世界の底流  
為替取引税(CTT)導入の時代に入る
2005年1月20日


 昨年(2004年)、国際政治の舞台では、これまで米国の強硬な反対を受けたためにタブー視されてきた「為替取引税(CTT、別名トービン税)」が、にわかに脚光を浴びてきた。 
 とくに、国連では「CTT」という用語さえ禁句とされ、代わりに「革新的な資金源(Innovative Financial Resources)」などと言い換えられてきた。(2002年3月国連開発金融会議「モンテレイ合意」など)
 それが、一転して、CTTの導入が国家首脳の口から語られるようになったのだ。この1年間のCTTをめぐる動きを簡単に列挙する。

1)アナン事務総長の提案
 まず、最初に、昨年1月、ジュネーブで、国連アナン事務総長がフランス、ブラジル、チリの大統領と会い、「ミレニアム開発ゴール(MDG)」達成をめざして「革新的な資金源」を確保するための「行動プログラム」を開始することに合意した。そのための「技術的なチーム」が設置された。その任務は、CTT(為替取引)を始めとして、武器取引税、社会的に責任のある投資(SRI)、環境税などの導入の可能性をはかるというものであった。
 同時のこのチームは、英国が提案していた、これら税を途上国に配分するメカニズムとしての「国際金融ファシリティ(基金)」の創設についても検討することになっていた。
 そのチームの責任者にはコロンビア大学のジェフリー・サックス教授が就任し、報告書は、最近発表された。日本では、「(安保理の常任理事国入りするためには)ODAを増やさなければならない、と書かれている」というトンチンカンな紹介をされているが、ODAに関しては、「MDGを達成するためには、現在の額を倍増しなければならない」と書かれているのである。

2)ベルギー議会の決議
 2004年7月1日、ベルギー議会は、CTT導入を規定した「Tobin−Spahn法」を採択した。

3)フランス
 2004年8月、フランスで「Landau 報告」が発表された。これは、シラク大統領に研究を委託された報告書で、CTTの導入を肯定したものであった。

4)ルラーシラク・イニシアティブ
 2004年9月20日、国連総会で、ブラジルのルラ大統領とフランスのシラク大統領は共同して「飢餓と貧困根絶行動」の開始を呼びかけた。これは飢餓と貧困根絶のための新しい資金メカニズムについての「ルラーシラク・イニシアチブ」と呼ばれる。その資金源の第1に上げられていたのが、CTTであった。
 これは国際政治でCTTの導入について言及されたものとしては、最も高いレベルのものである。

5)世界開発経済研究所(WIDER)の報告書の発表
 2004年9月の国連総会では、国連大学の世界開発経済研究所(WIDER)が「開発金融のための新しい資金源について」の報告書を発表した。この中には、CTTの導入が提言された。

 最近、為替取引の額が急増している。2004年4月には、国際決済銀行(BIS)の発表によると、1日の取引額が1兆8,800億ドルに達した。これは、2001年のレベルを57%も上回っている。その結果、僅かな率の課税でも莫大な資金が調達できる。
 人によって、さまざまな計算がなされている。しかし、CTTを0.001〜0.002%というごく薄い課税率にしたとしても、WIDER報告書のA.B.Atkinsonの計算では、年間に150億ドル、英国の協同組合銀行の委託を受けてTobin Tax Network のSony Kapoorが出した計算では200億ドルの資金が調達できるとしている。

 CTTの国際キャンペーンは、英国のTobin Tax Network のように英国のポンドの為替取引、あるいは、EUROレベルの取引に課税するために、EU議会やヨーロッパ中央銀行にロビイする「ヨーロッパ・キャンペーン」と、フランスのATTACがシラクのイニシアティブに呼応したCTTだけでなく諸種の国際税の導入を含めた「グローバル・キャンペーン」という2つの潮流がある。グローバルなものには、国際CTT会議の開催の呼びかけや、そこで「国際CTT協定」を採択するというものもある。CTT協定の草案は、NIGD(Network Institute for Global Democratization)のHeikki PotamakiとLieven Denysが起草したものがある。
 これらは、2004年11月、ロンドンで開かれたヨーロッパ社会フォーラムで、Tobin Tax Network、ATTACフランス、ドイツのWEED,ATTACイタリー、ATTACスエーデン、NIGDなどの間で議論されたものである。