世界の底流  
NAFTAが憲法違反として高裁に告訴される
2005年8月15日


 7月28日、米国議会は、217対215の僅差で、米国と中米諸国との間に自由貿易地域協定(CAFTA)批准した。これは、1990年、米国とカナダ、メキシコとの間に締結された北米自由貿易協定(NAFTA)をモデルにしたものである。
 しかし、今度は、NAFTAの身内から重大な挑戦を受けたのであった。加盟国のカナダの巨大なNGO「カナダ人評議会(Council of Canadians)」とカナダ郵便労組(CUPW)が共同で、今年1月24日、オンタリオ高裁に対して、NAFTA第11条が「憲法違反」であるとして提訴したのであった。これは国際貿易のルールが憲法に違反しているかどうかが問われることになり、このようなことはカナダでははじめてのことであった。
 NAFTA第11条は、外国企業が、その投資先の政府の政策によって不当に差別されているとして、当該政府を告訴する権利を認めているものであって、NAFTAの諸条項の中では最も異例な、しかも危険な箇所であり、カナダの国家主権侵害であり、カナダ市民の安全を脅かす部分であるとされてきた。このような外国投資家がその企業利益追求において投資先の国家主権を踏みにじってもよいとする協定は国際法上の不法である。
 NAFTAが施行されて以来10年間、これまで、外国企業とカナダ政府の間に10件の裁判が起こっている。その10件すべてが米企業によって起こされたものである。たとえば、多国籍企業から環境を規制する法律、有害廃棄物の輸出禁止法、地方政府の土地使用規制法、カナダの水を保護する法律などカナダ政府が公共の福祉のために規制してきた法律、さらに、カナダの陪審制度や上告制度などが「差別的である」として告訴されたのであった。この中で、すでに2件が結審しており、いずれもカナダ政府の敗訴に終わっている。
 カナダの郵便事業は国営である。このほど、米企業UPS社はカナダ政府がこのことによって不公平な競争制度を許しているとして告訴したのであった。UPS社は、カナダ国営郵便(カナダ・ポスト)がNAFTAの第11条に違反しているとした。これは、NAFTAがいかにカナダ市民の利益に対して企業の利益を優先させているかということの最も典型的な例になっている。これはカナダ・ポストだけの問題に留まるものではなく、教育、保健衛生などすべての公共サービスが告訴の対象になるということを示唆している。
 オンタリオ高裁では、カナダ人評議会とCUPWは、NAFTAの条項がNAFTA加盟国の法律に優先することは、憲法違反であると主張していく予定である。
 NAFTAの法的正当性が問題にされたのははじめての事例である。
 そして、現在、日本で政治的争点になっている郵政民営化の議論において、十分に考慮すべき事項である。