イラク自衛隊派兵違憲訴訟  
『第4回意見陳述書』
 
平成16年(ワ)第6919号
原告 北沢洋子
被告 国
意見陳述書

2005年12月5日
東京地方裁判所 民事第18部合議2係 御中

原告 北沢洋子

 今日、イラクでは、米軍やイラク軍・警察に対する抵抗勢力(ゲリラ)による武力攻撃事件が起こっています。これは、イラク全土にわたって平均して1日約70件起こっています。
 内外のマスメディアは、これを外国人による自爆テロと呼んでいます。そして、これはイラク・アルカイダのリーダーであるアブ・ムサブ・アルザルカウイ(通称ザルカウイ)の仕業であると断言しています。今日彼は、オサマ・ビンラディンを凌ぐテロの黒幕になっています。
 米国務省はザルカウイに2,500万ドルの賞金をかけています。つまり市場価値ではビンラディンと同額なのです。しかし皮肉なことに、FBIの容疑者リストには載っていません。

1)ザルカウイとは誰なのでしょう。                      

 9.11直後、「オサマ・ビンラディンとは誰か」という論文を書いて、ビンラディンがCIAの申し子であることを暴露したカナダのトロント大学のミシェル・ショスドウブスキイ(Michel Chossudovsky)教授が、今年6月11日、彼が所長を勤めるグローバリゼーション調査センターのホームページに再び論文を載せています。
 この論文は、「ザルカウイの真実」を暴露しています。すべて、これまで公に発表された記事を検証して、組み立てていくのが同教授の分析方法です。
それは;
 「米国の情報機関の手法は、テロリスト組織を自ら創造し、一方ではそのテロ組織について警告を出す。そして、これらテロ組織を追跡するためと称して、何百万ドルものテロ狩りプログラムを作成する。
 テロの脅威を訴えるには、生生しいイメージを売り込むことが必要だ。それゆえ、テロリストの顔を作る必要がある。したがって、イラクの反テロ・キャンペーンに、ビンラディンのもう1つの幽霊であるアブ・ムサブ・アルザルカウイを創造したのだ。そして、その顔を毎日、ニュースに流す」と教授は述べています。
 
2)ザルカウイとアルカイダとの関係

 ザルカウイはビンラディンの側近で、複数の国でテロ攻撃を行っていると描かれています。一方では、同じニュース・ソースからでているのですが、ザルカウイはアルカイダとまったく関係なく、独立しているとも書かれています。また、しばしば彼はビンラディンのリーダーシップに挑戦しているとさえ言われています。
 ザルカウイの名が世界のメディアに毎日登場するようになったのは2004年の初頭からです。
 ビンラディンはサウジの有力なビンラディン家の一員です。ビンラディン家は古くからブッシュ親子とビジネス関係を持っていました。ビンラディン自身もソ連軍のアフガン侵略の際、CIAにリクルートされ、ムジャヒディーンとして闘いました。つまり、ビンラディンには確固たるCIAとの関係や、ビンラディン家とブッシュ親子との関係を示す資料があまりにも多くあります。これは米国に取ってまことに都合が悪いことです。
 CNNはザルカウイをアルカイダから独立した「一匹狼」だと評しています。しかし、驚くことに、CNNは、この一匹狼を、イラクだけでなく、複数の国で、とくに西ヨーロッパでも活動しているというのです。さらにザルカウイは米国本土でもテロ攻撃を準備しているといわれます。
 こうして彼は同時にあちこちの場所にいることになっています。米国にとってはナンバーワンの敵、変装が上手で、パスポートの偽造の名手だというのです。この一匹狼は米国の情報機関のもっともお気に入りの男です。
 2003年2月18日の『ナショナル・レビュー』誌では、ザルカウイはアルカイダの生物化学の技師と紹介されました。

3)イラン・コネクション

 ザルカウイの名前が世に知られたのは、1999年12月、アンマンのラディソン・SASホテルでのミレニアムの祭りの爆弾未遂事件でした。そのときの彼の名はアハメド・ファヂル・アルカライリでした。
 2002年3月24日付けの『ニューヨーク・タイムズ』紙は、米CIAの高官が語ったところによると、2001年末、米軍のアフガン占領直後、ザルカウイはアフガニスタンからイランに逃げたといいます。そこで、イランの保守派情報機関によって保護され、海外の米国人の暗殺の任務が与えられた、と報道しています。97年にイランに穏健な改革派ハタミ大統領が誕生しても、保守派が情報機関を握っていました。そして、2002年には、ザルカウイはアフガニスタン暫定政権の不安定化とパレスチナ人の武装蜂起を煽る役目を与えられた、というのです。そして2002年2月には、ザルカウイは、イスラエル領内で、爆弾テロを準備したと言われました。

4)アラブの「紅はこべ」

 米国のネオコンに近い『ザ・ウィークリー・スタンダード』誌2004年5月24日号によれば、ザルカウイは、2004年5月11日、バグダッドで米国人ニコラス・バーグ誘拐殺人に関与していた、と報じました。くしくもこれは、5月6日に暴露されたアブグライブ刑務所での米軍の捕虜虐待事件を米議会が追求しようとしていた日と同じ日でした。
 バーグ殺害事件では、米CIAが殺害のビデオ・テープを手に入れたといいますが、CIAのアラビア語の専門家とCNNの専門家は、まったく違う分析をしています。CNNの専門家はビデオの中の声はザルカウイのアクセントではない、と言いました。
 同誌は、さらにザルカウイが、同年3月11日のマドリッド駅爆破事件、同じ月にイラクでのシーア派モスク爆破事件、そして同年4月24日のバスラ港での石油施設に対する自爆テロにも関与したと述べています。
 CNNは、2004年4月28日、ザルカウイがヨルダンでヨルダン国王の暗殺と米国人観光客を殺害する陰謀に関与していたと放送しました。この事件で逮捕された容疑者の中のアズミ・アル・ジャヨウスイがザルカウイから17万ドルを受け取り、その中から20トンの爆薬を購入したと白状したと、報じました。
 イラクでは、ザルカウイはシーア派とスンニー派の間の内戦を煽っているといわれています。しかし、これは米国の情報機関の「Divide and Rule」政策に沿ったものではないでしょうか。これは米軍に対するイラク人の抵抗運動を弱めることになるのではないでしょうか。
 CIAは300億ドルの予算を使いながら、ザルカウイについては何もわかっていないようです。確かに彼の写真が1枚ありますが、『Weekly Standard』誌2004年5月24日号によれば、背の高さも、体重もわからない、といいます。「ザルカウイはあまりにも秘密が多くて、彼と一緒に活動しているものですら、よく知らない」といいます。
 CIAが提供する偽情報を最もよく使っているのは、CNNです。テロ事件が発生すると、直ちに、「確認されていないが、この事件の黒幕はザルカウイである」、と報道します。その2〜3日後には、CNNは警察や軍の情報として、あたかもそれが事実であるかのように報道するのです。また、CNNはイスラムのウエッブサイトや謎のビデオやテープを引用します。しかしこれら情報源についての確認は一切していません。

5)パウエルの国連安保理のスピーチ

 パウエル国務長官は、2003年2月5日、国連安保理で、イラクの大量破壊兵器の存在について行った有名なスピーチがありますが、その中で、「アルカイダはCIAの創造物であり、ビンラディンとザルカウイはともにソ連軍のアフガニスタン侵略と戦うためにCIAにリクルートされた」と述べました。
 「イラクの保有する大量破壊兵器がテロリストの手に渡る可能性を否定できない。イラクとアルカイダのテロ・ネットワークとの関係は古典的なテロ組織と近代的な殺人方法との結合とも言える。イラクはザルカウイが率いる恐ろしいテロ・ネットワークを匿っている。ザルカウイは、ビンラディンの側近であり、アルカイダの幹部である」とパウエル長官は安保理でスピーチしました。
 実際には、ザルカウイはパレスチナ出身のヨルダン人です。10年前にアフガニスタンで戦ったことがあります。2000年に再びアフガニスタンに帰ってきたとき、テロ訓練キャンプを訪れています。かれは毒薬の専門家であり、そのキャンプは毒薬製造のキャンプでした。米軍がタリバンをアフガニスタンから追放したので、ザルカウイはイラクに移動しました。そこで、イラク東北部(クルド人地域)に毒薬と爆弾専門のテロリスト・キャンプを建設しました。(しかし、ABCのリポートでは、米軍がここを占領したとき、大量破壊兵器を発見できなかった)この毒薬とはリシンであった。
 イラク東北部はフセイン政権の支配の及ばない地域でした。そこにはアンサー・アルイスラムという過激派のキャンプがありました。そこはフセイン政権のスパイが送り込まれていて、ザルカウイが逃げ込むときに手引きしたといわれます。これは、サウジアラビアに潜入しようとしたアルカイダのメンバーを逮捕したことによって、この事実が判明した、とパウエル長官は安保理で証言しました。
 それはアブ・アティヤと呼ばれる男のことです。彼はアフガニスタンのザルカウイのテロ訓練キャンプを卒業し、2001年には、北アフリカの少なくとも9ヵ所の過激派と接触し、ヨーロッパでも毒薬と爆弾の製造を教えた、とされる男です。2002年以来、このネットワークはフランス、英国、スペイン、イタリアに存在することが判明しました。そしてこのグローバル・ネットワークからこれまでに116人が逮捕されています。この逮捕者からの証言でザルカウイの全貌がはっきりしたのだ、パウエル長官は国連で語りました。
 2003年2月9日付けの英紙『オブザーバー』は、このパウエル長官の証言を覆しました。
 米軍の案内で、アンサー・アル・イスラムの基地を視察した同紙の記者は、「そこにはパラフィンと食料油の匂いがした、そして、見つけたのは、刻まれたトマトだけ。パウエル長官のいう軍事基地には、コックが残していった壁に立てかけたカラシニコフ銃が一丁だけあった」と述べています。アンサーのスポークスマンのモハメッド・ハサンは「われわれはイスラム教徒の一派に過ぎない。アスピリンでさえもっていないのに、どうして毒薬や大量破壊兵器が作られるだろうか」と語った。
 『ニューズウィーク』誌2003年2月24日号では、明らかにCIAがリークしたと思われる記事が報道されました。「2003年3月31日までに、59%の確率で米国本土内において大量破壊兵器による攻撃が起こる」とし、そこには、ザルカウイの写真が大きく載っていました。

 以上、ザルカウイについて、矛盾だらけの報道がまかり通っています。現実にザルカウイという超人的なテロの黒幕が存在すること自体が疑わしいのです。
 しかし、今日、イラクで起こっているすべての抵抗闘争が、この幽霊にすぎないザルカウイによるテロ自爆事件として、片付けられているのです。不当な占領軍に対するイラク人の抵抗闘争は、すべてザルカウイの「テロ事件」で片付けられているのです。

 一方、2005年12月2日の『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、CIAがヨーロッパで秘密の刑務所を置き、テロ容疑者を誘拐し、CIAの専用機で国外に移送していることを暴露しました。
 それは、2001年9月から2005年夏までの間、明るみにでただけでも、CIAが経営している会社が所有する26機が、23カ国の飛行場から307回のフライトを行ったのです。少なくとも298人のテロ容疑者が、アフガニスタン、イラク、あるいはキューバのグアンタナモ米軍基地に移送されました。
 これに対する怒りの声がヨーロッパ各国で起こりました。しかもこれらCIAの作戦が、一部現地政府の容認のもとに行われていたというショッキングな事実も報道しました。
イタリア政府は、これをイタリアの主権侵害だとして、22人の米CIA要員を逮捕しました。英国のストロー外務大臣は、ヨーロッパ連合を代表して、米国のライス国務長官に対して事実の釈明を求めました。

 米CIAのこのような国際法違反の行為は、山賊に等しく、とうてい文明国と呼べるものではありません。それは、米国が国際法に違反してイラクを占領しているばかりでなく、世界のあらゆる場所で、山賊行為を繰り広げていることを物語っています。
  私はこれまで米国のイラク戦争が国際法に違反していることを繰り返し述べてきました。
 そして、自衛隊のイラク派兵が憲法違反であるばかりではなく、米国の国際法違反という犯罪行為に加担していることを主張してきました。
 今日述べたことは、米国の国際法違反行為が、イラク1国にとどまらず、ヨーロッパ大陸全土で展開されているという事実であります。