世界の底流  
ベネズエラのゼネ・ストの真相
2003年3月
 南米の産油国ベネズエラでは、昨年12月2日以来、ウゴ・チャべス大統領の辞任と新たな選挙を求めて、ゼネストが続いている。このストは、ベネズエラ経営者団体と石油労組という奇妙な連合によって呼び掛けられた。
 ストによって、国営石油会社(PDVSA)の原油生産が、スト直前の昨年11月には日産280万バレルであったのが、50万バレルにまで落ち込んでしまった。政府は軍隊や石油会社の退職者など1000人を動員して、生産を続行させようとしているが、未熟練者の操業のため、事故が続発しているという。
 ベネズエラ経済は石油に大きく依存している。たとえば原油の輸出は全輸出総額の80%を占め、政府歳入の50%を賄っている。ストが長引けば、ベネズエラは破綻し、第2のアルゼンチンになるかも知れない。

1) ウゴ・チャベスとは何者か?

 チャベスは元落下傘部隊長で、空軍中佐であった。彼は軍隊の中に、1819年スペインの植民地支配からベネズエラを解放した南米の伝説的革命家シモン・ボリバルの名を冠した「ボリバル革命運動」という秘密結社を結成し、1992年にクーデタを起こした。
 当時のベネズエラは、ペレス政権のもとにあり、IMFの構造調整政策を採用して、緊縮政策を敷いた。その結果、公共料金、食料品が大幅に値上がりし、労働者、学生、貧困者の抗議行動が続いていた。
 チャベスのクーデタは未遂に終わり、2年間投獄された。釈放後、チャベスは左派政党などとともに「愛国同盟」を結成し、98年12月の大統領選挙に出馬し、勝利した。

2) 反米・直接参加民主主義

 チャベス大統領は、直ちに選挙公約であった2つの政策を執行した。その第1は、「ボリバル2000計画」であった。これは、前政権の腐敗の悪名高かった高官を追放し、仲間の軍人に代えた。貧困地区に対して重点的に社会インフラを整備し、雇用政策を推進した。
 第2には、1999年7月、制憲議会選挙を通じて議会を掌握した。次いで非常事態宣言を発令して、400人の腐敗判事などを追放した。さらに、一院制、大統領の任期を5年から6年に延長し、再選を可とする憲法改正の国民投票を行った。2000年7月、チャベス大統領は、この新憲法下、大統領選挙を行い、再度当選した。チャベスは、これを「平和革命」と呼んでいる。
 チャベス大統領の政策の真髄は、その参加型民主主義にある。これは新憲法166条に基づいて中央政府内に、また第182条に基づいて地方政府内に、それぞれ公共政策調整・計画協議会が設けられた。これには住民組織、NGO、農民運動、女性団体、知識人、ボリバル革命運動などの代表が参加し、行政や議員などと共に、すべての政策やプロジェクトについて政策立案、予算の配分、その実施とモニターなどすべてのプロセスにおいて議論し、決定する。米国のマスコミは、チャベスを「第2のカストロ」と呼んでいるが、正しくない。また、彼を「第2のペロン(第2次大戦後のアルゼンチンの大統領)」と呼ぶのも正しくない。
  チャベス大統領は、ブッシュ大統領のネオリベラリズムを激しく批判した。キューバのカストロ政権に接近し、さらにイラクやリビアを訪問し、それぞれフセイン、カダフィと首脳会談を行った。2000年4月、カナダのケベックで開かれた米州自由貿易地域(FTAA)首脳会議では、2005年のFTAA設立について、34人の首脳の中でただ1人「保留」を表明した。これらは、米国に対する挑戦であり、ブッシュ大統領を逆上させるものであった。
 しかし、一方、ペルーのフジモリ元大統領の顧問で逃走中のモンテシノスを匿うという不可解な行動もとっている。
 2002年4月、首都カラカスで反チャベスの暴動が勃発した。これに乗じて、米国の後押しを受けた軍の一部がクーデタを起こし、チャベスを大統領の座から追放した。しかし、チャベス派の軍の助けを借りて、3日後、彼はは大統領に返り咲いた。

3)ベネズエラ国営石油会社の反乱

 20世紀はじめ、7大石油メジャーの1つであるシェル石油がベネズエラの油田を発掘した。1970年代、資源ナショナリズムの波に乗って、ベネズエラの石油も国有化され、76年、現在の国営石油会社PDVSAが誕生した。
 しかし、国有化とは名ばかりで、PDVSAはメジャーの隠れ蓑であった。OPECの協定を破り、増産をした。しかも、再投資が必要だと言って、会社の利益金を国庫に上納することを渋った。PDVSAは「国家の中の国家」のような存在だった。
 貧困層に支持基盤を持つチャベス大統領にとっては、PDVSAの改革は必然のことだった。総裁をはじめとして会社の幹部の更迭をはかった。これに対して、PDVSA側は「ネポティズム」と批判し、抵抗した。そして、決定的な対決のときがきた。
 2002年4月、PDVSAの労働組合が会社役員の解雇に反対して、ストを始めた。これが引き金になって、軍事クーデタが起こり、チャベスは追放された。しかし、3日後、クーデタは失敗し、再びチャベスは大統領の座に帰り咲いた。
 ベネズエラでは国有石油会社ばかりでなく、なぜ労組まで反大統領の立場をとるのだろうか?それは、ベネズエラが、米国の全石油輸入の4分の1を供給しており、とういてチャベスのような反米主義者の支配をみとめることが出来ないからである。チャベスが大統領に選出されて以来、米国議会から年間87万ドルにのぼる「民主主義のための国家基金」と名付けた資金がベネズエラの石油労組とそのカルアロス・オルテガ会長に送られてきた。 このオルテガ会長こそは、昨年4月の失敗に終わったクーデタで"3日大統領"に任命されたビジネスマンの親しい友人であり、今回のストに扇動者である。
 ベネズエラの石油生産の減少分は、OPECの原油生産の約10%に当る。もし、ブッシュ大統領のイラク攻撃が始まれば、原油価格は暴騰する。専門家は、1バレルあたり80ドルにまで高騰するだろうと予測している。そうなれば、世界経済が打撃を受け、南北を問わず、破産する国が続出するだろう。一方では、巨大な石油資本はボロ儲けする。石油資本の代理人であるブッシュ大統領にとっては、良いことだろうが、世界経済を破滅させることになる。