世界の底流  
ボリビアとベネズエラの国民投票について
2004年9月24日

ラテンアメリカでは、最近、ポピュリストの大統領の信任を問う国民投票が続けざまにあり、いずれも大統領側の勝利に終わっている。

7月18日には、ボリビアで、8月15日はベネズエラで国民投票が実施された。       

1) ボリビアの国民投票

カルロス・メサ大統領は、天然ガスの開発計画に関連した天然ガスの輸出、天然ガス法の改正など5項目についての国民投票において、投票者数の70%という圧倒的な信任を得た。投票率は50%以上に上った。

ボリビアの天然ガスの埋蔵量は50兆立方フィートと推定される。これは、クエートに次ぐ埋蔵量であって、ラテンアメリカではベネズエラに次ぐものである。その総額は700億ドルといわれる。

メサ大統領は、昨年10月、無血クーデターで政権の座についた。前大統領のゴンザロ・サンチェス・デロサダがボリビアの最も重要な資源である天然ガスを歴史的な宿敵である隣国のチリを通じて輸出したことが、ボリビア人の民族主義を誘発し、大規模な抗議デモが起こり、16人の死者を出した。メサはこの政情不安に乗じてクーデターを起こしたのであった。

この抗議デモは、前大統領のネオリベラルな経済政策に対する反対の意思でもあった。それは1990年代、ラテンアメリカの多くの国と同様、外国投資を奨励し、金持ちに有利な新しい税制度を施行するものであった。これに対する人びとの怒りは最高潮に達し、アルゼンチンなどでは政情不安をもたらした。

サンチェス・デロサダ大統領の下でのボリビアでは、人びとは、なぜ天然ガスの輸出が民間企業を潤すだけで、国庫には入ってこないかのかについて、疑問をもった。さらにチリを通じての輸出は、1879〜1883年の太平洋戦争以来、チリがボリビアの太平洋岸地域を占領して以来、ボリビアは海への出口を失ってきたという恨みがあったため、ボリビア人の民族主義をかきたてた。

メサ大統領は昨年の就任以来、このチリの太平洋岸の問題を全面に出し、この問題の解決なしには、天然ガスのチリ経由での輸出はありえないと主張した。

ボリビア国内でも、天然ガスの開発問題は、埋蔵地帯の東部・南部と貧しい先住民の西部のアンデス高地との間の対立を引き起こしてきた。東部・南部のビジネスのエリートたちは、首都ラパスからのより大きい自治を要求していた。

ボリビアはエクアドルとペルーとともに、ラテンアメリカのなかでも貧しい国である。メサ大統領は、人口の大部分を占める貧しい先住民たちに依拠し、東部・南部のビジネス・エリートによるネオリベラルな経済政策の失敗を利用して、ポピュリスト政策に打って出た。2003年10月の暴力的な反サンチェス・デロサダ大統領反対のデモを組織したのは、貧しい先住民のリーダーたちであった。今度は、メサ大統領の国民投票に対しても、同じ先住民のリーダーが反対のデモを計画していた。そこで、メサは「抗議よりも投票を」と呼びかけた。これはものも見事に成功した。

2) シャベス大統領の勝利に終わったベネズエラの国民投票

ラテンアメリカの中で最もポピュリスト政策をとっているのは、ベネズエラのシャベス大統領である。彼は世界第5の石油産出国であるベネズエラの石油の輸出代金を人口の75%を占める貧困層の貧困根絶計画に投入しており、貧しい人びとの支持を受けていた。

またシャベス大統領は、西半球で唯一、米国の対キューバ制裁に加わらず、国交を持ち、カストロと親しい。

シャベスのこのポピュリスト政策に反対するのは、石油産業に携わるビジネス・エリートや特権化した石油産業の労組指導部であった。彼らは、2年前、シャベスの追放を目指したクーデターを行ったが、3日後には、シャベスは再び大統領に返り咲くという事件が起こった。シャベスの追放を最も喜んだのはブッシュ政権であった。今度のシャベスの信任に対して、最もがっかりしているのもホワイトハウスである。

今回は、エリート側が大統領の罷免を要求する国民投票に必要な300万人の署名を集めた結果、8月15日、国民投票が施行された。結果は罷免反対派が52%を占め、賛成派の42%を上回り、シャベスの勝利に終わった。これでシャベスは残りの2年半の大統領の任期をまっとうできることになった。

シャベス大統領の勝利に対して、アルゼンチン、ブラジル、ボリビア、コロンビア、そしてスペインなどから即座に祝電が寄せられた。