国連  
WSSD第2回準備会議(CSD)で何が議論されたか? 
2002年8月
ニューヨーク、2002年1月28日〜2月8日


第1週目は、地域別の準備会議の報告、Stakeholders Dialogue(関係者間の対話)、政府代表の演説に費やされた。

地域別の報告では、アフリカ・グループが、「アジェンダ21の実施には資金援助が不可欠」であり、「期限付きの公約と行動の指標を明確にすべき」だと主張した。ラテンアメリカ/カリブ海グループが「開発は持続可能で、均等で、総合的であるべき」だと主張した。

Stakeholders Dialogueは、国連加盟国政府の代表と、女性、子ども、青年、先住民、労働者/労組、農民、NGO、地方政府、企業、科学者/技術者の9メジャー・グループとの間で行われた。デサイWSSD事務局長は、これらグループに代表がサミットに参加するよう呼びかけた。
政府側は、ミレニアム宣言の目標をの実施、持続可能な開発のガバナンス、及びヨハネスブルグでは並行して科学者フォーラムを開くと表明した。

9メジャー・グループは、それぞれスピーチの中で、経済正義と政策決定の女性の声を;政府に青年省を設置;ODAの20%を持続可能な開発の教育に;子どもをCSDのメンバーに;サミットでは青年と子どもの発言に2時間を;先住民の自決権;グローバル・ガバナンスの検証;共通の、だが相違のある責任の原則(Common, but Differentiated Responsibility Principle);持続可能な開発に地方政府の参加;持続可能性の文化と持続可能なコミュニティと都市に;職場での持続可能な開発の基準;貿易の障壁にならないような労働基準の実施;規制に代わるのではなく、補完する任意のアプローチ;環境を保全する農民の役割;持続可能な農業方法;農民の市場への力;などについて述べた。

9グループが提起した問題は、企業のアカウンタビリティについて対話;WSSDに消費者の参加;WTOの議論に持続可能性のアジェンダ;NGOの平等参加;パートナーシップの基づいたプロジェクト;経済正義のためのより大きな企業の責任性;さらに、セクター別の問題提起では、水と土地資源の確保;調査結果のオーナーシップとアクセス;倫理と人間の福祉;客観的、透明な指標;職場での不平等の根絶、南の経済と世界貿易政策の改革;公正な環境のガバナンスと正義;持続可能な消費と生産;国際的に持続可能なエネルギー基金;農産物への有害な補助金の廃止とグリーン税;エコビレッジ・モデルの支援;ジェンダーに配慮したデータ―の開発と広めること、などであった。これに対して、政府側は、環境問題に無関心なのはコストと技術的な困難;平和、保健、環境への女性のイニシアティブの重要性;先進国での持続可能な消費と生産の必要性;強大な消費者団体が持続可能な開発の倫理を確立すべき;それぞれの優先順位毎の10年計画;革新的な開発教育のカリキュラム;環境部門だけでなく、すべての関係者が明確な期限付きの行動計画、などを、主張した。
木曜日と金曜日の2日間、政府代表の演説が続いた。

77グループは、ヨハネスブルグ・サミットは、「グローバリゼーション、貧困根絶、非持続可能な消費と生産、実施、持続可能な開発の国際的ガバナンスなどについて、期限付きの行動計画の作成」に中心を置くべきだと述べた。小島嶼国同盟(AOSIS)は、サミットが「海洋、海岸、島を新たな中心課題」とし、「バルバドス行動計画」の実施を要求した。
多くの代表が、3月、メキシコのモンテレイで開催される国連開発金融会議とWSSDをリンクさせるべきだと主張した。
EUは、「人権とグッド・ガバナンスは持続可能な開発の前提条件」、「GDPの成長は貧困や環境問題を解決しない」「アジェンダ21の実施を促進する"グローバル・ディール"が必要」「持続可能な消費と生産の実現」などについて述べた。
日本は、「エネルギーの効率の良い、リサイクル型の社会」と「メガ都市問題の解決」を述べた。
米国は、「国内のガバナンス」と「意思の連合の形成」を呼び掛けた。

第2回準備会議の第1週の週末に、ろうそくのセレモニーが開かれた。これは、労組と青年が組織し、サリム議長(インドネシア)が司会した。参加者全員が「希望のサミット」を歌った。これは、週のはじめのスローな活気のない議論を吹く飛ばす効果があった。

第2週目は、サリム議長の「議論のための問題と提案のリスト(通称「議長リスト」)について議論した。
一方、スエーデンとナイジェリアの2人の副議長が準備した「持続可能な開発ガバナンス」についての非公式なペーパーについても、非公式な協議が行われた。
 議長リストは11項目あり、大きなグループに分けられていたが、反対があったため、すべての項目を並列な扱いにした。

1. グローバリゼーションを持続可能な開発に

 リストには、情報への公共のアクセス;企業のアカウンタビリティ;貿易の障害となる補助金;低開発国からの輸出品の関税、割り当て量制限なしの措置;WTOの透明性とアカウンタビリティ;ドーハの「開発アジェンダ」の促進;デジタル・ディバイド;パートナーシップが入っていた。
 議論は、「貿易が貧困削減の手段」について、南北間で激論があった。G77は「市場へのアクセス」と「貿易の障害となる補助金の撤廃」を主張した。G77は「多国籍企業とグローバルな機関の責任」を主張したが、米国、韓国、トルコ、カナダは「企業の責任性」を入れることに反対した。WTOをめぐって、議論が噴出した。日本はWTOを議題にすることに反対した。

2. 貧困根絶

 リストには、安全で安い技術の拡散イニシアティブの開始;ODAの減少傾向を逆転;非識字者を削減、貧困者の水と土地資源へのアクセス;水と土地資源の生産性の向上;HIV/AIDS対策;農村開発、食糧確保、農村教育の促進;貧困削減についてのミレニアム宣言目標の実現;農村のインフラとクレジット制度の整備が入っていた。
 議論は専ら、この項目の構成と優先順位をめぐって行われた。ノルウエイとエジプトは、すべての項目にわたって「貧困根絶」を主流化すべきだと主張した。南アフリカは、「ミレニアム宣言の目標の実現」を、リストの前文に持ってくることを提案した。農業、保健、教育の領域が優先課題になった。

3. 非持続可能な消費と生産様式

 リストには、技術、貿易、教育政策、調査のインセンティブ、任意の行動規約などについて変える;廃棄物管理戦略;メディア;エネルギー効率;企業の責任;消費者の情報手段、異なった価値を推進、などが入っていた。
 議論では、食糧安保と食糧へのアクセス、女性の役割、都市の貧困の根絶、起業と市場アクセスを通じて経済を多様化、伝統的な知識、地球のキャパシティ、途上国の移行段階での公共投資などが追加になった。一方、WTOに関するくだりを削除することに反対の意見が出た。

4. 保健

 リストには、途上国でガソリンの鉛を削減、屋内空気の改善の地域プログラム、及び衛生施設と廃棄物管理技術の拡散についての公と私のパートナーシップ・イニシアティブの開始;水の基準;食品と牧畜の基準;CSD2012年目標にある安全で、安い水と衛生施設へのアクセス;保健制度のキャパシティ;HIV/AIDS、デング熱、マラリアなどの伝染性疫病;などが含まれていた。
 議論では、空気と水の汚染、汚水処理、地下水の砒素汚染、海洋の広域汚染、食糧安保における女性の役割、及び安全で、栄養的に適切な、文化的に適応した食糧の確保、労働災害、労働安全、医療廃棄物管理、植物性医薬品など伝統的知識、特許権などが、加えられた。EUはWHOの指標の使用と病気の予防、サーベイランス、治療についての途上国政府の努力の必要性を提案した。チリは、幼児と出産の死亡率の削減を支持した。

5. エネルギー

 リストには、再生可能なエネルギー、持続可能なエネルギーへの資金、天然ガスの使用奨励などのグローバル・イニシアティブ;その行動計画;途上国のエネルギー・インフラ建設援助;公共輸送機関投資、無鉛燃料の能力育成のグローバル・イニシアティブ;などが含まれていた。
 議論では、G77が「貧困削減にエネルギー問題が重要である」と述べた。サウジアラビアは、「これまでのCSDの慣例にしたがって、エネルギー問題をすべての項目に入れ込む」ことを要求した。これに対して、小島嶼国グループが「気候変動によって影響を受ける」こを強調した。新たに、クリーンな化石燃料;水力発電;エネルギーの多様化、農村の電化;技術効率化;などが付け加えられた。

6. 天然資源の管理

 リストは、種の多様性;知的所有権;山岳のエコ・システム;有害廃棄物と放射能廃棄物の国外輸出;自然災害;土地の疲弊と管理;森林;化学物質の安全;廃棄物管理;さまざまな条約の実施強制;2015年までに種の資源の消滅傾向を変える;沿岸漁業コミュニティ;水資源の分配;国際河川の地域協力イニシアティブ;水の質、量、使用などのモニターと評価;水へのアクセス;旱魃と洪水の管理;などであった。
 議論では、EUが「国際淡水会議の勧告の採択」を提案したが、G77が反対した。また多くの代表が、巨大な水インフラ・プロジェクトの否定的影響を主張した。議論の結果、伝統的知識の知的所有権のについて法制度の必要性;森林の使用と管理の法制度;エコツーリズム;エコシステムによる資源の管理;自然災害の影響;気候変動の影響;乾燥地と砂漠化;鉱山;淡水;産業水公害;川下の住民に安全な水を確保;陸地からの海洋汚染;漁業、湿地マングローブ林、熱帯雨林;排他的経済水域の管理;保護地で捕獲された種の使用禁止;などが加わった。エジプトとNZが「国連海洋法条約を海洋管理の法制度にする」ことを主張した。日本は、海洋安全、海事汚染防止についての国際海事機構(IMO)条約の条項を提案した。議論の中では、グローバルな公共財に参照することに反対する意見があった。

7. 実施手段

 リストには、資金問題が優先項目であった。これにはアジェンダ21の目標、低開発国へのODA、債務、グローバル環境基金(GEF)への拠出、マクロ経済の環境問題、信託基金提案、民間投資などが含まれる。科学と技術移転については、途上国に環境にやさしい字壱拾つの移転、特許、産業生産力の向上などが含まれていた。教育と能力向上の項目では、グローバルな能力向上のパートナーシップ、女性のエンパワーメントなどがあった。
 議論では、持続可能な開発の資金のメカニズムが提案された。それは貿易と市場へのアクセス、HIPCsイニシアティブ、国内資金調達、債務削減、債務帳消し、債務と持続可能な開発とのスワップ、炭素税などが提案された。先進国は、GEFを第1義的な資金のメカニズムとすることを主張したが、途上国は信託基金を主張した。ジンバブエはリオではGEFは拒否され、その後、GEFは役にたたないことが証明された」と述べた。G77は、知的所有権を主張した。カナダは、教育コミュニティを10番目の関係者グループとすることを主張した。

8. アフリカと砂漠化

 アフリカに関するリストは、農業生産性の向上、安い技術へのアクセス、貧困、保健、資源の管理、公共輸送機関の改善、地域協力の促進、「新アフリカ・パートナーシップ開発(NEPAD)が入っていた。砂漠化問題では、国連砂漠化防止条約(UNCCD)の実施、適切な、予想できる資金、GEFによる融資、などが入っていた。
 G77は、アフリカと砂漠化を2つの項目に分けることを提案した。そして、NEPADを優先項目にすべきであると主張した。これをカナダ、米国、EUが支持した。

9. ガバナンスと持続可能な開発

リストには、持続可能な開発の国内戦略の実施;多国間環境諸協定(MEAs)間の共同の促進、国内レベルでの持続可能な開発の実施のマニュアル作成;アジェンダ21実施委員会の設置;グローバルな持続可能な開発の法廷の創設、女性の権利の保証、青年省の創設、UNEPの強化;などが入っていた。
 議論では、G77がCSDに新しい機能をつけることを検討すべきだと提案した。一方、米国、カナダ、トルコ、ロシアは持続可能な開発の国内レベルでの実施が重要だと主張した。メキシコは持続可能な開発は国際レベルからスタートすべきだと述べた。

2人の副議長の非公式な「持続可能な開発ガバナンス」ペーパー

 リストには、国内の各省庁の調整;国連決議の実施;国連決議と国際金融機関、WTO決議の整合性;1990年代に開催された世界会議、ミレニアム宣言、WSSDの決議の調整;国連開発金融会議とWSSDの決議間の調整;CSDと他のECOSOC下の委員会との調整;国連機関を実施に関与させる;などが含まれていた。
 議論は国連諸機関の代表によるパネル・ディスカッションの形で行われた。ここでは、他の項目の議論と同様、「国内レベルのガバナンスの確立」を主張する先進国と、「国際レベルのガバナンスが先」と主張する途上国との南北対立があった。また、G77は、国内の持続可能な開発戦略の作成にUNDOの関与を主張した。EUは、3月の国連開発金融会議の成果をWSSDに繋げることを提案した。中国は、国際環境ガバナンス(IEG)をWSSDで討議することに賛同した。エジプト、カナダ、南アフリカは、CSD会議に環境大臣ではなく、他の省の大臣が出席すべきだと提案した。米国は、情報へのアクセス、Stakeholderの参加などを述べた。
 この「ガバナンス」の非公式ぺーぱーは、第3回準備会議で、正式に議論される。

第2回準備会議の最終日の2月8日、サリム議長は議論を総括した4つのペーパーを提出した。
 その中の第4のペーパー「議長リスト」は、第3回準備会議の交渉のベースになるものである。
前文;貧困根絶;非持続可能な消費と生産の変革;社会経済開発のために天然資源の保護と管理;グローバル化世界の持続可能な開発;保健と持続可能な開発;小島嶼国の持続可能な開発;アフリカの持続可能な開発イニシアティブ;実施手段;国内、地域国際レベルでの持続可能な開発のガバナンスなど、9つのリストから構成された。この全文は、国連のWebに載っている。
 準備会議の閉会式のスピーチでは、日本は「エネルギー節約とリサイクル型の実践、環境教育の推進、淡水、食糧安保、持続可能な農業へのアクセスの重要性」を強調した。

第2回準備会議の成果は何か?

 WSSDの目的は、「アジェンダ21の実施の検証とグローバル(南北間)・パートナーシップの必要性」にあり、コンパクトな決議文を採択することにあった。決して「アジェンダ21の議論を蒸し返すものではなかった。
第3回準備会議の交渉のベースとなるサリム議長のペーパーは、各国政府代表から、お世辞たらたらの高い評価を受けたが、実際には、「貧困根絶」の項を除いて、ほとんど合意が得られなかった。また、これまで、何を優先項目とするかについても、南北間に合意はない。また、地域の準備会議やStakeholder Dialogueの議論が、議長ペーパーには全く反映されていないという不満の声が大きかった。多くの代表が、実際にペーパーを書いたのは、事務局であると、ぐちをこぼした。
 にもかかわらず、成功だったと言えよう。それは議長ペーパーが、それぞれの地域を満足させるように書いてあったからであった。貧困、実施手段、消費、持続可能な開発のガバナンスなどの項目はG77、海洋は小島嶼国グループ、貧困、パートナーシップ、決議の任意性(達成時期などが抜けている)はEU、国内ガバナンス、市場、決議の任意性は、日、米、などJUNCAMZ、エネルギー問題を拡散させたことはサウジアラビアをそれぞれ満足させた。
総じて、議長ペーパーは「願望のリスト」に留まっている。これを期限付きの行動志向型の提案に変えるのは第3回準備会議に残された課題である。
 ユハネスブルグ・サミットは、65,000人の参加が予想され、国連史上始まって以来の大会議になる。しかし、リオのような熱気に欠けており、国家元首が何人出席するかは不明である。彼らは様子眺めで、ジャカルタの第4回準備会議後にSWWDが採択する文書の内容がわかってから、参加を決めるだろう。マスメディアも準備会議の様子をほとんどカバーしなかった。
 一方、2002年はサミット級の会議が3つも開かれる。3月18〜22日、モンテレイでハイレベルの国連開発金融会議、6月の食糧サミットが開催される。5月にエコツーリズムのサミットが開催されるかも知れない。8月のWSSDの頃には、サミット疲れが出てくるであろうと懸念される。
また政治家にとっては、環境は、最優先項目ではない。専ら、テロ、安全保障、新たな紛争などが政治問題になっている。オランダのプロンク環境相が、国連事務総長のWSSD特別代表に任命され、これまでの国連環境会議の開催国である1972年のスエーデン、1992年のブラジル、南アフリカの3国代表と共に、8月に世界を回って、国家元首の出席を促す。
 第3回準備会議のハイライトは、ガバナンス問題である。これには、「国際環境ガバナンス(IEG)」の結論と「持続可能な開発ガバナンス(SDG)」の定義が明らかになることが前提条件である。北の先進国は、ドナーとして、SDGを支持し、途上国の国内のガバナンスを確立する必要性を強調する。環境問題のガバナンスに関する文書は、UNEPの「多国間環境協定」のみである。また、CSDを除いては、ガバナンス機構がない。しかし、CSDは、10年も会合を重ねているが、非常に非効率的な機関である。国連改革の対象になっているが、国際金融機関との関連が、ミッシング・リンクである。
 ヨハネスブルグ・サミットで採択される宣言文の草案は5月の第4回準備会議までに書き上げられる。