世界の底流  
トルコ危機―世界恐慌への引き金になるか?
2002年6月
 日本のマスコミではほとんど報道されないが、昨年末以来、トルコはほとんど破産状態にあり、今年に入って、それが政治危機に発展している。IMF(国際通貨基金)は、なりふり構わずトルコに対する巨額の救済融資を繰り返している。

1)IMFが巨額の対トルコ救済融資

 4月26日、IMFは、突如トルコに対して100億ドルという巨額の救済融資を決定した。IMFがこのように巨額の単独融資に乗り出したのが、ワシントンでG7の蔵相・中央銀行総裁会議が開かれる直前であったため、国際的に多くの憶測と波紋を呼んだ。
 IMFのトルコ救済融資は今回が始めてではなく、すでに昨年12月、IMFは、トルコに対して114億ドルの救済融資を行っており、さらに、今年2月に、第2回の115億ドルの救済融資を行った。つまり、IMFは昨年末以来、すでに100億ドル級の救済融資を3回も繰り返してきた。この救済融資は、短期で、しかも高利である。インフレと通貨の下落が激しく、それに比例して、トルコの対外債務が急増している。トルコは事実上、債務返済不能の状態にある。

2)トルコ金融通貨危機の実態

 すでに10年前から、トルコは高騰するインフレ、通貨の下落に悩まされてきた。1996年、著者は、イスタンブールで開催された第2回国連人間居住会議にNGOとして参加したのだが、当時トルコ・リラのレートは1ドルが70万リラであった。5〜6分の距離のタクシー代が25万リラなどという天文学的インフレであった。その後、巨大地震に見舞われ、さらに経済が悪化したことが予想される。
 2000年11月22日、僅か一日で、トルコのコール・レート(銀行間の短期金利)が1,700%に跳ね上がり、貸し付け金利も年率60%になった。同時に外国資本が一日に60億ドルも海外に流出し、トルコの外貨保有高は僅か25億ドルにまで減少した。
 この時、IMFが114億ドルの救済融資が行なったのだが、その数ヵ月後、再び危機が再燃した。今度は、大統領と首相の喧嘩という次元の低い政治危機が引き金になった。トルコは、エチェビット首相率いる3党連立政権の下で、ここ数年、奇跡的に政権は安定していた。しかし、2月19日、大統領と首相の間に、「腐敗」をめぐって非難の応酬があった。これは、トルコ経済の不安をかきたて、一日で、コール・レートは7,500%に跳ね上がり、株式市場は、18%の下落という史上最大の下げ幅を記録した。
 トルコに対する外国の銀行の融資残高は、438億ドルである。この中で、ドイツが121億ドルと第1位を占め、続く米国は47億ドルである。ドイツとトルコは貿易の比重も高く、また、ドイツ国内に200万人のトルコ人移住労働者がいる。トルコ危機の影響を最も大きく受けるのは、ドイツである。
 トルコ中央銀行は、2月22日、リラの下落を防ぐため、通貨をフロート制に移行した。中央銀行総裁は、IMFに責任をとる形で辞任した。その結果、2日間で、リラは36%も下落した。これが国内のインフレを昂進させた。
 これによって、昨年、IMFがトルコに課していた3年間の経済安定化政策、つまり、民営化、銀行改革、財政均衡、インフレ抑制などは、すべてご破算になった。にもかかわらず、IMFは、4月末、3度目の救済融資を行ったのである。

3)反政府デモの高まりと政治犯のハンスト

 リラの下落とインフレは、トルコの経済界の反乱を招いた。4月6日、イスタンブールの若い絨毯店主が借金のため、橋から身を投げて抗議自殺をするという事件がきっかけとなり、4月10日、トルコ最大の経営者団体である商工会議所は、政府の退陣を求める声明をだした。翌日には、労働者、都市貧民5万人がイスタンブール市内でデモをした。彼らは棒や石を警官に投げ、騒乱状態になった。イスタンブール市長は、戒厳令を敷いたが、翌日には、デモが7万人に膨れあがり、さらにイズミールで4万人、コンヤで2万人など、地方都市に広がって行った。
 トルコ政府は、総額195億ドルにのぼる32件の開発計画の中止を発表した。企業倒産が相次ぎ、2ヶ月間で50万人の失業者が生じた。
 一方、昨年12月以来、刑務所の待遇改善を求めて、250人の政治犯がハンストを続いている。彼らは、F型と呼ばれる独房の廃止を求めている。4月末で、すでにハンストで30人が死亡しており、看守の暴力によって28人が殺された。4月26日、英国在住のトルコ人が、トルコの刑務所の人権侵害に対して、何ら有効な行動を起さないことに抗議して、ロンドンのアムネスティ・インターナショナル本部を占拠するという事件が起こっている。

4)トルコ危機は救えるのか?

 冷戦中、トルコは、非ヨーロッパ国であるにもかかわらず、NATOのメンバーになってきた。地理的にトルコが占める重要な役割は言うまでもないが、西側諸国が持っている経済権益は莫大なものがある。したがって、何がなんでもトルコの危機を救わねばならない。
 1997〜8年、タイ、インドネシア、韓国、そして、ロシア、ブラジルが、一連の通貨金融危機に見舞われた時、IMFは、日本や米国の資金的な支援を受けて、巨額の救済融資を行い、やっと金融危機を封じこめることが出来た。
 しかし、今日では、米国と日本という世界第一位と二位の経済が失速状態にあり、これまでのような資金的協力は期待できない。したがって、IMFが単独でトルコの救済に当らねばならない。これまでのところ、トルコ危機は封じ込められておらず、IMFの資金能力は限られている。トルコ危機が、世界恐慌の引き金にならないという保証はない。