国連  
ヨハネスブルグ・サミット(WSSD)の総括・その6
2002年8月
 

第9章 実施手段

 この章では、「資金」「貿易」「技術移転」「能力向上」「教育」などの項目が対立点であった。第4回準備会議から送られた、(1)新たな、追加の資金源の動員、(2)モンテレイ合意でのODAの公約、(3)グローバル環境基金(GEF)の拠出、(4)ドーハWTO閣僚宣言、(5)輸出補助金、(6)環境と貿易の相互支援などの項目にブラケットが付いていた。
 事務レベル会合では、まず、貿易関連以外の項目を審議した。
 さらに、「貿易と資金」については、John Ashe大使を議長とするコンタクト・グループに委託された。そこでは、Ashe大使が、「貿易」「資金」「グローバリゼーション」について、バリ準備会議のテキストを修正したテキストを審議の叩き台として提案した。「グローバリゼーション」については、第5章、「グローバル化した世界での持続可能な開発」にあったものが、実施手段の章に統合された。Ashe大使の修正案は主として、7月、ニューヨークで開かれた"議長の友だち"の会合での議論をベースにしたものであった。
 G77は、「第5章、グローバル化した世界の持続可能な開発の章を復活させる」ことを要求した。その中の主要な個所は、Ashe大使、南アフリカのMoosa環境相、Alexander Erwin南ア貿易相との間で纏められた。
 G77は、「Ashe大使の修正案は、バリで合意した文書のバランスを失なっている」と不満をもらした。つまり、G77は、(1)モンテレイ合意に盛られた対外債務、(2)貿易交渉(WTO)での途上国の有効な参加、(3)関税、(4)貿易交渉における開発側面などを復活させるべきである、と主張した。
 この章にあった「グッド・ガバナンス」の項目は、第10章の「制度的枠組み」に送られた。

1) 資金

 序論に盛られたリオ原則の「共通だが、差異のある責任」について、合意に達しなかった。
 G77は、「資金の動員」についての項目に、「ガバナンス」を入れることに反対し、これを、「健全なマクロ経済政策を主体的に取り組むこと」に代えるよう主張した。
 日本と米国は、「国連事務総長がODAをモニターする役割」について反対した。

2) 貿易

 ドーハWTO閣僚宣言で合意した文書を審議し、さらに前進させるか否かをめぐって議論が集中した。例えば、低開発国からの輸出品に対して、関税免除、数量制限なしにするために「それに向かって努力する」「強く要請する」、あるいは「公約する」かの文言について合意出来なかった。
 EUは、「環境に害のある/貿易を阻害する補助金を削減する、あるいは段階的に廃止する」という表現に異議があることを表明した。
 米国は、EUに賛成し、「ドーハの補助金に関する作業プログラムを達成するよう呼びかける」という対案を提起した。
 「貿易と環境の相互依存性」について、長時間、議論が続いた。これについては、「貿易が環境より優先するか否か」というヒエラルヒー問題について代表団ごとに理解が異なった。オーストラリアと米国は、貿易、または貿易に関連した活動についてのWTOの互換性を保証する文言を挿入することを要求した。EUは、WTOに関連した新しい文言について、「憂慮している」ことを表明した。G77はEUが提案した「持続可能性の影響の評価」に言及することを拒否した。また、G77は、一次産品の価格の変動と貿易条件の悪化に対処するために市場価格を安定する「国際的メカニズムの確立」を提案したが、採択されなかった。

第10章 持続可能な開発のための制度的枠組み

 この章全体の審議は、スエーデンのLars-Goran Engfeldt大使とナイジェリアのOsitadinma Anaedu大使の共同議長によるコンタクト・グループに委託された。準備会議中は、オランダのKoen Davidse大使が議長を務めるコンタクト・グループによって審議された。しばしば、関係諸国の小グループの会合が持たれた。
 コンタクト・グループは、(1)「共通だが、差異のある責任」の用語、(2)法の秩序、人権と基本的自由の尊重、(3)政府機構を強化する、(4)貿易と資金、(5)GEFのマンデート、資金、及びCSDの資金的メカニズムとしての将来的役割の拡大、(6)多国間環境協定(MEAs)の資金の増大、(7)社会的側面の統合、(8)国内レベル、国際レベルのグッド・ガバナンス、(9)WSSDとモンテレイ合意のフォローアップにおけるECODSOCの役割、(10)パートナーシップと将来の形態、(11)共通だが、差異のある責任(CBDR)原則の実施化、(12)MESsの間を差別しない、(13)2005年までに、持続可能な開発の国内戦略を実施、(14)情報、政策決定、正義への人びとのアクセスについてのガイドライン、(15)人権と環境保全の関係、などの項目について審議した。
 第10章にも含まれていた「貿易と資金」「GEF」「共通だが、差異のある責任」などの項目は、これらの項目を審議するコンタクト・グループの結果を待つことになった。しかし、このコンタクト・グループは合意に至らず、結局、事務レベルに差し戻され、さらに閣僚会議に送られた。
 「国内レベルのグッド・ガバナンス」をめぐって、G77と先進国が対決した。結果的には、これは、「貿易と金融関係の国際機関(WTO、IMF、世銀など)のガバナンス」の問題とパッケージにして、双方が引き分けになった。
 閣僚会議によって委託されたコンタクト・グループでは、EUが提案した「人権」「社会的側面」「グッド・ガバナンス」「パートナーシップ」「情報へのアクセス」などの対立項目をパッケージにして、スエーデンとナイジェリアの共同議長が、新しい文言を提案した。 
 しかし、EUは削除することを断固として拒否し、G77と米国は、議事進行的な観点から削除を主張し、ついに内容の審議に至らなかった。その結果、新に、閣僚会議のMoosa議長によるインフォーマル交渉が始まった。ここでは、単純に「削除するか、しないか」という議論が交わされた。長時間の議論の末、共同議長の提案した文言を僅かに修正したものが採択された。