世界の底流  
すべての米戦略の背景に石油利権あり
2002年11月
1.中東石油依存は危険?

 ブッシュ政権は石油まみれの政権である。2000年秋の大統領選挙において、ブッシュ候補に最も多く献金をしたのはエクソンをはじめとする巨大石油会社であった。ブッシュ大統領自身も石油会社を経営していた。彼は、大統領に就任するとともに、石油会社の意を受けて、京都議定書から脱退した。 
 アフガニスタン戦争の背景の1つに、カスピ海の埋蔵石油を狙うブッシュ大統領の戦略があったと言われた。また、彼が声高に叫ぶ「サダム・フセイン打倒」の軍事戦略にも、サウジアラビアに匹敵する、あるいは上回ると言われるイラクの油田を手に入れようという石油戦略が見え隠れしている。
 米国は、世界最大の原油の輸入国である。その最大の輸入国は、ペルシャ湾岸のサウジアラビアである。そして、ブッシュ大統領が口にする罵詈雑言からは想像も出来ないことだが、米国はイラクからも原油を輸入している。その量は、今年上半期だけでも、1億1,00万バレルに上っている。その他、クエートや他の湾岸の産油国からも輸入している。
 米国は、9.11テロ事件以来、サウジアラビアを筆頭とする湾岸の産油国への過度の依存を不安に感じている。9.11の"犯人"の中で、湾岸諸国では米国の最大の同盟国であったサウジアラビア人が最も多かったのは、ブッシュ政権にとって大きなショックであった。

2.パウエル国務長官のアフリカ訪問

 この湾岸石油への過度の依存を脱却するために、ブッシュ政権はアフリカに目を付けた。
 米国が、国連で、対イラク戦争をしぶる同盟国の説得に手を焼いている最中の9月はじめ、パウエル国務長官がガボンとアンゴラを訪問した。米国の閣僚がガボンを訪問したのは、1960年にフランス領植民地から独立して以来はじめてのことであった。さらにパウエル長官は、30年近くに及んだ内戦に終止符を打ったばかりのアンゴラの首都ルアンダで、新しい米大使館建設の"地鎮祭"に列席した。さらに、来年早々、ブッシュ大統領自ら、ナイジェリアを含めたガボン、アンゴラの3カ国を訪問する。
 この米国の素早い外交攻勢の裏に、実は、石油戦略があったとは、誰も気付かなかった。
 冷戦中、とくにサハラ以南のアフリカは米ソの草刈場であった。米ソは互いに勢力圏を拡大しようとして、派手な援助合戦を展開した。クーデターが頻発し、その度に親ソ派が親米派の政権に、またその逆に変わるという目まぐるしく変わった。
 冷戦が終了すると、たちまち、米国はアフリカを見捨てた。アフリカは、債務危機の陥り、最近では、エイズが蔓延している。アフリカは、貧困と紛争の代名詞となってしまった。

3.アフリカは有望な産油国?

 ではなぜ、米国は、これまで10年以上も見捨ててきたアフリカに、突如関心を持ち始めたのだろうか?言うまでもなく、これら3カ国が、近い将来、有望な産油国だからである。
 さらに、チャド―カメルーン石油パイプライン・プロジェクトが完成すれば、内陸国だが、チャドも有望な産油国になる。チャド石油は、大西洋岸に面したカメルーンを通って、米国へ輸出される。このパイプライン建設プロジェクトは世銀の融資によるもので、世界中の環境保護派が反対キャンペーンを展開してきた。
 さらに、米国は、ギニア湾に浮かぶ島嶼国のサオトーメに軍事基地を建設する交渉を秘密裏に進めている。サオトーメの対岸に位置する赤道ギニアも産油国である。
 これに関連して、最近『ニューヨーク・タイムズ』紙が、「アフリカの石油と米国の世界戦略」についての記事を載せた。現在、米国がサハラ以南のアフリカから輸入している原油は、全輸入量の15%である。これは、米国が北海油田から輸入している原油量より少ない。
 しかし、アフリカ石油は、さまざまな点で、有望だと言う。まず第1に、アフリカの産油国は、いずれも地理的に大西洋岸に面していて、米国に輸送するには、ペルシャ湾岸やカスピ海の油田に比べてはるかに近く、かつ安全である。第2に、いずれも若い油田であり、将来、増産が見込まれる。今後10年間に、米国の全輸入量の25%に上ると予想されている。第3に、ナイジェリアを除いて、アフリカの産油国はOPEC(石油輸出国機構)に加盟していない。したがって、OPECの生産調整や価格設定に左右されない。当初、ガボンはOPECのメンバーであったが、1995年に脱退した。ナイジェリアも近く脱退する意向だと言われる。ナイジェリアの脱退は、OPECの機能を著しく弱めることは間違いない。これは、国際石油資本の戦略である。しかも、これらアフリカの油田は、国際石油資本の支配下にある。
 サハラ以南のアフリカ最大の産油国であるナイジェリアは、現在、日産220万バレルの原油を生産しているが、2007年には300万バレルに増産すると予測される。第2位のアンゴラは、日産100万バレルから200万バレルになる。チャドは、現在日産22万バレルだが、パイプライン完成する2004年には、350万バレルになると言う。
また国の面積は小さいが、熱帯ギニアも近い将来、日産35万バレルの産油国になると予想される。

4.米国の新しいアフリカ政策

 米国は、これらアフリカの産油国に対して、石油問題を表向き外交政策の議題にしてはいない。現在、アフリカに対する米国の石油戦略を公にするのは、アラブの産油国を刺激することになるからである。
 さる4月、メキシコのモンテレイで開かれた国連開発資金会議に、ブッシュ大統領が出席し、「米国は、3年後にはじまる3年間に、毎年50億ドルの追加のODAを拠出する」と発表した。これは、サハラ以南のアフリカを意識した発言であった。最近、米国は、アフリカ向けに、「ミレニアム・チャレンジ基金」という新しい予算枠を設けた。
 しかし、これには、米国流の新しい条件が付いていた。それは、アフリカの政府が、早急に地域紛争を終結させ、腐敗を一掃し、国営企業や公共サービスを民営化すれば、米国の援助を受けられるようになるというものである。