世界の底流  
世界の水不足が食糧危機をもたらす
2002年12月
 2003年3月16〜23日、京都で大3回世界水フォーラムという国連会議が開催された。

 日本は国土の70%を森林に覆われ、水資源に恵まれた国である。しかし、1970年代には産業公害、農薬や洗剤、80年代にはゴルフ場の農薬散布などにより湖、川、そして海が汚染された。この水の汚染に対して、早くから、全国的な公害反対運動、洗剤でなく石鹸を使う運動、ゴルフ場建設反対運動などが展開されてきた。また自然破壊につながる巨大ダムや堰の建設に対しても、各地で反対運動が繰り広げられてきた。
 したがって、草の根レベルでの「水」問題に対する関心は大きく、世界水フォーラムに対しても、早くからNGOなどにより準備活動が進められてきた。

1) 水危機は国際紛争の原因

 さる8月、南アフリカのヨハネスブルグで開催された国連の持続可能な開発サミットにおいても、水問題が議論された。代表たちは、急速に進む水不足が「持続可能な開発の疎外要因であり」、また「将来、紛争の原因となる」点について、意見が一致した。
 今日すでに、ヨルダン川、ガンジス川、黄河など歴史的に有名な川が危機に瀕している。
 ヨルダン川の例では、この川の流域には、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ、レバノンがあり、中東紛争の縮図のような様相を呈している。ヨルダン川の水源の環境悪化と水量の枯渇、さらにイスラエルによる水の簒奪が、パレスチナ、ヨルダンの国家の存立を脅かしている。
 ヒマラヤに源を発し、インドを流れ、バングラデシュのデルタに到るガンジス川も、水量減に悩まされている。これも、バングラデシュの存立を脅かしている。
 中国の黄河は、上流の森林の破壊により、川そのものがなくなり、全流域が砂漠化している。この砂漠から、春に黄砂が日本に飛来する量が年々増大していることは周知のことである。

2) 2025年に食糧生産が10%減

 10月はじめ、ワシントンの国際食糧政策研究所とスリランカの国際水管理研究所が、世界の水不足と食糧生産の将来予測についての共同研究報告を発表した。両研究所ともに、国連食糧農業機構(FAO)の16の研究協力機関に所属している。
 報告書は「淡水が、過度に、非持続可能に使用されているので、近い将来世界は深刻な食糧危機に陥ると予測される」という警告を発した。
 報告書はさらに、過度の灌漑により、地下水が枯渇、汚染されている、と述べている。今日、各国政府が対策を講じなければ、世界の穀物生産は、2025年には今日のレベルから10%減少する、と予測している。ちなみに、世界の穀物生産の10%とは、インドの年間穀物総生産、あるいはサハラ以南のアフリカ、西アジア、北アフリカを合わせた年間穀物総生産量に匹敵する。これらは貧困層が集中している地帯であり、すでに周期的に飢餓が発生している。
 報告書の中で、FAOの水部局のレト・フローリン局長が、水危機は、地域的に限定されているとはいえ、「その影響は世界に及ぶだろう」と警告した。

3) 水危機は農業問題


 ヨハネスブルグ・サミットでは、世界銀行が推進している途上国の水の民営化政策を、NGOが激しく批判した。これは、主として都市部の水道事業の民営化が対象となった。
 しかし、世界に水危機は、実は農業問題である。
 最近、ナイロビの国連環境計画(UNEP)が発表した報告書では、地球の淡水資源のほとんどは氷河や氷山に閉じ込められていて、人間が使えるのは、およそ1%に過ぎない、と言う。この使用可能な水資源の90%は地下水であり、その70%が農業に使われている。この農業用の水が汲み上げられている量は、地下に染み込んでいく水量をはるかに上回っている。つまり地下水は急速に減っている。さらに、化学肥料と農薬を、過度に、かつ不適切に使用していることによって、土壌だけでなく、地下水をも汚染されている。中国北部、インド北部と東北部、西アジア、北アフリカなどの地域では、地下水の急激な汲み上げによって、8年以内に枯渇し始めるだろう。
4)1トンの穀物輸入は1,000トンの水の輸入に等しい
 昨年、中国政府は、中国北部の地下水の水位が、1年間で6メートルも低下した、と発表した。同じく、世銀が、この地域の湖は干上がっており、北京では、800メートルまで掘り下げねば、井戸水を汲み上げられなくなっている、と報じた。中国北部は穀倉地帯であり、小麦では2分の1、とうもろこしでは3分の1を生産している。世銀は、中国政府が、地下水の汲み上げと再生産のバランスを確保しなければ、将来世代に深刻な影響をもたらすだろうと、警告した。
 中国だけではない。米国も地下水に関しては、マイナス消費になっている。また、かって日本は最大の穀物輸入国であったが、今日では、エジプトとイランが、世界最大の小麦輸入国になった。1トンの穀物生産には1,000トンの水を消費する。したがって、穀物の輸入国は、水の輸入国でもある。
 すでに、人類は、地下水の半分を消費している。この水の消費量は、今後20年間に40%増えると予測される。国連は、2025年には世界人口の半分が、深刻な水不足に見舞われるだろうと警告している。「地下水の水位は低下している。多くの川は海にまで達せず、淡水に生息する生物は絶滅の危機に晒され、デルタや湿地が消えて行く」と記している。
 水は多くの紛争の原因になっている。さらに2025年には途上国の都市人口は40億人に達すると予測されるが、その人びとの水の供給と衛生設備状況は、現在のサービス計画をより早めなければ、ほとんど絶望的な状況になる」と述べている。
 NGOは、「水」は教育や医療、衛生と同様な「グローバルな公共財」と規定し、これを 
グローバルな課題として取り組むことを提唱している。日本でも、世界水フォーラムの開催を契機にして、水問題をグローバルな課題として、取り組んでいくべきであろう。