先にあげた「Women Against Bush」は、若い女性を政治運動に動員することに成功した。2004年選挙では20代の女性の10%以上が投票した。その大多数はKerry候補に投票したことは言うまでもない。彼女たちはこれからブッシュ大統領がやることのすべてに反対するだろう。

 第3に、昨年11月に旗揚げした「Moveon.org」がある。これは反ブッシュ勢力では最大規模の組織の1つで、しかも最も活動的である。そのメンバーは、全米で290万人にのぼり、すでにホームパーティ形式のタウンミーティングを同時期に1,600カ所で開いた。Wes Boyd代表によると、「メンバーはやる気満々だ」という。これからは選挙制度の改革、イラク戦争反対、環境保護、市民的自由の擁護などの課題に取り組む。すでに、2004年11月選挙の不正を調査するための署名を40万人も集めている。さらにゴンザレス司法長官の任命にも反対している。

 問題はこれら反ブッシュの草の根の運動は、今後4年間のブッシュ政権、上下議会は共和党が多数派をとっている、という現実を前に、議会制民主主義の手法では、せいぜい2006年の中間選挙をめざすことしか、運動の展開の仕様がないことだ。
 当然のことながら、「これら巨大な反ブッシュ勢力の運動のはけ口は、街頭に吐き出されるだろう」というのがSabato教授の推論である。直接民主主義の時代に入る。 
たしかに米国は新しい政治的高揚期を迎えている。しかし、これは1960年代の再来だという見方をするのは間違っている。