世界の底流  
アフリカの医師・看護師の頭脳輸出
2004年9月24日


今日、アフリカはエイズと闘っている。しかし、先進国はこの闘いに対する十分な援助体制をとっていない。一方では、このエイズとの闘いにおいて、大きな障害となっているのが医師・看護師・薬剤師など保健ワーカーの人材不足である。とくに英語圏の国々からは、英国、米国、カナダ、オーストラリアにむけて、医師、看護師、薬剤師が移住している。

ガーナとジンバブエでは医学部を出て数年の若年の医師の4分の3が先進国に移住しているという報告がある。ブッシュ大統領のグローバル・エイズ対策特別顧問ランダル・トビアスは最近行った演説の中で、「シカゴにいるエチオピア人医師の数はエチオピア本国の医者の数より多い」と語った。

アフリカ人医師の移住問題は新しい現象ではないが、とくに最近目立つのは、看護師の移住の急増であると、『タイムズ』紙は報道している。とくに先進国で最近看護師不足が深刻化しているために起こっている現象である。米国の病院では、米国人看護師を雇う代わりに、カリブ海諸国、フィリピン、インド、アフリカ人看護師を雇っている。英国においても同様であった。ヨーロッパ以外の国から移住してきた看護師の数は1994年には2,000人であったのが、2001年には15,000人に増えている。

「Physicians for Human Rights」というNGOが最近発行した報告書によれば、「国連によれば、マラウイが1人の医師を養成し、彼が英国に移住すると、英国は184,000ドルの費用を節約できることになる」と述べている。

なぜ彼らが移住するのかを理解するのはやさしい。アフリカの保健ワーカーの仕事は限界に達しているからである。とくにエイズや結核患者を扱う看護師の仕事はきつい。器具も薬も十分にない状態で、給料の支払いも何ヶ月も滞っている。感染の危険は高い。しばしば、手袋さえない。

先進国では、人口10万人あたり222人の医師がいるが、ウガンダでは6人以下、マラウイでは10万人に17人の看護師しかいない。一方、先進国では1,000人の看護師がいる。

この問題の解決は容易ではない。最も悪い解決法は、彼らの移住を制限、あるいは禁止するということである。これは差別を増加するだけで、非生産的である。アフリカ人で医者になる人が減るだけである。一方、先進国で自国の看護師を養成する予算を増やすことなど期待できない。そして、非合法な方法での途上国からのリクルートが増えるだろう。

最も良い方法は、アフリカ人の保健ワーカーが十分に良い条件でもってアフリカで働けるようにすることである。それには先進国が、これまで受けてきた恩恵を理解して、十分な医療援助を行うことである。これは、あまりカネのかからない方法でもある。


『ニューヨーク・タイムズ』紙2004年8月13日より