世界の底流  
アフガニスタン戦争と国際法、石油利権
2002年12月
 米国のアフガニスタン戦争は国際法違反の不当行為である。なぜなら国連憲章には、国際紛争を平和的に解決することが義務づけられているからである。
 また、米国のアフガニスタン戦争には秘められた目的があると言われる。米国は、中央アジアに埋蔵する石油資源の支配を狙っている。これには、ブッシュ大統領自身の石油コネクション、やがて、それがオサマ・ビンラディンに繋がる複雑な相関図が背景にある。

1. アフガニスタン戦争は、国際法上違法行為

 10月7日以来、米国はアフガニスタンに対して、空爆と特殊部隊による攻撃を続けている。この戦争は国際法に違反している不法行為である。

(1)9月11日事件は「犯罪」行為
 ブッシュ大統領は、これを「戦争」だと宣言したが、これは単なるレトリックにすぎない。9月11日事件は無差別テロである。したがって、これは「戦争」ではなく重大な「犯罪」である。多数の民間人を殺戮したので、「人道に反する罪」で告発されるべきである。

(2)報復戦争は国際法違反
 さらに、ブッシュ大統領は、事件直後、主犯としてオサマ・ビンラディンの名を挙げ、彼を匿っているアフガニスタンのタリバン政権に対して、「引き渡すか、さもなければ報復攻撃をする」と声明した。
 このことは、すべて国際法に違反している。
 米国は、1945年、国連を創設した連合国のリーダーであった。第2次世界大戦では、戦闘員よりもはるかに多くの民間人が犠牲になったことを反省して、「国際間の紛争を平和的手段で解決する」ために国連が創設された。それは、国連憲章の第2条に加盟国の義務として明記されている。米国はこの憲章を起草し、その成立に指導的役割をはたした。
 しかし、米国は、朝鮮戦争、ベトナム戦争など「共産主義の脅威から民主主義を守る」ためという口実でこの国際法を破り続けて来た。冷戦後は、湾岸戦争を皮切りに、「ならず者国家」という口実で、イラク、リビア、スーダン、ユーゴなどに対して軍事攻撃を繰り返している。一貫して、米国は国際法に違反してきた。
 米国は、9月11日の無差別テロについても、国連憲章第2条の原則を守る義務がある。現代の国際法は報復のための戦争を認めていない。

(3)自衛権は限定的
 ブッシュ大統領は、アフガニスタン戦争を「自衛権の発動」であると宣言した。確かに、国連憲章第51条には「個別的又は集団的自衛の固有の権利」が認められている。しかし、この自衛権は限定的なものである。51条には、自衛権の発動を認められるのは、「安保理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」と、明確に書かれている。
 NATOは、10月4日、創設以来はじめて第5条を発動させ、米国のアフガニスタン戦争への三戦を決めた。しかし、NATOもまた、国連憲章の枠のなかにある。したがって、NATOの集団的自衛権も安保理が平和的解決をはかるまでの機関に限定される。

(4)軍事力で政権転覆は不法
 いかなる国際法も、軍事力をもって、他国の政権を転覆することは許されない。しかし、冷戦時代、共産主義の脅威を理由に、米国は、軍やCIAを使って、イラン、コンゴ、グアテマラ、チリ、ハイチなどで政権を転覆してきた。
 アフガニスタンでも、オサマ・ビンラディンとアルカイダを匿っているとして、タリバン政権打倒を目標にしている。これは、国際法上、重大な不法行為である。

(5)民間人攻撃はジュネーブ条約違反
 1949年のジュネーブ条約の第1議定書は、無差別攻撃を禁止している。この無差別攻撃の対象には民間人ばかりでなく、軍事目標も含まれる。民間人を報復の対象にすること、食糧、収穫物、家畜、飲み水、灌漑施設など民間人の生存に不可欠な目標を破壊することは、厳密に、絶対的に禁止している。
 米国はこの議定書を批准している。したがって、アフガニスタン戦争で起こっていることはすべてジュネーブ条約違反である。

(6)11のテロ防止・禁止条約
 今日にいたるまで国際社会は、テロの規定をめぐって合意してはいない。にもかかわらず、これまで11のテロ防止・禁止の国際条約が制定されており、その内、10の条約がすでに発効している。
 9月11日事件は、2001年5月に発効した「テロリストの爆撃抑止条約」が該当する。米国はこの条約に署名したが、まだ批准をしていない。とはいえ、米国のアフガニスタン爆撃はこの条約に違反している。したがって、米国はテロ国家ということになる。
  9月11日の無差別テロ事件は「国際的犯罪」である。したがって、国際条約によって裁かれる。

(7)国際刑事裁判所の創設
 9月11日事件が「国際的犯罪」であるとしたら、その容疑者を裁くのは、中立の国際司法機関でなければならない。そこで、国際刑事裁判所で裁くべきだという意見が多い。だが、国際刑事裁判所はまだ創設されていない。
 国際刑事裁判所の創設を決めた「ローマ法令」は、1998年に締結されたが、採決の時、米国と中国を含む7ヶ国が反対した。ローマ法令の発効に必要な60カ国のうち、すでに43カ国が批准している。先進国のなかで米国が唯一反対している。
 しかし、国際刑事裁判所がなくても、暫定国際法廷を設けて、容疑者を裁くことができる。ユーゴとルアンダのように、暫定国際テロ犯罪法廷を設けて容疑者を裁くべきである。

2. ブッシュ大統領と石油利権

(1) 若きブッシュの石油会社
 9月24日、ブッシュ大統領は、ホワイトハウスでの記者会見で「テロ資金のネットワークを潰す。米国市民、企業はテロ組織と取引をしてはならない」と語った。
 しかし、ブッシュ自身はどうなのか。
 1979年、ブッシュはアーブスト・エネルギー社を設立した。これは彼がビジネスの世界に入るきっかけとなった。アーブスト社の出資者には、ブッシュ家の親友であったヒューストン在住のジェームズ・バースがいた。
 このバースは、実はオサマ・ビンラディンの兄サレム・ビンラディンの米国での独占的利益代表であった。バースがアーブスト社に出資した資金もビンラディン家からでたのではないかという疑いがもたれていた。9月11日以後、ブッシュ大統領は、断固としてこれを否定する声明を出した。さらにブッシュはバースについても面識がない、と言ったが、後これを撤回するなど、矛盾した発言を繰り返している。

(2)BCCIのマネー・ロンダリング

 そればかりではない。1980年代、米国で中東系の国際商業信用銀行(BCCI)が米国金融史上最大の預金詐欺で告発された。被害総額は100億ドルに上った。BCCIのもう一つの機能は、CIAが、アフガニスタンのムジャヒディーンやイランのコントラを支援する資金の洗浄であった。検察は、BCCIを捜査した際、故意にこのCIAコネクションを見逃した、と言われる。
 BCCIの所有者は、サレム・ビンラディンであった。彼が飛行機事故で死亡した後、その米国での事業を引き継いだのが、サウジアラビア人のハリド・ビンマハフーズと米国人のガイス・ファラオンの2人であった。ビンマハフーズの米国でのビジネス・パートナーは、先に述べたバースであった。
 つまり、ブッシュ大統領のビジネス・パートナーは、CIAの資金洗浄銀行であったBCCIの所有者のビジネス・パートナーであり、オサマ・ビンラディンは、このCIAの資金を受けていた。
 1986年、ブッシュのアーブスト社はハーケン・エネルギー社に吸収合併された。その一年後、同社の経営が傾き、サウジアラビアの王族のアブドラ・タハ・バクシュ王子が17.6%の株を取得した。しかし、実際に出資したのは、ビンマハフーズであったと言われる。またバクシュ王子のサウジアラビアでのビジネス・パートナーはBCCIの米国人所有者ファラオンであった。ここでもブッシュとBCCIとの関係が窺える。
 1988年、当時ジェームズ・ウールセイCIA長官は、上院で、ビンマハフーズの妹がオサマ・ビンラディンの4人の妻の1人だと証言した。
 若きブッシュがビジネスの世界に入り、やがてホワイトハウスにたどり着くまでに、いつもビンラディンの影が見え隠れしている。彼の父が大統領になる前、CIA長官であったことは誰もが知っていることである。

3. アフガニスタン戦争は別名「石油戦争」

(1)中央アジアの石油の埋蔵

 1991年の湾岸戦争が、「石油戦争」であったと同様、2001年のアフガニスタン戦争も、また中央アジアの「石油戦争」である。
 1999年、米下院で、ヘリテージ財団は、アゼルバイジャン、カザクスタン、トルウメニスタン、ウズベキスタンなどの中央アジア4カ国の石油埋蔵総量は150億バレル、及び天然ガスの埋蔵量は9兆立方メートルと推測されると証言した。また、アフガン研究所は、中央アジア4カ国の化石燃料の埋蔵は、金額にすると3兆ドルに上ると、報告した。

(2)アフガニスタンの天然ガスの採掘
 アフガニスタンもまた、かなりの石油と天然ガスを埋蔵している。ソ連占領時代、天然ガスの探査が行われ、埋蔵量は5兆立方フィートという結果が出た。実際、1970年代半ばには、アフガニスタン北部地域で、日産2億7,500万立方フィーとの天然ガスを産出していた。しかし、ムジャヒディーン・ゲリラ活動と、ソ連軍撤退後は内戦が起こり、天然ガスの生産はストップした。
 タリバン時代、アフガニスタンの天然ガスの生産と販売の利権を持っていたのは、「アフガン・ガス会社」であった。1999年には、マザリシャリフ市までのパイプラインの修理工事を開始している。

(3)中央アジアの石油パイプライン建設計画
 一方、アフガニスタンは、将来中央アジアからの石油パイプラインの通過国として、注目されている。すでに、「中央アジア・ガス社(CentGas)」が19億ドルにのぼる石油パイプライン建設交渉をタリバン政権と続けていた。これは、トルクメニスタンの油田からアフガニスタンを通過して、パキスタンにいたる1,271キロの石油パイプライン計画であった。しかし、1998年、交渉が決裂して、撤退した。
 CentGasの株の46.5%を持っているのは、カルフォルニアにあるUNOCAL社である。この他、サウジアラビア・デルタ石油、トルクメニスタン政府、インドネシア石油、伊藤忠、韓国の現代グループ、パキスタンのクレッセント・グループが資本参加している。

(4)中央アジアの石油を支配するのは誰か?
 ペルシャ湾岸の油田は、30年後に枯渇すると予測される。これに代わるものとして、にわかに中央アジアに眠る石油資源の開発が脚光を浴びてきた。中央アジアはロシアの勢力圏にある。しかし、米国はどうしても、中央アジアの石油を支配したい。ロシアと米国は、中央アジアをめぐって激しい覇権争いを行っている。
 しかし、米国、ロシアにとって、ここで問題なのは、アフガニスタンを本拠とするイスラム原理主義である。タリバンとオサマ・ビンラディンのアルカイダ組織が、中央アジア諸国を不安定化している最大の脅威である。この点では、米国とロシアの利害は共通する。
 米国のアフガニスタン戦争が、石油戦争と言われる所以はここにある。