国連  
ヨハネスブルグ・サミット(WSSD)の総括・その4
2002年8月
 

6.WSSD「世界実施文書」草案の審議の要約

第1章 序論

1) 2つのリオ原則

 「アジェンダ21」のリオ原則は、実施文書草案の各所に記述されている。事務レベルでの審議の末、南アフリカを議長とする非公式の小グループに送られた。そこではまとまらず、8月31日、閣僚レベル会合に送られた。

(1)「共通だが、差異のある責任」
  これは27のリオ原則の7にあたる原則で、「グローバルな環境悪化にたいする差異のある貢献にかんしては加盟国は共通だが、差異のある責任を持つ」と記載されている。
 実施文書草案には貧困根絶、消費と生産の章で「第9回CSDの勧告を実施する」、天然資源の保全と管理、実施手段、制度的枠組の章で参照され、ブラケットが付いていた。
 小グループの協議では、このリオ原則に「、、、を考慮に入れて」「、、、を記憶して」というフレーズを付けることで合意した。しかし、実施手段の章の「この原則を実行するための方法論を確立する」は合意できなかった。
 途上国は、この原則を第9章の資金の項に入れることを強く主張したが、米国、日本、オーストラリアは、「この原則は、環境に限定されたもので、資金の項目には関係がない」として、反対した。
 閣僚レベル会議には、小グループから1つのパケージとして送られた。ここでは、第9章の資金の項についても、途上国の主張が通り、「、、、を考慮に入れて」のフレーズを付いたものが合意になった。
 しかし、第10章制度的枠組では、この原則の記載は削除された。

(2)「予防的アプローチ」
 これはアジェンダ21のリオ原則の15で、「環境保全のために、国家は、その能力によって、予防的アプローチを取らねばならない。重大、かつ修復できない損害か起こる脅威がある時、完全な科学的証明の欠如は、環境破壊を防ぐための費用効果的な手段を遅延する口実にしてはならない」と記載されている。
 実施文書草案には、「化学物質の安全な管理」「エコシステムの保全」「環境と健康を保全する決定権」などの個所に入っている。
 WSSD開催以前に合意していなかったのは、(1)「予防的アプローチ」という言葉を記載すること、(2)他の国際協定に関連して使われている場合、(3)健康に関して使われている場合、(4)保護貿易主義に関連して使われている場合、(5)リスク評価や管理に使われている場合などである。
 米国、日本は、リオ原則15で使われた「予防的アプローチ」という表現を支持したが、EUとノルウェーは、リオ以来、WTOの衛生・検疫(SPS)協定、生物多様性条約など他の国際協定などで、予防的措置のコンセプトが発展しているので、「予防的原則」に代えることを主張した。
 しかし、長い議論の末、「予防的アプローチ」の表現で合意した。
 EU、ノルウエー、スイスは、他の国際諸協定に参照することを主張したが、米国とオーストラリアは、他の諸協定はすべての国連加盟国に拘束力を持っていないとして、またある国ぐに(EUのホルモン牛肉問題を指す)が、他の国の製品をボイコットする場合に予防措置を口実にするとして、反対した。またEUは予防措置がリオ原則では環境に適用されているが、これを健康にも広げるべきだと主張した。米国は、反対した。米国の主張が採択された。

2)「化学物質」

 EU、ハンガリー、ノルウエー、スイスは人間の健康と環境に害を与えないように生産、使用するために、リスク評価と管理が必要だと主張した。G77+中国は第8回CSDの文章、つまり「予防的アプローチを考慮に入れた、透明な科学的根拠に基づいたリスク評価と管理プロセス」という表現を提案し、これが合意を見た。EUが提案したパラグラフは削除された。
 
3)「人権と持続可能な開発」

 これは、外国の占領、人権、テロについての言及個所とともに争点となっていた。これは、準備会議で設定されたインフォーマル・グループで合意した「開発の権利を含む人権、基本的自由、及び文化の多様性の尊重は、持続可能な開発にとって肝要である」という表現が採択された。

第2章 貧困根絶

 ここでは、貧困根絶は最大のグローバルの挑戦である。貧困根絶の数値と期限目標を設定した。対立点は、(1)貧困根絶の「世界連帯基金」の創設、(2)先住民とそのコミュニティの経済活動へのアクセスの改善と、持続可能な収穫を含む、再生可能な資源とエコシステムへの依存を認める、(3)衛生の改善の目標設定、(4)エネルギー・サービスねほアクセスの改善、(ILOのコア労働基準などであった。

1)「世界連帯基金」

 準備会議では、インフォーマル・グループの交渉になり、これはWSSDがはじまって1週間も続いたが、まとまらず、ついに閣僚レベルの会議に送られた。
 G77+中国は支持だが、EUが、新に行ったODAの公約を実施しなければならないという理由で反対した。ノルウエーは、途上国が必要なのは資金であって、新しいメカニズムではない、という理由で反対した。G77+中国は、新たなメカニズムではなく、国連の下に置かれると説明した。アルゼンチンはグローバリゼーションが貧困を悪化させていると発言した。オーストラリアは、基金はボランタリーなものである限り、賛成と言った。
閣僚レベル会合では、草案通り採択され、「世界連帯基金」の創設が決まった。

2)「先住民」

 この問題は、WSSDが始まる前に、非公式の小グループの交渉で合意を見ていた。米国は賛成だが、なぜ先住民に特定するのかを疑問視した。G77+中国は、先住民を複数の文字にすることを提案したが、日本とEUが反対した。
 草案通りに採択された。 

3)「衛生」

 ブラケットになっていたのは、2つの対立する提案文章であった。第1は、衛生設備にアクセス出来ない人びとを2015年までに劇的に減らす、第2は、ミレニアム開発ゴールの水に対するアクセスに衛生へのアクセスをリンクさせる、という草案であった。
 (2)の水と衛生をリンクさせることについては、米、EU、G77、日本が賛成した。
しかし、衛生アクセスの数値と時限目標についたは、カナダを議長とする小グループの交渉に委託された。しかし、小グループでは、「衛生設備にアクセス出来ない人を2015年までに半分に減らすこと」に合意できず、閣僚レベルの会議に送られた。
 閣僚会議では、EUとノルウエーが「ソフトな勧告」に反対し、明確な目標値を入れることをを主張した。パキスタンとサウジアラビアは、実施の手段を入れることを主張した。一方、米国は「目標値を入れるには、科学的根拠が必要である」として、反対した。
 議論の末、「2015年までに半減する」ことに合意した。

4)エネルギーへのアクセス

 この問題も、小グループの交渉に委託されたが、合意に達せず、閣僚レベル会議に送られた。
 EUは、「エネルギーへのアクセスのために、資金的、技術的援助を伴なった行動計画の開始」を提案した。これに対して、G77は、「グローバルな行動を開始するのは、時期尚早である、と述べた。米国は、国別の状況を考慮すべきだと述べた。最終的には、エネルギーへのアクセスを改善するために、「あらゆるレベルで、共同行動をし、かつ共同行動する努力をする」という文章で合意した。

5)ILOのコア労働基準

 この問題は、準備会議では、インフォーマル・グループの交渉に委託されてきたが、事務レベルの会議で合意に達した。
 G77は「所得増につながる雇用の増大を援助するについては」、「ILOのコア労働基準を尊重して、、、」を「加盟国が締結し、批准したILO条約に盛られた原則と権利を尊重して、、、」に代えることを主張した。スイスとEUは、「労働の基本的原則と権利についてのILO宣言を考慮に入れて、、、」を提案した。全員がこれに合意した。
 この議論の中心となった「児童労働」については、「最悪の児童労働を廃止する手段を直ちに採る」「途上国が児童労働とその根本的な原因に取り組むための援助を要請したとき、国際協力を促進する」という表現で合意を見た。。

第3章 非持続可能な消費と生産を変革

 この章は、特に加盟国政府、関連国際機関、企業、市民社会に対してグローバル・レベルでの持続可能な開発を達成するために消費と生産を変革する行動計画を提案している。準備会議で合意に達せず、ブラケットになっていたのは、持続可能な消費と生産に関連した個所、エネルギー、化学物質の項目であった。

1)「持続可能な消費と生産」

 とくに、(1)持続可能な消費と生産にシフトするために10ヵ年計画、(2)ライフサイクル・アプローチ、(3)エコ・ラベル、(4)先進国の持続可能な消費と生産を阻む有害で、貿易を妨げる補助金を削減、廃止、または段階的になくす、などの項目であった。
 最初は事務レベルの会合で議論され、ついで、小グループの交渉に委託された。
 また、リオ原則と、資金問題に関しては、コンタクト・グループの交渉に委託された。
 事務レベルの議論では、EUとハンガリーが「ライフサイクル・アプローチ」を主張したが、米国、日本、韓国、G77が反対した。消費者の情報手段としてのエコ・ラベルについての一般的なコンセンサスはあったが、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、G77は、「ボランタリーなもの」に留めることを主張した。これに対して、EU、日本、スイスは「強制的」であるべきだと主張した。ノルウエーとカナダが「適切な場所では」という挿入句を提案した。
(1) から(4)までの項目について、サモア代表が議長となったインフォーマル・グ
ループに委託されたがされてが、合意に至らず、閣僚会議に送られたが。(1)については「10ヵ年計画を発展を奨励し、促進する」という表現で合意した。(2)については、「ライフサイクル・アプローチのような科学的根拠のあるアプローチを、適切な場所で、使う消費と生産政策を発展させる」という表現で合意した。(3)については、「ボランタリー・ベースで」が入った。

2)「エネルギー」

 ここでは、(1)よりクリーンな、効率のよい化石燃料の開発を通じて、また再生可能なエネルギーのグローバル・シェアを増やす目標で、エネルギー供給の多様化、(2)エネルギー補助金を急速に廃止するタイムテーブルにむかって、国内レベルの政策を採択、(3)第9回CSDの枠組みで行動を発展、実施、(4)信頼できる、手に入れることができる、経済的に可能な、社会的に受け入れられる、環境に優しいエネルギーの技術を推進するボランタリーなパートナーシップなどにブラケットが付いていた。アルゼンチンが議長となったインフォーマルな交渉に委託された。
 しかし、合意に至らず、事務レベルの会合にさし戻された。そこでは、EU、ノルウエー、ニュージーランド、スイス、アイスランド、ツバル、東欧を代表してポーランドが「再生可能なエネルギーを増やす数値と期限目標」を支持した。G77を代表したイランが、「これは先進国の問題であり、すべての貧困層にエネルギーへのアクセスを保証するという優先課題を逸らすことになる」として、「目標」を入れることに反対した。
 米国、オーストラリア、カナダ、日本は、「目標値が、画一的に導入されることに反対し、再生可能なエネルギーの導入については柔軟に対応すべき」だと主張した。「エネルギー補助金」については、米国、G77、オーストラリア、カナダ、日本が「補助金廃止の期限を決めた段階的廃止に反対した。EU、アイスランド、ニュージーランド、ノルウエーは、「エネルギー補助金の廃止はエネルギーの持続可能な開発に不可欠である」と述べた。議長の南アフリカのKumalo大使は、これをインフォーマルな交渉に委託した。しかし、合意に至らず、閣僚会議に送られた。そこでも、またインフォーマルな交渉に委託された。9月2日に、「化石燃料、再生可能なエネルギー、水力を含めた、よりクリーンな、より効率の良い、手に入れられるエネルギーの技術を開発することによってエネルギー供給を多様化する」という表現で合意を見た。そして、「再生可能なエネルギーの目標値」については削除された。
 ここでの議論では、EUが「目標値をいれることが実施計画である」と主張し、G77が反対した。
 「廃棄物と化学物質の管理」については、「2008年までに実施できるシステムを作るというために、化学物質の分別とラベルについての新しいグローバルな均一なシステムを実施するよう奨励する」に合意した。