世界の底流  
「コロンビア計画」は第2のベトナム戦争?
2002年4月
はじめに

 1999年、当時のクリントン大統領は、大規模な麻薬撲滅戦争の開始を宣言した。これは「コロンビア計画」と呼ばれるもので、総額13億ドルを支出し、2005年までの6年間にコロンビアの麻薬生産量を半分に減らすことをめざしている。その内容は、米軍がコロンビアに軍事介入を行い、コカインの原料であるコカの栽培地域を焼却するというものである。
 しかし、「麻薬撲滅」という大儀名分を掲げているが、実際には、コロンビアがパナマ、ベネズエラ、ブラジル、ぺルー、エクアドルと国境を接し、南米への入り口にあたるところから、地政学的に重要な位置を占めており、さらに、南部のコカの栽培地域に豊富な石油の埋蔵が確認されていることもからまって、米国の軍事、外交、経済的権益を守るための戦略に他ならない。

「コロンビア計画」は第2の「ベトナム」

 さる一月末、スイスのダボスで世界の財界・政界のエリートたちが集まって「世界経済フォーラム」を開いた。これに対して、チューリッヒで反グローバリゼーション派が対抗フォーラムを開催した。その時、今日世界で最も"熱い地域"として、二つのワークショップが企画されたが、そこでは、パレスチナと並んで、コロンビア計画が取り上げられた。参加者は、「米国のコロンビア計画は、ベトナム戦争の再演である」と非難した。
 ただし、今回のコロンビア計画は、ラテンアメリカやヨーロッパの政府が協力していることと、遺伝子操作の生物兵器が広範に使用されていることが、ベトナム戦争と異なる点である。例えば、コロンビアの周辺五カ国やエルサルバドルに、すでに米軍基地が建設されている。オランダ政府が、ベネズエラ海岸沿いの植民地クラカオに米軍基地を建設することに同意している。また、モンサント社製の枯葉剤Roundupが空中散布されている。これは、米環境保護局が、「吐き気、肺浮腫、肺炎、精神錯乱、脳細胞破壊が起こる」と警告している危険な農薬である。

コロンビア政府と左翼ゲリラの和平交渉

 コロンビア計画は、米国の麻薬撲滅戦争という単純な構図ではない。コロンビアには、世界で最も古い歴史を持つ反政府ゲリラ勢力がある。南部の密林地帯を根拠地とした「コロンビア武装革命勢力(FARC)」は、すでに37年にわたってゲリラ戦争を続けている。またマフィア支配地域に隣接する北部には、左翼ゲリラの「民族解放軍(ELN)」が展開している。
 一方、麻薬マフィアから資金を得ている右翼民兵と「死の部隊」が、全土にわたって住民に対して無差別テロを行っている。これをコロンビア政府軍が支援していることは、あらゆる証拠から明らかである。
 左翼ゲリラ、マフィアの民兵、政府軍の三つ巴の内戦は、すでに30万人の犠牲者を出しており、その結果、コロンビアは世界で"最も暴力的な国"になっている。
 1998年、ゲリラとの和平交渉を公約にして、パストラナが大統領に当選した。しかし、彼の和平交渉は遅々として進展せず、昨年11月以来、中断したままになっていた。任期まであと1年半となり、追い詰められたパストラナ大統領は、さる2月9日、FARCのマルランダ司令官と南部の密林のゲリラ根拠地内オスポゾスで和平交渉を行った。これは、「オスポゾス協定」と呼ばれるものだが、国際使節団がゲリラ支配地域を査察する、ゲリラによる誘拐、子どもの兵士、および非通常兵器の使用などの禁止、さらにゲリラ側が資金の80%を社会サービス部門に投資し、20%を麻薬撲滅に使用するという条件で「コロンビア計画」に同意する、など13項目について、双方が合意している。FARCは、コカの木を手で刈り取る方法での除去計画に賛成しているという。

米軍の枯葉作戦

 一方、米軍は、コロンビア政府軍と結託して、南部において、焼却作戦を強行した。地上からのゲリラの攻撃を恐れて、3000メートルの空中から枯葉剤を散布した。 
 また、右翼民兵が、農民、NGO活動家に対する暗殺作戦を展開した。アムネスティなど人権団体がこれに強く抗議している。
 米軍は、すでに12万ヘクタールのコカ栽培地を焼却したと発表している。コロンビアは、世界のコカイン生産の80%、それにかなりのヘロインを生産したいるが、この焼却作戦は全く効果をあげていない。そればからか、実態は、コカの大規模プランテーションを対象としておらず、コカの木と一緒にタピオカや小麦など合法的な農作物を耕作している小農民に打撃を与えている。
 明らかに米国のコロンビア計画は、このようなコロンビアの微妙な和平交渉を妨害している。
 また、コカにかわる農作物の栽培に転換するプログラムの資金が不足している。コロンビア計画の13億ドルの中、このプログラムの資金はわずか8,100万ドルにすぎない。農民は貧困ゆえにコカを栽培しているのであって、軍事力で解決できる問題ではない。ヨーロッパ連合(EU)がこれに2億ドルの資金提供を申し出でいるが、枯葉剤の空中散布を止めることが条件にしている。
 コロンビア計画は、コカの栽培地の焼却作戦に集中して、米国とコロンビアの麻薬マフィアの壊滅作戦を回避している。また、麻薬問題は、本質的には、米国の国内の社会問題である。したがって、コロンビア計画の真の狙いは、コロンビアの左翼ゲリラに対する米軍の軍事介入であり、「麻薬」は口実にすぎない。これは、コロンビア計画が、ベトナムの二の舞になるという非難を十分に裏付けるものである。