世界の底流  
パドア国際セミナー「国連改革について」
2004年11月29日


 2005年1月、ポルトアレグレでの第5回世界社会フォーラム(WSF)は、これまでとは全く異なったやり方で開かれることになった。第4回までは、主催国の実行委員会によるグローバルなテーマの全体会議と参加団体が独自に開催するワークショップやシンポジウムという2本立てであった。全体会議は、数千から数万人が参加して、壇上から招待されたパネリストたちがグローバリゼーションに関した諸テーマについてスピーチをするというシンポジウム形式のものであった。それに対して、ワークショップやシンポジウムは50人〜500人規模のものが多く、あらゆるテーマで議論が交わされてきた。
 WSFは「出会いの場(Meeting Space)」であるという規定から、全体会議もワークショップも、結論もなく、報告もなく終わってきた。
 ムンバイ以後開かれた国際評議会(IC)では、「WSFでは、反グローバリゼーションを単なるスローガンのレベルにとどめるのではなく、市民社会の側からのオルターナティブが提起されるべきである」という意見が出てきた。これは「Anti-globalizationでなくAlter-globalization」という表現で語られている。
 そこで、第5回のポルトアレグレのWSFは、テーマを「グローバル・ガバナンス」、「戦争と暴力」など5〜6の主要なテーマにしぼり、参加団体が企画するワークショップやシンポジウム、セミナー(その違いは会議の規模による)をなるべく重複しないように調整、合併し、テーマ別にいくつかのブロックをつくる。このブロックの中で、毎日、それぞれの会合の結論を報告しあい、結論を出していくということになった。
 しかし、テーマ別ブロックにしても、その1つ1つが国際会議のテーマとなるような大きなものであるので、わずか4日間で、しかも何万人もが集まるWSFで、1つ1つのテーマについて結論がやすやすと出るはずがない。
これらテーマの中で、最も緊急にまとめなければならないのは、2005年9月の国連ミレニアム+5サミットの議題であるグローバル・ガバナンスである。そこで、グローバル・ガバナンスをテーマにしたワークショップ、セミナーをWSF前に各地で開いて、WSFでの議論に提出する文書を作っていくことになった。
 その1つとして、2004年11月19〜20日、イタリアのPeace Roundtableという組織が主催して、イタリアのパドアで、「国連を取り戻せ」というテーマで国連改革、グローバル・ガバナンスに関する国際セミナーが開催された。
 ここには、WSFのICのメンバー40人と37の国際組織を含めて、600人が参加した。その結論は、来年1月のWSFに議論の基礎文書として提出される。
 パドアでは、「世界議会」や「世界憲法」といった新しい国際組織の設立も提起されたが、議論は会議のタイトルにあるように、国連の改革問題に集中した。これに関連して、現在国連の機能をハイジャックしているネオリベラルなIMF、世銀、WTOの問題も議論された。

以下はパドア会議で合意した「作業文書」の抄訳である。


「国連を取り戻せ」国際セミナー作業文書
パドア、2004年11月19〜20日

1. ユニラテラリズムは世界にカオス、戦争、テロリズム、貧困の増大、治安の悪化、不正義、環境破壊をもたらす。そのオルターナティブはマルチラテラリズムであるが、これは単に1つの選択肢ではなく、むしろ不可欠なものである。
2. 国連は今日存在するマルチラテラリズムの最高の機関である。これは多くの制約があり、大国によってハイジャックされているとはいえ、今日ある唯一のものである。
3. 人類に課せられた挑戦はグローバルなものであり、グローバルな解決が要求される。191カ国が加盟している今日の国連は、人々が世界平和、社会正義、その憲章のめざすものを獲得できる世界大のフォーラムである。
4. 国連の弱体化は、実は政府が国連決議を実施しないことである。これは、国際法にもとづく世界秩序に対する重大な攻撃である。その結果、国連に、経済権力、規制緩和、民営化、人々の権利やニーズの侵害といったネオリベラルなぐローバリゼーション戦略の導入を許すことになっている。
5. 過去10年間、グローバルな市民社会が台頭し、それが新たしいアクターになっている。多くの人びとや組織が、戦争、ネオリベラルなグローバリゼーション、ユニラテラリズムに反対し、民主的な、正義の世界秩序を要求して立ち上がった。人びとは国際機関の活動と権力に挑戦し、平和、安全保障、人権、腐敗一掃、社会経済権利、持続可能な環境などについてのオルターナティブを提起している。
6. 国連が60周年を迎えるに当たり、これら市民社会が不能化した政府にとってかわり、国連をより民主的、有効なものにするラディカルな改革を提起している。
7.今日、これらの動きはより広い規模で、より効果的な戦略で、幅広い参加と多様な経験と展望をもって、新しいコンセンサスを生みだしている。それを担っているのは、グローバルな政策決定から疎外されている人びと、草の根の人びと、市民社会組織、NGO、国内国際ネットワーク、労働組合、宗教界、移住労働者、難民、地方政府などである。
8.これまで政府間で国連改革について多くの時間が費やされてきたが、結論はない。真の改革には、女性、環境運動家、先住民、人権活動家など市民社会のすべてのセクターをグローバルに動員しなければならない。
9.この戦略は以下に要約される;

―「予防の、かつ終わりのない戦争」戦略とユニラテラリズムに反対する
―国際法、人権、多国間主義秩序にもとづいた国連を取り戻し、再活性化させる
―国連を民主化する、地方政府、議会、そして社会、エスニック、ジェンダー、など多様性を代表する市民社会に門戸を開く
―国連がそのマンデートを実施するための資金を保証する、戦争を予防し、戦争の原因を根絶する、人権、グローバルなルール、国際正義を推進する、経済的、社会的、環境的な課題をコントロールする力を回復する、IMF,世銀、WTOが国連の原則と協定に従わせる
―軍縮を促進する、核兵器と大量破壊兵器を禁止する
―紛争を予防し、民間人を守り、人道的な破滅に対応する

10.この戦略が成功していることはすでに実証されている。たとえば2003年2月15日、2004年3月20日のイラク戦争に反対するデモは、グローバル市民社会の力を示した。多くの政府がマルチラテラリズムの重要性に関心を示したということもその証拠である。
11.この戦略は様々レベルで展開される。国内レベルでの闘いと国際的なレベルでの闘いとは矛盾するものではない。国際機関がより民主的になれば、それは国内やローカルなレベルでの闘いにも貢献するだろう。地方自治の原則を確立することにつながる。
12.この戦略は、市民社会と社会運動のなかで教育キャンペーンやコミュニケーションを通じて、下から積み上げていく。またこの戦略は、国際機関のなかであらゆる機会をとらえて民主化と参加を要求していく。
13.市民社会は、国連と国際機関の活動を詳細にモニターするべきである。国際機関についてのグローバルな監視団を、研究し、設立する。これは世界人権宣言にもとづいて、国連が活動しているかどうか定期的に評価するものである。
14.2005年は、国連改革のキャンペーンにとってローカルにもグローバルにもターニング・ポイントである。2005年秋にニューヨークの国連で開催されるサミットの前日を「民主主義、自由、平和のため、そしてすべての原理主義と戦争に反対するためのグローバルな行動デー」にするよう呼びかける。このサミットはミレニアム開発ゴールの実施と国連改革をレビューすることになっている。
15.パドア国際セミナーの参加者は、来る世界社会フォーラムにおいても、この問題についてのダイアローグと動員を続ける。2005年1月ポルトアレグレの世界社会フォーラムでは11部会において、セミナーを開く予定である。また2005年の行動計画を議論するセミナーも開かれる。また国連の将来を議論する公開の会議も開催する。また他の部会でも共通する問題としてより民主的な世界秩序の樹立について議論するよう呼びかける。

(以下の項目は時間の関係で十分に議論することが出来なかった)

16.国連改革と民主化については、すでに市民社会がこれまでの10年間にさまざまな提案活動を行ってきた。しかし、政府も国際機関も全く取り上げてこなかった。今日、国際機関の改革については、具体的な提案がなされている。これを今後動員していく際に考慮すべきである。
17.国連制度はより民主的、代表性、そしてアカウンタブルであるべきである。改革のプロセスには市民社会、地方政府、議会などといった重要なアクターを参加させなければならない。
18.そのような戦略の基本は人間の安全保障を国連の使命の中心に置くべきである。改革もそのような目的に沿ったものでなければならない。
19.人間の安全保障には経済、社会、法律の諸分野が含まれる。国連はこのような線に沿って改革されるべきである。国際金融、貿易、社会的条件、労働、環境を規制するルールと機構を統括する力を取り戻さねばならない。
20.経済社会理事会の改革と同時に、人間の安全保障と開発理事会の創設を検討する。これはグローバリゼーションのガバナンスとIMF、世銀、WTO、多国籍企業のコントロールの武器である。
21.国連を代表する組織として、総会を中心に据え、強化し、民主化する。
22.現在の安保理事会の体制は受け入れ難い。その構成、活動、無制限な拒否権は民主主義と人間の安全保障とは、相容れないものがある。
23.国連改革は、大国が支配しない新たな金融秩序の確立と、所在地と機能の集中排除を含むものである。
24.長い間、国連は、アカウンタビリティのない政府に牛耳られてきた。国連は人びとを代表する新しいアクターの参加をもって民主化に取り組まねばならない。市民社会の参加を促進すべきであるし、その声と役割を強化すべきである。すべての国連機関は市民社会の関与と参加を実現すべきである。
25.地方政府はより住民に密着している。したがって、その役割を認め、エンパウアーされるべきである。
26.国連を民主化する手段として、議員の参加を促進するべきである。
27.国連における市民社会の参加の良い例として、国際刑事裁判所の創設、国内レベルでの国際法の適応化、国連の人権や人道機関の創設などが挙げられる。それらの権限を拡大すべきである。