世界の底流  
反グローバル化デモに囲まれたケベック・サミット
2002年7月
1)巨大な米国の経済植民地の出現

 4月20〜22日、カナダのケベック市内で、第3回米州自由貿易地域(FTAA)の首脳会議が開かれた。FTAAとは、1994年に、米国、カナダ、メキシコの3カ国間で結成された北米自由貿易地域(NAFTA)を中南米に拡大したものである。西半球8億の人口を擁する一大自由貿易地域が出現する。
 すでに、カナダやメキシコの環境、労働、人権などが、NAFTAによって犠牲になっていることは、明らかである。例えば、カナダでに進出した米企業が、州政府の環境規制をNAFTA条項に違反するして訴え、これを撤廃させた。このようなことを中南米全域に拡大するとしたら、FTAAは、ブラジルのような工業化が進んだ国の経済ばかりでなく、低開発の小国の経済も、すべて米多国籍企業によって踏み潰されるだろう。自由貿易の名の下に、巨大な米国の経済植民地が誕生する。

2)シアトルを超える反グローバリゼーションの抗議デモ


 米国やカナダでは、今年に入ってから、反グローバリゼーション派が、インタ―ネットを通じて、ケベック・サミットに対する抗議デモを呼びかけていた。これは、1999年末のシアトルのWTO閣僚会議、2000年4月のワシントンのIMF・世銀会議に対して繰り広げられた大規模な抗議デモの延長線上に位置づけられるものであった。
 一方、カナダ当局は、7,000人の機動隊と1,200人の軍隊を動員し、史上最大の警備陣を敷いた。さらに、サミット会場と首脳たちのホテルがある旧市街を、高さ3メートルの金網の柵で、周囲5キロにわたって囲んだ。サミット当日、デモ隊はこれを「恥じの壁」と呼び、攻撃の対象にした。
 ケッベクに集まった反グローバリゼーション派のデモはのべ7万人にのぼった。これは、2つの異なったグループによって構成された。第1の潮流は、「西半球社会同盟(HSA)」で、これには、米国最大の労組AFL-CIOと、地球の友などの環境NGO、人権NGO、それにラルフ・ネーダーの「グローバル市民の挑戦」などに代表される政策提言型NGOが参加した。HSAは、FTAAサミットに並行して、ピープルズ・サミットを開催し、4月21日には、5万人が「ピープルズ・マーチ」と呼ぶ平和的なデモを行った。
 第1の潮流が、労組とNGOによる穏健な抗議行動であったのに対して、第2の潮流は、「直接行動」派と総称される若者の集団であった。マスコミは、彼らを「アナーキスト」、あるいは「フーリガン」と呼ぶが、古典的な無政府主義ではなく、むしろ「反資本主義派」と呼ぶべきであるし、また彼らは、失業青年ではなく、むしろ上流階級の子どもたちである。彼らは、ケベック・サミットに向けて、各地で「直接行動」に関するワークショップを開き、メンバーに非暴力不服従の哲学と各種抵抗の技術の研修を行ってきた。
 直接行動の各派は、それぞれキャラバンを組んで、サミット前日の4月19日に、続々とケベック入りをした。