世界の底流  
「ブッシュ政権に対するグローバルな反戦世論の挑戦」
2003年3月
 さる2月15〜6日、ロンドンを皮切りに、ローマ、マドリッド、ニューヨーク、メルボルンで百万人規模の反戦デモのウエーブが地球を一周した。これらはいずれも政府がブッシュ大統領のイラク攻撃に賛成している国で起こった。同じく政府が米国を支持している東京では、反戦デモが企画されたが、参加者はわずか2万人であった。
 グローバル・デモの参加者総数は1,200万から2,000万人とも言われる。200万人に上ったロンドンのデモでは、人びとは「これはデモではない。歴史的事件だ」と叫んだ。たしかにこのグローバルな反戦デモは、人類史上最大の直接民主主義の行動であった。
 この反戦デモを境に9.11以来、ブッシュ政権寄りであった米国マスコミの論調に変化が起こった。2月18日付けの『ニューヨーク・タイムズ』紙は、反戦デモの記事の冒頭で「ここに、依然として2つの超大国がある。1つは米国であり、もう1つは世界の世論である」と書いた。遅まきながらマスコミは反戦側に軸足を移したようだ。
 同時にこの巨大な反戦世論は、市民社会の動向に敏感なフランスのシラク大統領、ドイツのシュレーダー首相というヨーロッパ連合(EU)の2大指導者に影響を及ぼした。デモの数日前に開かれた国連安保理では、軍事力の行使に反対するフランスのドビルパン外相の大演説が大勢を征し、安保理15カ国中11カ国がイラク攻撃に反対した。マスコミはこれを「反戦安保理」と評した。
 3月1日、トルコ議会は、総額160億ドルという経済援助のエサにもかかわらず、「イラク攻撃にトルコの領土内の基地を提供しない」という決議を採択した。米軍のイラク攻撃戦略では、「北部戦線に異常あり」となった。一方、南部戦線もサウジアラビアの親米王制が、10年前の湾岸戦争の時とは異なり、国内世論を恐れて、進撃基地を提供しない。
 ブッシュ大統領のイラクに対する「戦争宣言」は、すでに去年1月の年頭教書の中で行われた。そして昨年6月、ブッシュ大統領が、「米国は世界中すべての国、地域に対して、いつ何時でも攻撃できる」という「先制攻撃戦略」を打ち出した時、すでに対イラク戦争の準備は整っていた。ブッシュ大統領は、昨年11月に採択され、イラクに査察団を送ることになった国連安保理決議1441号が、米国にイラクに対する軍事力の行使を認めているという乱暴な解釈をしている。今回、米、英、スペイン3国の協同提案として提出した安保理決議が否決されようとも、米国のイラク攻撃戦略には影響しないだろう。なぜなら、米国はイラクを攻撃し、フセインを追放することをすでに「決定」しているからである。2月21日付けの『ワシントン・ポスト』紙は、ブッシュ政権が、イラク占領後2〜5年の期間米軍単独の軍政を布き、その後も米国人の文民行政官が統治するという青写真を策定した、とまで報じた。
 小泉首相は、反戦デモがフセインに誤ったシグナルを送ることになる、と言う。これは間違っている。人びとを反戦デモに駆り立てているのは、フセインを支持しているのではなく、今日の残虐なハイテク戦争によって罪もない人びと、とくに子どもたちが殺される
ことに反対するからである。またこれは、冷戦時代のイデオロギー的な反米ではない。人びとは、ブッシュ大統領の横暴さ、理不尽さに怒っているのである。冷戦後米国は唯一の超大国になったが、何をしても良いというのではない、と世界の世論は言っている。