国連  
ヨハネスブルグ・サミット(WSSD)の総括・その5
2002年8月
 

第4章 天然資源の保護と管理

 この章は準備会議でほとんど合意に達した。ブラケットがついていたのは、(1)天然資源の枯渇傾向の逆行、(2)衛生の目標値、(3)国連海洋法条約(UNCLOS)、(4)持続可能な漁業、(5)漁業資源の目標値、(6)沿岸途上国の漁業の権利、(7)国際海事機構(IMO)の実施、(8)京都議定書の成立、(9)共通だが、差異のある責任の原則、(10)農業補助金の段階的廃止、(11)不法な収穫物との闘い、(12)砂漠化防止条約(CCD)の資金的メカニズムとしてのグローバル環境基金(GEF)、(13)生物多様性の枯渇の比率を減らす期限目標、(14)恩恵をシェアする国際的制度についての交渉、などであった。

1)天然資源の顧客傾向の逆行

目標値の設定、エコシステム関連、予防的アプローチなどが、事務レベル会合、インフォーマル交渉、小グループ交渉など数えきれないほどの会合で議論されたが、合意に達せず、閣僚会議に送られた。
 閣僚会議では、EU、ノルウエー、スイスは、「天然資源の枯渇を逆行させる目標値の設定、エコシステム、予防的アプローチ」を主張した。G77は「枯渇傾向を逆行させる」という表現に反対した。オーストラリア、日本、米国、カナダは「天然資源の枯渇を測る科学的根拠がない」として「目標値の設定」に反対した。
 スイスは、2015年という目標値は、生物多様性の第6回議定書会議で合意したことを強調した。議長が調停案を出したが、それには目標値、エコシステム、予防的アプローチも入っていなかった。この調停案を支持したのはオーストラリア、G77、米国で、EUが反対した。長い議論の末、議長案に修正を加えた文章、すなわち「天然資源の枯渇傾向そ逆行させるためには、エコシステムを保護し、土地、水、生物資源の統合的管理を達成するために、国内、あるいは適切なところでは、地域レベルで採択された目標値を含む戦略を実施する必要がある」が採択された。

2)衛生

 衛生設備へのアクセスの目標値については、第2章貧困根絶の章の議論に廻された。

3)海洋

 UNCLOS、枯渇した漁業資源の回復の目標値、漁業の権利、IMOにブラケットが付いていた。これらの項目は、インフォーマル交渉に委託された。UNCLOSについては、議長案の「UNCLOSの批准、あるいは完全な実施を促進する」の「完全な」を削除したものを採択した。
 漁業資源については、「均等な漁業」の「均等な」を削除した。漁業資源については、EUが回復の目標値を挿入することを主張し、カナダ、G77、日本、韓国、米国が、科学的根拠に基づくべきだとして、反対した。議長が、「必要なかぎり、2015年までに」を提案し、採択された。
 沿岸途上国の漁業の権利、つまり「漁業資源のシェアを与える」については、事務レベル会合で、この権利が、現行の国際法に基づくものなのか、新しい権利ならば、前例になるのではないか、という疑問が出た。米国、日本はUNCLOSの表現、「沿岸国の権利、義務、権益、とくに途上国に配慮する」を援用することを主張し、これに合意を見た。
 IMOについては、「災害の管理の有効な戦略と支援を設立」という草案を採択した。

4)気候

 「2002年中に京都議定書を成立させるために、あらゆる努力をするよう国家首脳に要請したミレニアム宣言」についての項目にブラケットが付いていた。事務レベルの会合の議長は、小グループの交渉に廻したが、まとまらず、ついに閣僚会議に送られた。南アフリカのMoosa議長は、日本に対して、関心のある代表団と交渉するよう要請した。米国は「京都議定書から脱退しているので、"すべての国に批准を要請する"という文章は受け入れられない」と言った。アルゼンチン、コスタリカ、キューバ、EU、アイスランド、日本、メキシコ、ナミビア、ノルウエー、ウガンダなどが、「気候変動で多くの脅威を受けており、すでに批准している」ことを強調した。サモアは、「小島嶼国の不安」を強調した。
「京都議定書は、気候変動に対応する主要な(Key)手段である」ことに同意し、「京都議定書にすでに批准した国は、まだ批准していない国に対して、適切な時期に、批准するよう強く要請する」という文章が採択された。

5)共通だが、差異のある責任

 リオ原側の議論に廻された。

6)農業

 コンタクト・グループの交渉で合意できなかった項目は(1)市場アクセスを高めること、(2)輸出補助金を廃止すること、(3)貿易障壁行為を減らすことなどであった。
 ヨハネスブルグ直前に、「麻薬栽培と闘う国の通常作物の国際市場へのアクセスを強める」の項目で、G77が提案した「麻薬植物の非合法な栽培」という表現で合意に達した。

7)砂漠化

 この問題は、ヨハネスブルグ直前に、インフォーマル交渉で合意に達した。砂漠化防止条約の資金メカニズムとしてGEFを設立することに同意した。

8)生物多様性

 インフォーマル交渉で合意に達せず、閣僚会議に送られた。対立点は「生物多様性喪失比率を減らす期限目標の設定」と「法的に強制力のある利益のシェアを促進、確保する国際制度の設立を呼びかける」の2項目であった。閣僚会議のインフォーマル交渉の議長はカナダが、「利益のシェアの制度」にブラケットを付けたまま、「2010年という目標値を含んでいる生物多様性条約の第6回議定書会議」の表現を提案した。これには、G77、ブラジル、オーストラリア、EU、ノルウエー、米国が賛成した。ついで、カナダとメキシコが交渉を続け、「2010年までに、生物多様性の現在の損失を"かなりの量"を減らすためには、途上国には"新しい、追加の資金と技術"が必要となるであろう」という文章を提案した。議論は「法的に強制力のある国際制度」をめぐって続いた。オーストラリア、スイス、米国は、単に「国際的なアレンジメント」で「法的に強制力のある」を削除することを主張した。G77は「法的に強制力のある」を削除することに同意したが、「国際制度」を主張した。メキシコとインドは「任意のガイドライン」では不充分だと主張した。米国は、「法的に強制力のある」とは「WTOのTRIPs協定を指すことになる」と述べた。最終的には「法的に強制力のある」が削除された。

第4章 グローバル化の世界での持続可能な開発

 「グローバリゼーションの特徴」と「企業責任」の2点が議論された。
 「グローバリゼーション」については、アンチグア・バーブーダのJohn Ashe議長でコンタクト・グループで8月29日まで審議され、閣僚会議に送られた。「グローバリゼーションの特徴」については、米国が、国連子ども特別総会の決議分を提案し、EUは「WSSDがこれまでの決議を前進させるという期待を裏切ることになる」として反対した。G77は国連社会開発サミット+5の表現を提案した。
 最終テキストは、「深刻な挑戦が金融危機、不安定化、貧困、疎外、不平等などを含んでいることを認め、国内、国際レベルでの政策を呼びかける」「ドーハ閣僚宣言を成功裡に達成、モンテレイ合意を実施、そして、公開で、透明性のある政策決定を確保、途上国が貿易で利益を得るような能力を高めることを支援、グローバリゼーションの社会的側面を推進するILOを支持、貿易に関連した技術移転と能力向上を促進することを呼びかける」という表現で合意した。
EUとG77は、序文の「企業の責任」について、新しく提案された文章を支持した。このテキすトはコンタクト・グループで長時間、審議された。
 「リオ原側に基づいた企業の責任とアカウンタビリティを積極的に促進する」という表現に合意した。

第6章 健康と持続可能な開発

 この章は、準備会議の段階でほぼ合意に達した。しかし、バリの閣僚会議の閉会式で、カナダ、オーストラリア、EU、スエーデン、スイスが、「国内の法律、宗教、価値に基づいて、すべての人に基礎的な保健サービスを提供するヘルスケア制度の能力を強める」という表現に関しては合意していない、と発言した。カナダは「国内の法律、宗教、価値に基づいて」に続いて、「すべての人権と基本的自由に合致して」を挿入することを主張した。
バリにおいては、このカナダの発言は、国連事務局の議事録に記録された。
 カナダはヨハネスブルグの事務レベルと閣僚会議で、この問題を提起した。これに対して、米国、G77、バチカンは、準備会議ではすで草案に合意に達しており、ヨハネスブルグで再審議することに反対した。カナダは事務局の議事録を示して、審議を主張し、とくに国連子ども特別総会の決議を示した。EU、ハンガリー、アイスランド、ニュージーランド、ノルウエー、メキシコ、スイスがカナダを支持した。反対派はこれが他の項目の再審議につながることを恐れた。
 カナダは、閣僚会議の最終段階で、修正案を配布した。インフォーマル交渉で緊張した審議の末、「ヘルスケアとサービス」を「均等なヘルスケア・サービス」に代えて、この項目は採択された。
 しかし、閉会式において、米国は「ヘルスケア・サービスは中絶を意味しない」と声明し、バチカンその他の国は、「人間の生命の尊厳」を強調した。一方、他の国は、「ジェンダー・センシビリティ」を強調した。

第7章 小島嶼国(SIDs)の持続可能な開発

 この章では、(1)国連海洋法会議(UNCLOS)の枠組みでの沿岸地域と排他的経済ゾーンの規定と管理のイニシアティブ、(2)廃棄物と公害の削減、防止、コントロール、2004年までのグローバル行動計画の実施を目指した健康に対する影響を管理する期限の設定、(3)手に入るエネルギー資源の効率的な使用を開発、促進」などについて合意に達していなかった。
 事務レベル会合では、(2)と(3)について合意した。(1)については、「海岸線より200浬外の大陸棚の制限廃止と管理を支援する」という文言の挿入された。

第8章 持続可能な開発とアフリカ

(1) 人権の擁護、(2)エネルギーへのアクセスの増加、(3)ヘルスケア・サービスへのアクセスの確保、(4)気候変動に対処する資金の動員、(5)土地所有と資源の権利の保障、(6)アフリカの生物多様性の保全などの項目にブラケットが付いていた。
事務レベルの会合では、これらの項目はインフォーマル交渉に委託された。
 (7)リオ原則、(8)貿易と資金、(8)気候変動、(9)エネルギー、(10)健康などの項目については、コンタクト・グループの審議に送られた。
 事務レベル会合では、(11非持続可能な債務の重圧、(12)ODAの減少、(13)市場アクセスの項目については、合意を見た。
 合意に達しなかった項目については、閣僚会議で議論され、「すべてのレベルで、持続的な成長と開発を支援することを可能にする環境をつくりだす」「人権と基本的自由を尊重した平和と安定へのアフリカの努力を支援する」「ヘルスケア・サービスへのアクセスを支援する」についての項目に合意した。