世界の底流  
すでにイラクは米国の植民地になっている
2005年7月3日

 

1.米占領軍が発布した法令
 米軍の軍事攻撃により、イラクの産業は完全に破壊された。とくに人びとの日常生活に必要な電気、水道、ガス、電話などのインフラ、さらに家屋までも破壊された。イラク経済は、まさに1945年の日本の状況に比しい状況にある。
 占領軍が取り組まねばならなかった任務は、このように戦争によって破壊された人びとの生活に必要なインフラの復興であり、治安の維持であった。ところが、現実には占領軍は石油施設の修復を除いては、ほとんどインフラの復興に手をつけなかった。もちろん、治安に関しては、占領とともに急激に悪化している。
 03年5月の米軍の占領から翌04年6月のイラク人への主権委譲にいたる約1年余りの間に、ポール・ブレマー暫定行政当局(CPA)行政官は、100回のCPA法令を発令した。この中には、政治とともに重要な経済政策が含まれていた。そのほとんどはブッシュ政権が唱えるイラクの民主化とは縁もゆかりもない。これら法令の主要な目的は、半永久的に、イラクの石油を独占し、米国の植民地にすることにある。
 たとえば、CPA令第39号には、(1)イラクの国営企業200社を民営化する、(2)外資がイラク企業を100%所有することを認める、(3)外国企業をイラク企業と同等の扱いにする(4)米企業がイラク国内で得た利潤を100%国外に送金することを認める (5)外国企業に40年の営業権を与える、などであった。つまり、外国資本の完全な自由化である。このようなことは現在、ほとんどの途上国政府が認めていないものである。  
 途上国政府は、開発途上にある自国の産業を育成しなければならないので、無制限な外国資本の投資と営業活動を認めることが出来ない。世界で第2位の経済大国である日本でさえも、さまざまな形で外国企業の参入を制限しているのが現状である。
 CPA令第49号では、企業の法人税の最高を15%に制限した。また企業の利潤にかかっていた40%の税率を15%に引き下げた。これは企業にとっては破格の優遇措置である。日本でさえ、企業は利潤の50%を税金として納めている。現在のところ、イラクでは米軍の基地建設プロジェクトなどビジネスチャンスはあるが、これらは米企業が優先されていて、イラク人企業には発注されない。つまり、法人税の引き下げの恩恵を受けるのは米企業ということになる。
 これまでイラクでは銀行はすべて国営であった。しかし、法令第40号によって、外資が50%参入できることになった。これは実質的な民営化であり、外国銀行資本による乗っ取りである。
 第17号では、イラクで営業する外国企業(治安管理の民間企業を含む)は、イラク国内法の適応から除外された。これは、米治安管理会社のガードマンがイラク人を殺しても、米企業が公害を垂れ流しても、イラク警察は犯人を逮捕できないし、裁判にかけることも出来ない。日本国内の米軍基地で起こっていることと全く同じである。犯人は米国の裁判所で米国の法律によって裁かれることになる。
 イラクの経済復興がまったくはじまっていないにもかかわらず、03年6月7日、ブレマー行政官は早々と第12令で、イラクに入ってくる、あるいは出て行く商品には、関税、輸入税、ライセンス料その他のすべてをかけないことになった。これはイラクが香港のような自由貿易地域になったことになる。その結果、イラク国内には大量の消費物資が流入した。人びとの家庭は、まだ水道も止っており、電気も停電続きの状態なのに、人びとは失業しているのに、マーケットには、外国製の衛星テレビ、携帯電話、エアコン、冷蔵庫などの家電製品(この中には日本製品も多い)が溢れかえっている。これをテレビで見た外国の人びとには、イラクが復興しているという幻想を与える。しかし、このような外国からの消費物資の流入は、イラクの地場産業を破産に追い込み、さらに復興を妨げている。

2. イラクの石油収入の行方
 イラクは、サウジアラビアに次いで、世界第2位の石油埋蔵国である。この石油収入に関しては、国連安保理決議第1483号で、「イラク開発基金(DFI)」が設置され、ここに入れられることになった。これがイラク政府の唯一の収入になる筈であった。そしてDFIは、04年6月の主権委譲までの1年余りの期間、CPAの管理下に置かれた。
 しかし、米国の民間研究機関『フォーリンポリシィ・イン・フォーカス』2004年7月号によると、イラクの石油収入は、少なくとも年間180億ドルにのぼるのだが、そのうちの130億ドルをCPA、つまり米軍の占領費用に使われてしまったという。
 例えば、バグダッドの米大使館の費用もこれで賄われた。しかも米大使館の職員の数は1,500人にのぼる。これは、米大使館のなかでも最大だが、さらに世界各国の大使館のなかでも最大規模のものである。このような贅沢が許されたのは、イラクの石油収入を米占領軍が思いのままに使うことが出来たからであった。
 さらに同誌は、占領期間中、米軍基地などの建設を受注した米企業の手にDFIから83億ドルが充てられた、と述べている。                    
 ワシントンに本部がある「オープンソサイエティ研究所OSI)」は、04年12月、米議会内に置かれている会計監察院が、「CPA時代には、イラクの石油収入のうち、少なくとも40億ドルが使途不明金になっている」と発表した、と述べている。その1例として、CPAは1件あたり3億3,900万ドルもの大型プロジェクトを、オープン入札なしに、米ハリバートン社に発注したことを挙げている。監査院によると、このような入札制度を使わないで発注されたプロジェクトは、全体の73%にのぼると報告されている。
 権限委譲後も、また選挙後の暫定議会と移行政府が成立した以後、さらに、新憲法制定以後イラクに正統政府が誕生した後でも、このような米国のイラク実質支配は変わらない。というのは、すでにCPA第57号によって、03年から5年間、イラクのすべての省庁に米人監督官が配置され、監督、観察、政策策定、公務員の雇用、文書へのアクセスなどすべての権限を保証されることになっている。そのために、すでに200人の米国人監督官が配置されている。これは、少なくとも、この5年間、イラクが米軍の占領下に置かれ、経済は完全に米国の植民地になることを意味する。
 このCPAの法令は、占領軍による被占領国の法律の改正を禁じた1907年のハーグ条約に違反している。米国は1949年のジュネーブ条約とともに、このハーグ条約を批准している。それゆえ、米国は自ら締結した国際条約に違反している。