世界の底流  
イラクからの5段階米軍撤退の提案
2004年12月27日


 米国左翼のシンクタンクであるワシントンの「政策研究所(IPS)」の研究員で、Foreign Policy in Focusプロジェクトを担当しているErik Leaverが2004年12月15日に「米軍のイラクからの責任ある5段階の撤退」案を発表した。以下はその抄訳である。

 ブッシュ政権や多くの議員は、イラクを今のような混乱のまま撤退することは出来ない、と主張している。一方、米軍の作戦や政策こそが暴力と不安定化をもたらしているというのも事実である。
 今こそ、ブッシュ政権が、国際法の下で米国の責務をはたし、治安を回復し、米軍の責任ある撤退を行うべき時が来たようだ。
 問題の核心は、米軍は米軍自身が作り出したカオスの中にイラクを置き去りにすべきでないということである。しかし、米軍による占領が続けばより一層の犠牲者を生みだし、国家の分裂を深め、再建を困難にするという事実を認めるべきである。
 2004年6月28日、イラク人に主権が委譲されて以来6ヵ月間に、米軍の占領による人的被害はドラマチックに増えた。米軍の戦死者の数は1,200人に達した。Lancetによる調査では、米軍の占領と戦闘によるイラク人の死者の数は10万人にのぼる。ノルウエーの調査、国連、そしてイラク政府などは、米軍のイラク侵略以来、イラクの栄養失調の幼児は2倍に増えているという報告を行っている。そして病院を破壊した結果、怪我人や病人の数は、死者の数をはるかに上回っているという。
 このような状況は当分のところ良くなる兆しはない。ブッシュ政権は選挙を施行することとイラク人に治安を委ねるという2面の政策を出しているが、これは正しいことのように見える。しかし、これはいくつかの理由によりすでに失敗している。米軍占領下に米軍が作成したルールによって行われる選挙は、イラク国内のみならず、国際的にも正当性を欠く。さらに、国連の選挙管理人が不在なこと、戦闘が続いていること、また米軍に守られた投票所が攻撃のターゲットになるであろうということなど、1月に予定された選挙は自由で、かつ公正であるという保証はない。
 イラク人は自分自身で治安を確保すべきである。しかし、イラク警察と国家警備隊はイラク人の治安を確保できていないし、ますます悪くなる状況である。米占領軍の協力者、あるいは近いと見なされた者が危険に晒されているという状況の下で、イラクの治安部隊は戦わねばならない。同時にイラク人兵士も警察もろくに訓練されていない。それを証明するのは死者の数である。イラク治安部隊にリクルートされた1,500人のうち、750人が死んでいる。米軍がイラクにとどまる限り、イラク人治安部隊は戦うことが出来ない。
 有志連合の上級顧問であったLarry Diamondは、この問題について「良い選択肢はない」と言っている。しかし、現在の政策よりも良い選択肢はある。以下に述べる5段階の撤退案はイラクの暴力と不安定をなくすだろう。

1) 駐留米軍と攻撃作戦の数を減少させる

 完全な撤退への第一段階として、米軍は即時停戦を宣言し、イラクに派兵している軍隊の数を減らす。しかし、ブッシュ政権は、12,000人を増兵するというまさに反対の行動をとっている。攻撃作戦を激化することは暴力をエスカレートするだけであり、イラクを不安定化するだけである。米軍は主要都市から撤退し、それを、外国の戦士や資金が流入しないように国境を警護すべきである。イラク人治安部隊が人手不足ならば、サウジアラビアが提案しているようなアラブ地域の軍隊を派兵すべきである。サダム・フセイン派であった一部高級将校を追放し、現在のゲリラ戦に対抗できるように訓練した後で、旧イラク国軍を再雇用するべきである。
 これらが実施されれば、全面撤退を可能にするだろう。

2) 米軍はイラクに恒常的、かつ長期間にわたって軍隊や基地を駐留させる意図がないことを宣言する

 米議会は、イラクから米軍が責任のある撤退をするという原則を公約すべきである。これを議会決議として採択することによって、米国が中東の石油を支配し、イスラム教徒を抑圧する意図がないことを明確にできるわけで、これにようって、ゲリラ勢力を封じ込めることが出来る。このような議会決議なしには、米軍がイラクを永久占領するものでないことをイラク人に信用させることはできない。

3) 復興作業をもっと行う

 イラクの復興事業の管轄を国防省から国務省に移す。国防省は国家再建事業からほど遠い戦争をするための官庁である。しかし、これだけではイラク人に対するメッセージとしては弱い。イラク人自身に復興の事業を任せるべきである。米軍の委託業者はイラクの公共サービス、公共治安、政府機関の強化、雇用の確保に失敗している。一方、数十億ドルの資金が使われないまま残っている。イラク人に復興資金の管理を任せることによって、イラク人の雇用が確保され、イラク人のニーズにあうプロジェクトが生まれるだろう。失業を解消すれば、ゲリラに参加する人も減るだろう。

4) 総選挙を延期し、代わりに地方選挙を行う

 主として戦闘がスンニー地域に集中していることから、1月の選挙が自由で公正に行われる保証は少ない。この事実を認識して、米国は総選挙を延期し、イラク人による地方選挙を行うべきである。これまでイラク人に地方政府の権限を任されていない。たとえば、イラクの石油の輸出によって生じている資金は地方政府には来ていない。さらに、地方にいくら予算が必要なのか、復興プロジェクトの優先順位、どのサービスを行うべきかなどを中央政府に要請することが出来ない。地方政府に支出の権限を委譲すべきである。
 地方選挙が行われ、スンニー派に政治プロセスに入ることを保証できれば、そして米国が撤退することを表明すれば、総選挙は可能となるであろう。

5) イラク戦争の戦費支出に条件をつける

 これまで、米国はイラク戦争に1,510億ドルを使った。軍隊を維持する費用は必要であるだろう。しかし、最近行われたラムズフェルト国防長官と兵士たちとのやり取りを見ると、ブッシュ政権の最優先課題は軍の安全にはないようだ。米議会は、700〜1,000億ドルといわれる追加予算の審議に際して、米国のイラク政策決定の権限を行使すべきである。同時に、議員たちは莫大な無駄、横領と虐待を生み出しているとほうもない戦争特需にブレーキをかけるべきである。そのことによって、現在のような独占契約、莫大な水増し請求、ハリバートンやベクテルに与えられた数十億ドル級の契約などがなくなるだろう。最後に、米軍はイラク人を多数雇っていない会社との契約を破棄すべきである。

 現在の米国の対イラク政策は、アメリカ人、イラク駐留の米軍、そそて、米国が解放すべき人びとにとってあまりにも人的、金銭的に負担が多い。より深刻なことは、イラクの安定と治安を向上させていないことである。以上の5段階のプログラムは米国とイラク人にとって野心的な解決方法となるだろう。