世界の底流  
ジェノバG7vs史上最大の抗議デモ
2002年9月
1)サミットが抱える矛盾

 コロンブスの生まれ故郷の港町ジェノバは、史上最大の反グローバリゼーションのデモ、そしてヨーロッパで戦後最悪の流血デモの街として、今後歴史に名を残すだろう。
 七人プラス一人の男たちが会合したドカーレ宮殿を警護するために、半径2キロの地域が立ち入り禁止の「レッド・ゾーン」に指定され、高さ七メートルのハイテクの鉄壁が築かれた。また8人が泊まる一艘のクルーザーのために、すべての船が港から追放された。
 一方、レッド・ゾーンの外では、連日25万人が抗議デモを繰り広げた。(CNNは15万人、イタリアのリベラルな新聞は30万人と報道したが、誰も正確な数字は知らない)
 デモ側に1人の死者、450人のケガ人、そして、多くの店や車が破壊された。これまでの27回のG7サミットの中で、これほど大規模な抗議デモに見舞われたには初めてだった。また死者を出すほど激しい衝突が起こったのも初めてだった。

2)ジェノバ・サミットは何を決めたのか

 冷戦以後ロシアが加わり、さら今回アフリカが加わったG7サミットは、山積するグローバルな課題の解決を見出したであろうか。答えは「ノー」である。
 多分、成果と言えるのは、「世界エイズ基金」への12億ドルの拠出金の公約ぐらいであろう。しかしこれについても、NGOは、アフリカで猛威を振るっているエイズ対策に必要な資金の「10分の1に満たない」と非難している。
 また深刻は危機下にある世界経済についても、何ら合意はなかった。昨年の沖縄サミットまでは、米国の好景気に支えられていた。しかし、今年のジェノバでは、米、日、欧ともに先進国経済は後退している。その中で、米国とヨーロッパが、経済成長のけん引役をめぐって、責任をなするあっていたのが印象的だ。途上国はより深刻だ。今日、トルコとアルゼンチンが危機に瀕している。すでにアルゼンチンの債務危機は、隣国のブラジルとチリに飛び火している。しかし、G7は「改革プログラムの実施を奨励する」と述べただけに終わっている。これでは、何の解決にもならない。
 ブッシュ大統領は、「すべてを市場にまかせる」として、IMFの救済融資までも反対している。また「米国の成長を優先させる」として、途上国の貧困削減には、否定的である。 
 本来、ヨーロッパの社会民主主義は、こうした米国の市場優先主義とは対立するものである。しかし、ジェノバでは、「社会的セイフティティ・ネット」を主張することなく、ブッシュの強硬姿勢の前に沈黙した。

3)なぜジェノバで史上最大の抗議デモが起こったのか

 それは、イタリアの社会情勢にある。1994年、当時のベルルスコーニ右派政権に反対する長い社会運動の末に、プロディ中道左派政権が誕生した。しかし、プロディ政権が打ち出した「社会的パートナーシップ」は、社会民主主義に対する人びとの期待を裏切った。この時代、イタリアでは民営化が最も進み、世界の民営化率の中で10%以上を占めた。過去20年間の闘争で獲得した成果のすべてが奪われた。
 今年の選挙で再び右派政権が誕生したが、ベルルコーニの「自由の家」の票が伸びたのではない。左派の得票が減ったのだ。一方、最近の労働運動の復活は著しい。フィアット工場や、ボローニアの携帯電話TIM工場での臨時工の解雇反対闘争、金属労組のストとこれを支援するミラノの3万人のデモなどは、ほんの数例にすぎない。人びとは現在のシステムに「ノー」と言わねばならないと感じている。イタリアの有力紙の調査では、60%の人びとが、ジェノバの反グローバリゼーションのデモを支持している。
 7月16日からジェノバ市内で、7サミットに対抗する「ジェノバ社会フォーラム」が開催された。労組、農民、人権や環境NGO、債務帳消しやエイズの国際的な連合体、反WTO・反IMF・反世銀のネットワーク、さらに途上国のNGOなど、100カ国700団体が共催した。ここでは、債務、環境といった個別テーマ、あるいは、ネオリベラルなグローバリゼーションに対抗するグローバルなオルタナティブなどが議論された。
 イタリアの治安警察「カラビニエリ」は、デモの前日、スポークスパーソンやコーディネーターの多くを"予防拘禁"した。20、21日のデモに対しては、女性や子どもを含む平和的なデモ隊と法を破ることも辞さない不服従行動派の「白い作業衣」や「Ya Basta」を分断する作戦に出た。そして、平和的なデモや座り込んでいる人びとに対して、何の警告もなく、催涙弾、放水車、棍棒などで襲いかかった。また20日深夜、カラビニエリがデモの連絡委員会の本部、独立メディア・センター、さらに翌21日深夜にはジェノバ社会フォーラムの事務局を襲撃し、多数の怪我人と逮捕者が出た。
 このカラビニエリの不当な弾圧に対して、イタリアはもとより、ヨーロッパ全土で抗議デモが起こった。24日、ローマでは、4万人が口ぐちに「殺人者!」と叫びながら抗議デモをした。この先頭には、野党議員の姿も見られた。内相の不信任決議案も提出された。ベルルスコーニ首相は、「事件の真相糾明」を約束せざるを得なくなった。 
 来年のカナダのサミットは、カルガリの山の中で開かれることになった。しかし、G7首脳たちは、サミットに抗議するために、25万人がジェノバに集まったという事実を、真剣に考えなければならない時にきている。
 G7首脳たちは、デモの暴力を非難しながら、一方では「グローバリゼーションに反対する声に耳を傾けなければならない」ことを認めている。しかし、これら世界最強の男たちは、反対派と対話する「開かれたサミット」と、治安上「孤立するサミット」との間の矛盾をどう解決して行くのだろうか。