世界の底流  
中身のない『モンテレイ合意』
2002年6月
―国連開発資金会議の報告―

 2002年3月18〜22日、北部メキシコの工業都市モンテレイで、国連開発資金会議が開催された。ブッシュ米大統領、シラク仏大統領、カナダのクレチェン首相、メキシコのフォックス大統領をはじめ51人の国家首脳が出席し、モンテレイ・サミットと呼ばれた。しかし、G7の中でも、英、独、尹、日などの首脳が欠席し、また、アジアの多くの国が閣僚レベルの参加にとどまったため、これまでの国連サミットに比較すると、後退した感は否めなかった。一方、この会議がメキシコで開かれたこともあって、ほとんどのラテンアメリカの首脳が参加した。また、「貧困削減のための資金」がテーマであったこともあって、アフリカの首脳の多くが出席した。

1.国連が開発資金会議を開催した理由

 冷戦後の1990年代、国連は、子ども、環境、人権、人口、社会開発、女性、人間居住などグローバルな課題についてサミット・レベルの会議を開催した。ここでは、国家首脳が参加し、2000年までに達成すべき「行動計画」を採択した。途上国の貧困の根絶、とくに子どもや女性の人権の尊重、地球環境の回復などがメーン・テーマであった。しかし、これらの決議はほとんど実施されなかった。それだけではない。とくにこれらグローバルな課題をめぐる途上国の状況ははるかに悪くなっている。なぜか。
 それは、「資金がない」ことに尽きる。これら「行動計画」の実施には、巨額の資金が必要である。しかし、先進国は、「新しい資金」の支出を拒んだだけでなく、従来のODAさえ減額した。  
 さらに国連は、2000年9月、ミレニアム・サミットを開催し、2015年までに15億人の貧困を半減するという「ミレニアム・グローバル目標」を採択した。そのためには新しい資金源についての国際的な合意が必要である。
 開発資金会議は、この「資金問題」を解決するサミット級の会議であった。また、国連は初めて、IMF、世銀、WTOなどの国際機関と共催した。さらに首脳たちの演説が続く総会に並行して、政府、NGO、企業の3者による12の円卓会議が開かれた。これら円卓会議の「まとめ」は、『モンテレイ合意』に付随した会議の文書として扱われるということだが、その効果は不明である。

2.モンテレイ・サミットの問題点

1) 南北間
 途上国は、「行動計画の実施を可能にする国際的な環境の整備」を必要とし、そのため、「先進国は"新しい資金"の供与を公約すべきである」と主張した。一方、先進国は、「実施されないのは、途上国のガバナンスがないためであり」、したがって「腐敗一掃、財政均衡、税制度の確立、経済改革、資本市場整備など国内のガバナンスの確立が先決」だと主張した。『モンテレイ合意』は、この先進国の主張がほとんど取り入れられたものになった。

2)「新しい資金」をめぐって

(1)新たな債務帳消し提案を否決
 現在のIMF・世銀の「拡大HIPCsイニシアティブ」を追認し、むしろ債務国が債務管理の能力の向上をはかるべきだというのに留まった。
(2)GNPの0.7%をODAに
 会議に先立ち、アナン事務総長は、エイズ根絶、貧困根絶のプログラムを遂行するには、ODAを倍増する必要があると訴えた。実際、「ミレニアム・グローバル目標」を達成するためには、ODAをGNPの0.7%以上に増やすことが必要である。しかし、達成していない先進国が、「明確な努力をするよう励ます」だけに留まった。
(3)為替取引税(CTT)の導入
 米国の反対によって、明確なCTTの導入を記述することを避けた。その結果、「可能性のある革新的な資金源についての事務総長の報告書で要請された分析の結果を、適切な場で、研究することに同意する」という幾重かの間接的な表現になった。これでは、CTTの導入はいつのことになるやら全く検討もつかない。

3.国連の新しい試み「円卓会議」

 参加国のスピーチが続く総会に並行して、2日目から「円卓会議」が開かれた。これは、国連の新しい試みであった。ここでは、『モンテレイ合意』草案が議論された。
 まず、3月19〜20日の2日間、午前と午後の2回、並行して2組づつ、政府閣僚・企業・市民社会の代表によって構成された円卓会議が開かれ、さらに、21日、午前と午後の2回、同じく並行して2組づつ、政府首脳・企業・市民社会の代表による『モンテレイ合意』についての円卓会議が開かれた。
 円卓会議の構成は、政府が40カ国内外(地域別に均等に配分された)、UNDPなどの国連機関とIMF、世銀、WTOなどの代表が8人、企業代表が7人、NGOが7人、計60人あまりであった。12組の円卓会議の参加者総数はのべ800人にのぼった。政府と国連機関の代表2人が共同議長となった。
 総計12組の円卓会議から出されたそれぞれの「まとめ」は、サミット終了後、国連事務局によって、最後に1つにまとめられた。円卓会議の議長の説明では、「まとめ」は『モンテレイ合意』と一緒に「ホッチキスで留められる」ものである。しかし、決議ではなく「まとめ」にすぎないので、加盟国政府が実施しなければならないものではない。

4.「コンセンサス」は「ナンセンス」


 モンテレイ・サミットは、米国がその開催にすら反対していたために、開催すること自体が目的化してしまい、その中身は、これまでの国連諸決議の追認に終わってしまった。したがって、モンテレイ・サミット開催の目的であった「新しい、追加の資金の調達」については、何ら進展がなかった。NGOは「モンテレイ・サミットは失敗」と分析した。
 モンテレイ・サミットのテーマは、低開発国(LDCs)の貧困問題であった。低開発国にとっては、政府開発援助(ODA)が唯一の開発資金である。したがって、ODAの増額が約束されねばならない。しかし、ODAは先細りである。ではどうするか。
 そこで、対外直接投資と貿易という民間資金を動員しようという考えがでてくる。しかし、民間企業は、利潤を目的にしており、貧困根絶のために活動するわけではない。