世界の底流  
「G20」の出現は1970年代の再来か?
2004年6月4日


2003年9月、メキシコのカンクンで開催された第5回WTO閣僚会議は、農業と投資問題をめぐって先進国と途上国が激しく対立し、ついに流会に終わった。このような事態をもたらしたのには、「G20」と呼ばれる新しい途上国のグループの誕生があったといわれる。

では、「G20」とは何か?その名の由来は、2003年8月20日、ジュネーブのWTO本部においてカンクン閣僚会議の準備交渉中にグループが誕生したところから付けられたあだ名である。同時に、このグループに参加した国がブラジル、インド、中国、南アフリカなどといった途上国の中でもメジャーな国が20カ国であったということもある。しかし、カンクン会議中に新たにインドネシアとナイジェリアの2カ国が加わり、「G20プラス」と呼ばれた。しかしカンクン以後、米国の圧力によりエルサルバドル、ペルー、グアテマラ、コロンビアなどがグループから脱落したため、20カ国のグループという意味合いは薄れてしまった。そのため、ブラジル、インド、中国、南アフリカの4カ国にプラスしたグループという意味で「G4プラス」と呼ばれることもある。

G20は、結成以来一貫して、WTOの農業交渉において、(1)先進国の農産物市場を開放すること、(2)先進国が農産物の輸出補助金を撤廃すること、(3)事実上の輸出補助金となっている先進国の農業支援政策の廃止、を要求している。カンクンでは、このG20の要求について、農業協定草案の実質的な審議がはじまる前に、投資問題をめぐって会議が流会になってしまったため、実際にG20の影響力がどのようなものであることかについて、検証されることはなかった。

しかし、G20の出現が、WTOにおける南北の力関係を大きく変えたことは確かである。
WTOは、1995年の誕生以来、米国とEUが指導権を握り、1999年11月のシアトル第3回閣僚会議において、はじめて途上国が団結して、会議を流会に追い込んだのであった。しかし、これは、南北間の力関係を変えるところではなかった。

今回カンクンで起こったことは、先進国に対して途上国側の組織だった抵抗が明確に見られたことが特徴であった。これは、1970年代の再来を思わせるものがあった。1974年、途上国は国連総会において、G77として団結し、「新国際経済秩序の確立」を要求し、決議として採択した。また天然資源が途上国の国家の主権の下にあることを確認するよう先進国に要求した。さらに多国籍企業の活動の規制を求め、国連内に多国籍企業センターが樹立された。

当時の途上国のG77のリーダーはアルジェリア、タンザニアといったアフリカ勢が多数派であった。しかし、今回、G20として米国とEUという巨人に立ち向かっているのは、ブラジル、インド、中国、南アフリカと3大陸にまたがった途上国の中の農業大国である。ここが、1970年代と決定的に違うところである。

途上国の農業は破産に瀕している。農産物の市場価格は、絶望的なまでに安い。これは、米国やEUが農業に対して、巨額の輸出補助金をはじめ、各種の国内補助金を支出していることに原因がある。

この農産物の価格の低下に最も苦しめられているのは、途上国の農民である。そして、今日では、これら途上国の農民が、「Via Campesina」の例に見られるように、国境を超え、大陸を越えて、グローバルに団結して、WTOと闘っている。Via CampesinaはG20を「WTO交渉を妨害するものとして、戦術的、短期的には支持」しているが、長期的には「所詮は、アグロビジネスの利益を巧妙に代表するものだ」と批判している。

Via Campecinaは、G20のようにWTOの農業協定をよりよいものにするのではなくて、WTOから農業交渉というアジェンダを取り払うべきだと言っている。これは、多くのNGOの立場と同様である。 

G20に対する米国とEUの立場は明確である。それはG20を敵と見なして、分裂をはかっている。それは、これまでにラテンアメリカのいくつかの国がグループから脱落したことによっていくらかの成功をおさめているようだ。しかし、G4という中核の国ぐにの団結を破壊することはできず、結局、EUも米国もカンクン以後、G20と交渉せざるを得ないようだ。

一方、WTOの外側で、G4を中心とした、「南―南協力」が盛んになっている。

たとえば、第1に、インド、ブラジル、南アフリカの3国(IBSAと呼ばれる)が「3極委員会」を結成し、「ニューデリー活動計画」を採択した。これは3国間の貿易と南―南協力を促進することを謳ったものだ。これには、WTOに対する共同のアプローチ、2007年までに現在の貿易額を年間100億ドルまでに倍増するための戦略的協力などが含まれている。

第2に、インドと西アフリカ8カ国との間で、「TEAM−9」と呼ばれる会議を開き、インドが西アフリカ8カ国に対して、5億ドルの借款、技術援助、重要な技術の供与などを約束した。

第3に、IBSA3国はUNDP内に「貧困と飢餓根絶のための信託基金」を設立した。

第4に、インドとブラジルを含むMERCOSURとの間に特恵貿易条約を締結した。

このように、G20の出現は、単にWTO内の南北対決の構造にとどまらず、途上国が主体となった南―南協力という新しいオルターナティブな動きをも生み出している。