国連  
ヨハネスブルグ・サミット(WSSD)の総括・その3
2002年8月
 

5.9月24−25日の秘密会議

WSSDが正式に開会する直前、9月24−25日、土日にかけて、同じヨハネスブルグで、秘密会議が開かれた。これは、7月17日、ニューヨークでの「議長の友だち」会合以来、「世界実施文書」草案のブラケットの項目毎に、「コンタクト・グループ」を設け、非公式の会合を持ってきた。しかし、ヨハネスブルグ・サミットに日が近づいても、一向に妥協点を見出せなかった。
 そこで、急遽、全加盟国が参加自由な2日間の秘密会議が持たれた。これは、南アフリカのDumisai Kumalo大使を議長として、NGOとマスコミを排除する形で「ウイーン式」で進められた。
 ここで議論された項目は、衛生、再生可能なエネルギー、エネルギーの補助金、化学物質、天然資源の減少、生物多様性の枯渇、漁業資源などについての数値と期限目標設定、
2つのリオ原則、ガバナンス、貿易、資金、グローバリゼーション、京都議定書、健康と人権などであった
 アナン国連事務総長、南アフリカの主張するところでは、合意に達した個所は全体の75%に上るという。確かに、「世界実施文書」草案の10章中、第5章「グローバリゼーション(後に、第9章「実施手段」と改名)」と第10章「制度的枠組み」が、未合意の[  ]になっている。しかし、この2章はもっとも重要な章であり、さらに他の章でも、各所に[  ]が付いている。
 主な審議の内容は以下の通り。

(1) 資金問題

 持続可能な開発と国連「ミレニアム開発ゴール」(2015年までに貧困を半減する)を達成するために、2002年3月国連開発資金会議の「モンテレイ合意」をめぐって、途上国側は、モンテレイ合意に入っていない目標数値、目標期限を設置することと、「新しい、追加の資金の拠出」を要求した。米国、日本、カナダ、オーストラリアが、「No New Target」のマントラを唱えて反対した。

「モンテレイ合意」の問題点

a、債務帳消し
G77はIMF・世銀の「拡大HIPCsイニシアティブ」以上のより深く、より広く、より早い重債務最貧国の債務帳消しを要求した。
b、ODAをGNPの0.7%を拠出 
アナン事務総長が、0.7%の達成は困難として、ミレニアム開発ゴールの達成のために、現行の「ODAの倍増」を呼びかけた。
すでに、ノルウエイ、スエーデン、デンマークルクセンブルグ、オランダが0.7%を達成している。今年3月、ポルトガル、アイルランドが公約した。その後、フランスが公約を発表した。EUは、向こう3年間に200億ドルの追加のODA拠出を公約し、現在の0.3%を0.39%にする。
 米国は、モンテレイ・サミットにおいて、ブッシュ大統領が、3年後から3年間に毎年50億ドルの追加のODAを公約したが、これは議会の承認がなければ、反古となる。
 この新規のODAについては、米国、EUともに、新たな条件が付いている。
c、為替取引き税(CTT)
債務帳消し、ODAの倍増を行っても、ミレニアム開発ゴールは達成できない。とくにアフリカはHIV/エイズの蔓延という非常事態下にあるので、大きな資金を必要としている。
その解決案として、CTTの導入があるが、「モンテレイ合意」には、"新しい、革新的な資金源"と表現され、さらに、その導入の可能性についての研究に取り組むといった、回りくどい表現になっている。
 CTTの導入に反対しているのは、米国と日本である。
 カナダ、フィンランド、フランスなどの議会がCTTの導入決議をしており、ドイツは経済協力相の名で、「導入は可能である」という調査報告書をモンテレイ・サミットで発表した。
 G77は、強く要求していない。

(2) 貿易問題

2001年11月、ドーハのWTO閣僚宣言について。
米国、日本、カナダ、オーストラリア、EUは、「ドーハの議論を"Reopen"しない」を主張した。
 途上国は、途上国の製品に対する先進国の市場アクセスと、先進国の農業補助金の廃止を要求。ドーハ閣僚宣言では、「補助金の段階的廃止」といった曖昧な表現に終わった。途上国はは目標数値と期限の設定を要求。

(3) リオの2大原則

「共通の、しかし差異のある責任」とは、環境破壊については、先進国により責任があるとする原則である。
「予防的アプローチ」とは、科学的に証明されていなくても、事前に環境の安全性の保障を必要とする。
 米国、日本、カナダ、オーストラリアがこの2大原則を拒否した。

(4) 目標数値と期限の明記

 途上国とEUは、ミレニアム開発ゴールでは、設定されなかった「衛生設備」についての目標数値と期限の設定を要求したが、米国が反対した。

(5) GEF拠出金の増額

 追加の資金の必要性については合意しているが、拠出額の設定に米国、日本が反対。

(6) 連帯基金の設立。

 途上国が要求したのに対して、米国、日本、EUが反対した。

(7) 企業の社会的責任

 多国籍企業の「行動規範」をめぐって南北が対立した。EUは途上国を支持した。

(8) 環境についての技術移転問題

 日本が特許権付き、商品化された技術の移転に反対した。

(9) パトナーシップ

 重要性については、確認された。しかし、ボランタリーなものか/交渉による契約なのか、をめぐって決まらなかった。
 「NGOは、ノウハウ、企業は資金」を出し、政府の行政の代行をやらせるというのだろうか。

 この秘密会議以来、それまでブラケットの項目別に設けられていたコンタクト・グループが機能停止となり、以後、2つのコンタクト・グループに整理された。

(1) 旧第5章の実施手段について、アンチグア・バーブーダのJohn Ashe大使が
議長となり、「資金」「貿易」「グローバリゼーション」の項目について非公式審議を行う。
(2) 旧第10章の制度的枠組みについて、オランダのKoen Davidseが議長となり、
主として「ガバナンス」について非公式審議を行う。