論文集  
『グローバリゼーションQ&A』
2000年1月
「グローバリゼーション時代における平和研究の課題」 

 ― CAFOD*ブリーフィング・ペーパーより抄訳
 (*CAFODは英国のカトッリク教会の国際開発協力団体)    

 「グローバリゼーション」という言葉は、シアトルからプラハにいたる一連の抗議行動を見ると、共通のののしり用語になっている。
 一方、12月半ばに発行された英国政府の『グローバリゼーションと開発に関する白書』では、重要な政治課題に挙げられている。  

 米国では、大統領選挙も終わり、WTOの新ラウンド交渉を再開させる動きが出て来た。 CAFODの『ブリーフィング・ペーパー』は、グローバリゼーションとは何か、貧しい国にどのような影響を及ぼしているか、どのように変えなければならないか、をまとめたものである。

グローバリゼーションを推進しているものは?

 グローバリゼーションとは、人、グループ、企業、あるいは国家が、相互に関連を強めていくプロセスをいう。この相互関連性は、さまざまな分野で進行している。

1.グローバル・ロゴ

 グローバリゼーションは、巨大な多国籍企業のすさまじい成長によって代表される。
 ナイキ、コカコーラといったブランド名を知らないものはいない。国家と企業をそれぞれ経済単位として見て、上位100の中で、国家は49だが、企業は51を数える。ゼネラル・モーターズ、ウオールマート、エッソ、モービル、ダイムラー・クライスラー各社の年間売上げ高は、最貧国48カ国のGDPを合計した額よりも大きい。
 企業の経済力は政治にも影響している。世界の首脳たちは、争ってマイクロソフト社のビル・ゲイツや、CISCO社のジョン・チェンバーズに会見を申し入れている。世界貿易や投資についての法案を作成しているのは、実際には、企業のロビイストたちである。
 グローバリゼーションの推進者たちは、多国籍企業が途上国に雇用と新技術をもたらしていると言う。一方、反対派は、巨大化した多国籍企業は、国家の役割を制限し、同時に世界経済を、自身とその株主たちの利益に沿うように操っていると非難している。

2.スーパーマーケットに見る世界

 北にも南にも、「輸出によって低開発から脱却できる」というグローバリゼーションのメッセージが届けられている。1980―99年の間、モノ(サービスを除く)の世界貿易は、1兆ポンドから3兆ポンドと3倍に増加した。貧しい国は、繊維、靴、エレクトロニックス、食糧を輸出している。近所のスーパーマーケットで、居ながらに第3世界を旅行できる。アスパラガスはペルーから、えびはバングラデシュから、マンゴーはザンビアから。中国は、衣服、玩具、エレクトロニックス、靴などの世界一の輸出国である。
 貿易は、貧しい国に雇用と富をもたらすが、一方、メディアが第3世界の工場のおぞましい労働条件を暴露した結果、その製品が生産されている社会、環境問題について関心が高まっている。

3.Globalfuture.com

 IT革新はグローバリゼーションを促進する。1930年には、ニューヨークとロンドン間の3分間の電話代は、245ドルであったが、1990年には3ドル、1999年には35セントと安くなった。24時間営業のE?Mailを使って、企業は、組み立て工場を地球上のあちこち
に分散させ、デザインや注文をMailで送り、国から国へと部品を移動させ、コストを最小限に押さえている。ITは、コストを削減し、グローバル・ビレッジを作り出したが、一方では、持てるものと持たざるものとの間のデジタル・デバイドの拡大をも生み出した。タイ一国の携帯電話の数は、全アフリカの総数よりも多い。

4.One Disney McWorld

 最近15年間の観光客は3倍に増え、国境を超えた移民も増えた。これらは、異なった国と人の文化の接触を増加させた。情報と企業のブランド名が普及し、それが、とくに十代やMTV年代の間に、グローバルな単一文化を生み出している。これら超グローバリゼーション年代たちは、国際理解が深まったと信じている。しかし、他方では、このグローバルな文化は、まさに企業の単調な"Just Do It" 文化だと非難されている。ラテンアメリカの神父の話によると、貧しい家族が子どもに、Rangerover、Thissideup、Ilovenyなどといった洗礼名を付けているという。(皆さん、これらの言葉を知っていますか?)

5.1日2兆ドル

 最近15年間、実際の貿易と投資には関連のない資本の移動が増大している。それは、1日当たり2兆ドル(何とゼロが12個)にのぼり、デリバティブ、先物、為替取引きといったAlice in Woderlandの世界を駆け巡っている。国境を超える3日間の資本は、1
年間の世界貿易総額に等しい。グローバリゼーションの推進者たちは、資本の移動は、株式市場を通して、第3世界に投資をもたらし、やがて、それは、政府がマーケットの信頼を脅かすような経済政策を放棄するようになるのだ、と言う。しかし、多量の資本の移動が、新興国経済を脅かした。タイ、インドネシア、韓国、ブラジル、ロシアなどで、最近3年間、資本の移動が、深刻な経済、社会危機をもたらした。これらの危機が、最も貧しい者に打撃を与え、続く回復は、最も豊かな者に恩恵をもたらし、貧富の格差を増大さたと、世銀は報告している。

6.グローバリゼーションと貧困

 インターネットに時代に、13億人が1日1ドルの生活をし、8億人が飢えている。これらすべてをグローバリゼーションのせいにすることは出来ないだろう。しかし、この貧困根絶に役だってはいない。グローバリゼーションが貧しい人びとに恩恵をもたらすことが出来ない1つの理由は、不平等にある。極端に不平等な社会では、貧しい人びとは、経済成長の恩恵を受けることができない。国内、また国家間での格差の増大は、最近の最も憂慮すべき現象である。

 1960年には、世界人口の最貧困層20%と最富裕層20%の所得格差は1対30であった。今日では、1対74になった。世界の億万長者上位3人の資産は、6億人の人口を抱える最貧国の経済を合わせたものよりも大きい。 
 もう1つの問題は、技術へのアクセスの不平等があげられる。これは、また、金融の不安定化と豊かな国と貧しい国の間の不公正な貿易条件によっても拡大されている。これらは、政治的に解決できる問題である。世銀が言うように、不平等の解消は、富める国と貧しい国ともに恩恵をもたらす。なぜなら、より平等な国は、成長が早く、輸入を増大させるからである。
 グローバリゼーションは、貧しい者の労働条件にも影響を及ぼす。それは、雇用をもたらすが、競争にも巻き込まれる。各国は、競って、外国の投資家に安い賃金、団結権の禁止、労働者の権利の制限、法人税の免除などを提供する。これらは、結果として、途上国と労働者が投資から受けるべき恩恵を失うことになる。
 パート労働と雇用の不安定化はグローバルな問題である。最近15年間、英国では、衣類と靴の価格は3分の1に値下がりした。これは、賃金が安くなったからである。ナイキ社のキルトしたジャケットは、ロンドンの店では100ポンドで売られている。しかし、これを作ったバングラデシュの女性が受け取った額は、51ペンスでしかない。インドネシアの縫製労働者は、10時間労働で57ペンスしか得ていない。
 途上国の農民は、グローバリゼーションによって、突然輸入が自由化されたため、破産に追い込まれた。これは、IMFと世銀が、融資や債務救済と引き換えに、"構造調整プログラム"を押し付けた結果である。クレジットや最新技術へのアクセスできないため、農民は、北の農業との競争にさらされ、一方では、国内の輸出向けの換金作物生産業者との競争にも負ける。メキシコのとうもろこし生産農民の収入は、1995年、NAFTAによる米国のとうもろこしの輸入が自由化されたため、半減した。

何をなすべきか

 グローバリゼーションに賛成か、反対かをめぐって議論をしてはいけない。ある種のグローバリゼーションは不可避である。しかし、これは、政府がコントロールできない天候のようなものではない。くレア・ショート国際協力相が言ったように、グローバリゼーションのルールは、もともと人びとが作ったものであって、人が変えることが出来る。WTO、NAFTA、そしてEUも、これらを作ったルールはも変えることができる。十分な政治的な意思があれば、企業をコントロールすることが出来、国際的な資本の移動を規制し、貿易と投資によってもたらされる恩恵を貧しい者が受けることを可能にすることが出来る。 
 グローバリゼーションの論理を変えるべきである。貿易と投資は、ある目的のための手段であり、その目的とは、人間の開発であり、世界の貧困の根絶である。そのためには、以下のことを実行しなければならない;

グローバリゼーションの機関の改革

 計画されたのではなく、アドホックな形で、グローバリゼーションは、いくらかの機関によって統括されている。その中では、WTO、IMF、世銀などは良く知られているが、その他にもある。
 これらは、同じ批判にさらされてきた。透明性、アカウンタビリティの欠如、一面的なイデロギー、規制緩和の促進、経済政策における政府の役割の削減、そして、G7による機関の過度の支配などの点である。貧しい者のためのグロ?バリゼ?ションを推進するならば、これらの機関を改革しなければならない。

北のダブル・スタンダードを止める

 EUと米国は自由貿易を主張している。しかし、かれら自身は実施していない。EUは第3世界からの輸入品に関税をかけ、第3世界の市場に、補助金付けの生産物をダンピングして、農民を破産させている。米国の弁護士軍団は、第3世界からの輸入を、健康に害があるとか、ダンピングだとかいう理由をつけて阻止するルール作りでもって食べている。 
 WTOの規約は、WTOの力関係を反映している。例えば、北で使われている補助金の種類を容認し、一方では、南でそれを使うことを禁止している。
 このようなことが続く限り、グローバリゼーションは、第3世界の政府と人びとにとっては、進歩への真の機会であるよりは、むしろ、北の自己利益追求の道である。

国家主権の制限

 グローバリゼーションは、政府の選択を狭め、国家主権を制限する。これは、或る場合には、これは良いことである。なぜなら、政府の"不適切な"経済政策を阻止するからである。しかし、多くの場合、食糧の安全保障、小農民を優遇し、安い外国の輸入品に市場を開放しないなど、政府が貧困層に恩恵を与える政策をとることを阻止してきた。貿易のルールは、途上国が正しい開発政策を施行することを妨げるようなものであってはならない。

グローバリゼーションは改革できるか?

 1999年11月のシアトルの失敗は、現状が選択肢ではないことを示した。途上国政府とその人びとは、より多くの発言権が与えられるべきであり、グローバルなシステムからより多くの恩恵を受けるべきである。これは、北と南の指導者の政治的な意思にかかっている。また、市民社会とNGOの積極的な参加を必要としている。

 いまや、貿易のルールを問題にすることから、多国籍企業の行動に関心を移すべきである。公正な貿易と、倫理的な投資行動をキャン
ペーンすべきである。グローバルな貧困に終止符を打つという現代の最大の挑戦を遂行するために、グローバリゼーションに首輪を付けなければならない。