世界の底流  
ドイツ連邦行政裁判所がイラク戦争は国際法違反の判決
2005年10月3日

  ドイツ連邦行政裁判所は米国とその同盟国によるイラク攻撃は侵略戦争であり、国際法に違反しているという判決を下した。同時に、慎重にではあるが、ドイツ連邦政府は公式にはイラク戦争に対して反対の意を示しているが、一方では、なんら法的な根拠なしに、イラク侵略に協力していると、判決文の中で述べた。
  この判決はすでに3ヵ月前に書かれたものだが、文書として公表されたのは、9月に入ってのことであった。判決文は130ページに及ぶものであった。
  この法廷は、1人のドイツ軍将校の訴えによるものであった。彼は、48歳で、軍のコンピューターのプログラム開発に携わっていた。イラク戦争が始まると、違法な戦争に加担するとして、上官の命令に従うことを拒否した。最初彼は、従軍牧師と軍医に面会を求め、イラク戦争が国際法に違反していることを訴えた。しかし、軍医は彼を軍の精神病院に送った。しかし、精神科医は何の病名も見出すことができなかった。これはまさにフランツ・カフカの小説の世界であり、スターリン時代のソ連の反政府分子に対する扱いを思い起こさせるものである。
  次に、彼の上官は、彼を軍の法律顧問の下に送った。その法律顧問は「このケースは不名誉除隊か、または降格になる」と脅かした。しかし彼が法律顧問に対して、戦争の違法性を主張したので、このケースを国防省に送った。
  国防省は文書でもって、「ドイツ政府はイラク戦争に反対したが、ドイツがNATOの一員である以上、また国連安保理決議1441号に基づき、米国と英国に対してドイツの空域と米軍基地の使用を認めざるを得ない」と述べた。しかし、同時に国防省は、この安保理決議1441号は、「イラクに対して大量破壊兵器を廃棄したことを証明しなければ重大な結果をもたらす」と脅したものであって、この「重大な結果」の意味は、イラクに対して軍事力を行使するには、「もう1つの安保理決議を必要とする」というのが、同省の解釈であると、述べている。
  この将校は国防省の解釈を認めず、命令に従うことを拒否し続けたので、彼は少佐の位から大尉に降格された上、軍は彼を軍規律に対する不服従の罪で起訴したのであった。
  そして、ついに、ドイツ連邦行政裁判所は、軍と政府の主張を退け、却下の判決を下したのであった。
  第2次大戦後、ドイツの再軍備に対するヨーロッパの世論が厳しかったことと、さらに1950年代のドイツ軍には旧ナチ党員が多くいたことから、ドイツ軍にはさまざまな民主的な縛りがかけられた。その中には、人間の尊厳、ドイツ憲法、国際法などに違反するときは軍の命令に従わない権利が兵隊に与えられている。
  ドイツ憲法裁判所はしばしばこのようなケースについて、明確な判決を下すのを避けてきた。しかし、今回のケースはイラク戦争の国際法違反性とドイツ政府の協力という重大な問題であったので避けて通ることが出来なかった。
 連邦行政裁判所の判決文の中には、「国連憲章第4条第2項により、他国に対する重大な脅威、並びに軍事力の行使は侵略行為である」とし、これに対する例外は、「国連安保理の決議と自衛のため」の2つである。イラク戦争はこのいずれにも該当しない、述べた。
 しかも、判決文には、1990年、米国自身が提案した安保理決議678号はイラクのクエートからの撤退を要求したもので、1991年の決議687号も撤退が完了したことを認めたものであったとし、さらにこの決議には、イラクが毒ガス、生物兵器を使用した場合、「重大な結果をもたらす」と書いてあった、という。さらに国際テロからも明確な距離をおくことを要求したのであった。イラクはこの決議を認めたと、書かれてあった。
  また判決文は1991年の安保理決議707号は、イラクに対する湾岸戦争の休戦が破られているとも、破棄されたとも書いていない、と言っている。それ以後のいかなる国連決議にもイラクに対する軍事作戦を容認するものでない、とも書かれている。
  次に米国と英国のイラク戦争の正当化に使われている2002年11月8日の安保理決議1441号であるが、判決には、国連兵器査察官ハンズ・ブリックスとモハメッド・エルバラダイに対して、イラクが協力を欠いた場合、国連に報告するように求めたものであり、それを受けて国連がどのような措置をとるかについては、オープンになっており、間違いなくこれは安保理にかかっていた、と述べている。国連憲章に基づいて、いかなる軍事行為を容認するものではなかった、そして、「重大な結果」とは一般的な警告であると解釈すると判決文は書いている。
一方、判決文には、米国と英国がこの決議をどのように解釈するかについては関知するものでない、と述べている。
  判決文でとくに重要な点は、しばしばドイツの戦争協力が国際法違反である述べているところにある。ドイツ連邦議会の特別委員会が2003年1月2日に発表した報告書に、「国連決議はイラクにたいする軍事攻撃を合法化するものではない」とある点である。これをドイツ連邦政府の閣僚、とくにシュレーダー首相が読んでいないはずはない、さらに米国と英国が国連安保理に送った書簡には、自衛権を行使しなければならない理由がどこにも書いていない、と判決文にはあった。
とくに判決文は、詳しくドイツの基地提供行為について言及している。「不法な軍事行動にたいする協力は、戦闘行為に参加することだけにとどまらない。それは他の手段によってもある。攻撃に対する支持行為も、国際法上では攻撃と見なされる。これは不法な戦争の準備行為を禁じているドイツ憲法第26条に違反する。判決文には、ドイツが尊重しなければならない国際法として、1974年12月14日の国連総会決議3314号、国連国際法委員会の諸決議、1907年ハーグ条約以来の国際諸条約を挙げている。
  最後にドイツがその領土を軍隊や軍事物資の移動に使用を許している点について、ハーグ条約には空陸海のすべての領土を侵略の軍隊の移動に使用させることを禁じており、さらにこれはドイツ憲法第25条に違反している、と述べている。
  ドイツ政府がNATOの一員としての義務をあげていることに対して、NATO条約には、加盟国の侵略行為に協力することを強制していないこと、さらに国際法に違反した加盟国を援助することを強制していない、と述べている。NATO条約は国連憲章の枠の中にある。 
  さらに判決文は、NATOの加盟国が支援できるのは、NATO加盟国の領土内の武力紛争の時に限定されると述べている。しかも1949年に米国の要請で追加された条項には、NATO協定の義務は加盟国の憲法に違反する場合は当てはまらないことになっている、と述べている。ドイツ政府はドイツ憲法第20条第3項により政治的な理由で戦争を支援する権利がない、と判決文は述べている。