イラク自衛隊派兵違憲訴訟  
『準備書面(1)』
2004年6月
国側の第1回準備書面(1)
平成16年(ワ)第6919号 意見行為差止等請求事件
原告 北沢洋子
被告 国

              準備書面(1)

                             平成16年7月13日


東京地方裁判所民事第18部合第2係 御中
被告指定代理人
宮田誠司外19人


 被告は、本準備書面において、請求の趣旨第1ないし3項に対する答弁をするとともに、請求の趣旨に対する答弁の理由について述べる。

第1 請求の趣旨第1ないし3項に対する答弁
 1 本案前の答弁
(1) 請求の趣旨第1ないし3項の訴えをいずれも却下する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
 2 本案の答弁
(1) 請求の趣旨第1ないし3項の請求をいずれも棄却する
(2) 訴訟費用は原告の負担とする

第2 請求の趣旨第1項の訴えに対する本案前の答弁の理由
 1 請求の趣旨第1項の請求の法的根拠等
 原告は、請求の趣旨第1項において、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(以下「イラク人道復興支援特措法」という。)による自衛隊のイラク派遣の差止を求めている(以下「本件差止の訴え」という。)が、これは、自衛隊のイラク派遣により原告の人格権としての平和的生存権及び幸福追求権が侵害されることを根拠とするもののようである(原告の2004年6月14日付け準備書面(1)(以下「原告準備書面(1)」という。))。
 2 本件差止の訴えは法律上の争訟性を欠くこと
(1) ところで、裁判所は一切の法律上の争訟について裁判する(裁判所法3条)。す
なわち、「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行いうるものではな」く、「特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しえない」(最高裁昭和27年10月8日大法廷判決・民集6巻9号783ページ)とされ、「裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう『法律上の争訴』、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、法令の適用により終局的に解決することができるものに限られ」(最高裁平成元年9月8日第二小法廷判決・民集43巻8号889ページ)るものとされている。
 このように、裁判所の審判の対象は「法律上の争訴」でなければならず、「法律上の争訴」
といえるためには、@ 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争
であること、 A それが法令の適用により終局的に解決することのできるものであること、の二つの要件を満たすことが必要であるとするのが確定した判例である(福岡右武・最高裁判所判例解説民事篇平成3年度247ページ)
(2) 原告は、本件差止の訴えにおいて、イラク人道支援特措法に基づく自衛隊のイ
ラク派遣が原告の平和的生存権及び幸福追求権を侵害することを前提にして、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊のイラク派遣の差止を求めているが、イラク人道復興特措法に基づく自衛隊のイラク派遣は、原告に向けられたものではないし、そもそも原告の具体的な権利義務ないし法律関係に対し、何らの影響を及ぼすものではない。以下詳述する。
ア 原告は、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊のイラク派遣は平和的生存権を侵害すると主張する(訴状6ページ、原告準備書面(1))。     
(ア) しかしながら、平和的生存権の具体的権利性については、最高裁判所平成元年6月
20日第三小法廷判決(民集43巻6号385ページ、判例時報1318号3ページ)が、「上告人らが平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえない」と判示し、同判決については、「平和的生存権を何らかの憲法上の人格権としてとらえようとする学説があるが、本判決は、これに消極的評価をしたものといえよう。」と評価されている(小倉顕・最高裁判所判例解説民事篇平成元年度225ページ(注9))。そして、同様の判例は、多数の裁判例によって繰り返し明確にされており、判例理論として確定しているものといえる(札幌高裁昭和51年8月5日判決・行栽例集27巻8号1175ページ、水戸地裁昭和52年2月17日判決・判例時報842号22ページ、東京高裁昭和56年7月7日判決・判例時報1004号3ページ、大阪地裁平成元年11月9日判決・判例時報1336号45ページ、(@ 事件)、福岡地裁平成元年12月14日判決・判例時報1336号45ページ(A 事件)、福岡高裁平成4年2月28日判決・判例時報1426号85ページ、大阪高裁平成4年7月30日判決・判例時報1434号38ページ、大阪地裁平成7年10月25日判決・判例時報1576号37ページ、大阪地裁平成8年3月27日判決・判例時報1577号104ページ、東京地裁平成8年5月10日判決・判例時報1579号62ページ、大阪地裁平成8年5月20日判決・判例時報1592号113ページ、東京地裁平成9年3月12日判決・判例時報1619号45ページ等)。
(イ) 実質的に検討しても、権利には極めて抽象的、一般的なものから、具体的、個別的
なものまで各種、各段階のものがあるが、そのうち裁判上の救済が得られるものは具体的、個別的な権利に限られる。しかし、平和的生存権は、その概念そのものが抽象的かつ不明確であるばかりでなく、具体的な権利内容、根拠規定、主体、成立要件、法律的効果等のどの点をとってみても、一義性に欠け、その外延を画することさえできない、極めてあいまいなものであり、このような平和的生存権に具体的権利性を認めることはできない。憲法前文2項で確認されている「平和のうちに生存する権利」は、平和主義を人々の生存に結びつけて説明するものであり、その「権利」をもって直ちに基本的人権の一つとはいえず、裁判上の救済が得られる具体的権利の性格をもつものと認めることはできないのである(伊藤正己「憲法(第三版)」165ページ、同旨佐藤幸治編著「要説コンメンタール日本国憲法」27ページ)。
(ウ) この点について、東京高等裁判所昭和56年7月7日判決は、「前文は、憲法の建
前や理念を荘重に表明したものであって、そこに表明された基本的理念は、憲法の条規を解釈する場合の指針となり、また、その解釈を通じて本文各条項の具体的な権利の内容となり得ることがあるとしても、それ自体、裁判規範として、国政を拘束したり、国民がそれに基づき国に対して一定の裁判上の請求をなしうるものではない。殊に、平和主義や『平和的生存権』についていえば、平和ということが理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体具体的な意味・内容を有するものではなく、それを実現する手段、方法も
多岐、多様にわたるものであるから、その具体的な意味・内容を直接前文そのものから引き出すことは不可能である。このことは、『平和的生存権』をもって憲法13条のいわゆる『幸福追求権』の一環をなすものであると解釈した場合においても同様であって、その具体的な意味・内容を直接『幸福追求権』そのものから引き出すことは、およそ、望み得ないところである。・・・『平和的生存権』をもって、個々の国民が国に対して戦争や戦争準備行為の中止等の具体的措置を請求し得るそれ自体独立の権利であるとか、具体的訴訟における違法性の判断基準になり得るものと解することは許されず、それは、ただ政治の面において平和理念の尊重が要請されることを意味するにとどまるものである」としており、また、東京高等裁判所平成16年4月22日判決(乙弟1号証)14ページも、「そもそも、平和のうちに生存する権利という概念自体、理念ないし目的を表す抽象的概念としての平和を中核に据えるもので、しかも、それを確保する手段や方法も転変する複雑な国際情勢に応じて多岐多様にわたって明確に特定することができないように、その内包は不明瞭で、その外延はあいまいであって、到底、権利として一義的かつ具体的な内容を有するものとは認め難く、これを根拠として、各個人に対し、具体的権利が保障されているとか、法律上何らかの具体的利益が保障されていると解することはできない」と判示しているところである。
 したがって、平和的生存権に具体的権利性を認めることはできない。
(エ)さらに、福岡高等裁判所那覇支部平成16年1月22日決定(乙弟2号証)は、自衛隊のイラク派遣執行停止申し立て事件の却下決定に対する即時抗告事件において、「抗告人は、本件本案訴訟は抗告訴訟であると主張するけれども、自衛官をイラク共和国に派遣するとの決定は、権利ないし法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果を有するものではないから、本件本案訴訟が抗告訴訟であるとすればその要件を満たさない不適法なものであることは明らかである。抗告人は、自衛官をイラク共和国に派遣することによって日本が戦争の惨禍に巻き込まれ、抗告人の生命や財産その他の諸権利が危殆に瀕することになると主張するけれども、このような理由をもって、自衛官がイラク共和国に派遣する行為が権利ないし法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果を有するということはできない。」と判示した上、「本件本案訴訟は法律上の根拠を欠く不適法な訴えである」としており、ここからすれば、当該訴えが適法となるためには、その対象となる行為が、国民一般に抽象的な影響を及ぼすのみでは足りず、国民個々人の権利ないし法律上の利益に直接の影響を及ぼすものでなければならないと解される。
 そして、前記のとおり、平和的生存権が具体的権利として国民個々人に保障されたものでないことは明らかである。
 したがって、平和的生存権を根拠とする本件差止の訴えは、原告個人の権利ないし法律上の利益に直接の影響を及ぼすことを根拠とするものではないから、不適法である。
イ 次に、幸福追求権について検討する。
(ア)憲法13条については、憲法に列挙されていない道徳的権利ないし理念的権利ともいうべき抽象的な利益が一定の段階に達したとき、それを憲法上保護される法的権利とみなす根拠となる規範であり、同条後段にいう幸福追求権は、個別的基本権を包括する基本権であって、個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体であるとする見解も有力である。しかし、そのような見解においても、その中身を構成する権利・自由として具体的にとどのようなものが考えられるのかは明確でなく、その具体的権利性をもしルーズに考えると、「人権のインフレ化」を招いたり、それがなくても、裁判官の主観的な価値判断によって権利が創設されるおそれがあるから、幸福追求権の内容として認められるために必要な要件を厳格にしぼることが要求されている(芦部信喜・憲法学II人権総論328、341、344、350ページ)。
 このように、幸福追求権なるものの具体的内容は一義性を書くといわざるを得ないから、これから直ちに個人の具体的な権利を導き出すことはできない。
(イ)また、本件において原告は、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊のイラク派遣は幸福追求権を侵害すると主張する(原告準備書面(1))が、幸福追求権の内実をなす具体的な権利として何を措定するのか何ら主張しておらず、被告のいかなる行為によって、どのように原告に保障された具体的な権利の侵害が生じるというのか全く判然としていないことは明らかである。結局のところ、原告の主張する幸福追求権は、その主張に係る平和的生存権とその内実を同じくするものと解されるところ、平和的生存権について具体的権利性がみとめられないことは前記のとおりである。
ウ 以上のとおり原告が主張する平和的生存権及び幸福追求権は、いずれも国民個々人に保障された具体的権利ということができないから、被告との間で具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争が起こり得ないことは明らかである。
(3) 原告は、「主権の行使の一環として・・・提訴する」(訴状45ページ)として
原告自身の主観的利益に直接関わらない事柄に関し、国民としての一般的な資格・地位をもって上記請求をするものであり、本件を民事訴訟として維持するため、一見、具体的な訴訟事件のごとき形式をとってはいるものの、実際には、私人としての原告と、被告との間に、利害の対立紛争が現存し、その司法的解決のために本件を提訴したものではない。本件訴訟の目的が、国民の一人として日本国政府に政策の転換を迫る点にあることは明らかである。
そうすると、このような訴えは、前記@記載の「当事者間の具体的な権利義務ないし法
律関係の存否に関する紛争であること」との用件を欠き、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないから、不適法といわざるを得ない(名古屋高裁昭和50年7月16日判決・判例時報791号71ページ参照)。
この点について、那覇地方裁判所平成16年1月9日判決(乙弟3号証)は、イラク共
和国に自衛官を派遣することの差止等を求める事案について、「本件は、原告が、被告に対し、イラク共和国に自衛官を派遣することの差止めを求める・・・ものであり、かかる訴えは、原告自身の法律上の利益にかかわらない資格で提起されたものであるから、行政事件訴訟法上の民衆訴訟(同法5条)であると解される。しかしながら、民衆訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができるのであって(行政事件訴訟法42条)、現行法上、本件訴えのような、自己の法律上の利益にかかわらない資格で、国に対し、自衛隊の派遣の差止めを求める訴え・・・を定めた規定は存ぜず、かかる訴えを適法とする根拠は見当たらない。」と判示して、訴えを却下し、その控訴審である福岡高等裁判所那覇支部平成16年2月5日判決(乙弟4号証)も同様の判断をしている。
(4) 以上のとおり、本件差止めの訴えについては、原告がその根拠とする平和的生
存権及び幸福追求権は国民個々人に保障された具体的な権利とはいえないから、原告の具体的な権利義務ないし法律関係に直接関わらないものであり、国民(主権者)としての一般的な資格、地位に基づき日本国政府に政策の転換を迫る民衆訴訟の実質を有するものというべきであるから、裁判所法第3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらず、不適法というほかない。
 したがって、本件差止めの訴えは却下されるべきである。

第3 請求の趣旨第2項に訴えに対する本案前の答弁の理由 
1 請求の趣旨第2項の請求の法的根拠等
 原告は、請求の趣旨第2項において、イラク人道復興支援特措法による自衛隊のイラク派遣が憲法及び国際法に違反することの確認を求めている(以下「本件違憲等確認の訴え」という。)が、これも、自衛隊のイラク派遣により原告の人格権としての平和的生存権及び幸福追求権が侵害されることを根拠とするもののようである(原告準備書面(1))。
2 本件違憲等確認の訴えは法律上の争訟性を欠くこと
 本件違憲等確認の訴えについては、前記第2で述べたとおり、原告がその根拠とする平和的生存権及び幸福追求権は国民個々人に保障された具体的な権利といえないから、原告の具体的な権利義務ないし法律関係に直接関わらないものであり、国民(主権者)としての一般的な資格、地位に基づき日本国政府に政策の転換を迫る民衆訴訟の実質を有するものというべきである。したがって、本件違憲確認の訴えは、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらず、不適法というほかない。
3 本件違憲等確認の訴えは確認の利益を欠くこと
 確認の訴えは、原告の有する法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるとされるのであり(最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号208ページ、東京地裁平成9年3月12日判決・判例時報1619号45ページ参照)、何ら法的効果も伴わない単なる事実行為については、その方的効果を確認する法律上の利益はない。
 ところで、原告が、本件違憲等確認の訴えの根拠として主張する平和的生存権及び幸福追求権は、前記のとおり、国民個々人に保障された具体的な権利とはいえず原告の法律的地位を基礎づけるものではないから、自衛隊のイラク派遣は、原告の有する法律的地位に何らの影響を及ぼすものではなく、何らの法律効果も伴わない単なる事実行為というほかない。
 また、自衛隊のイラク派遣により原告において何らかの具体的な権利侵害を被ったというのであれば、原告はそれを理由として損害賠償請求を求めれば足りるのであり、現に、本件において、原告は自衛隊のイラク派遣が憲法等に違反するとして、国家賠償請求をも提起しているのである(請求の趣旨第4項)から、あらためて損害賠償請求とは別個に自衛隊のイラク派遣の違憲等確認判決を求める利益はない。
 したがって、本件違憲等確認の訴えは、確認の利益を欠き不適法であるから却下されるべきである。

第4 請求の趣旨第3項の訴えに対する本案前の答弁の理由
1 請求の趣旨第3項の請求の法的根拠等
 原告は、請求の趣旨第3項において、イラク人道復興支援特措法による自衛隊のイラク派遣が違法であるとして、これに要した費用を、「不法行為の賠償として国庫に返済する」(請求の趣旨第3項)ことを求めている。(以下「本件費用償還の訴え」という。)が、これも、自衛隊のイラク派遣により原告の人格権としての平和的生存権及び幸福追求権が侵害されることを根拠とするもののようである(原告準備書面(1))。
2 本件費用償還の訴えは法律上の争訟性を欠くこと
 原告がその根拠とする平和的生存権及び幸福追求権は、前記第2で述べたとおり、国民個々人に保障された具体的な権利とはいえないし、本件費用償還の訴えについては、そもそも原告個人ではなく、国庫に損害が生じたとして、その賠償を求めるものであるから、原告の具体的な権利義務ないし法律関係に直接関わらないものであることは明らかであり、国民(主権者)としての一般的な資格、地位に基づき日本国政府に政策の転換を迫る民衆訴訟の実質を有するものというべきである。したがって、本件費用償還の訴えは、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらず、不適法というほかない。
 したがって、本件費用償還の訴えは却下されるべきである。

第5 請求の趣旨第1及び4項の請求に対する本案の答弁の理由
 請求の趣旨第1及び4項の請求は、いずれも主張自体失当である。以下述べる。
1 本件差止請求について
 前記のとおり、本件差止請求は、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊のイラク派遣の差止めを求めるものであるが、仮に、本件差止の訴えの適法性の問題を措くとしても、かかる請求が成り立ち得るためには、原告が当該行為を差止め得る私法上の権利(差止請求権)を有していることが不可欠である。
 ところが、既に述べたとおり、原告が差止請求権の法的根拠として主張する平和的生存権及び幸福追求権は、いずれも国民個々人に保障された具体的な権利といえないことは明らかである。
 したがって、本件差止請求は、主張自体失当である。
2 本件損害賠償請求について
 原告は、請求の趣旨第4項において、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊のイラク派遣が違憲・違法であり、これにより原告の平和的生存権及び幸福追求権が侵害され精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、慰謝料を請求している。
 しかしながら、前記のとおり、原告が被侵害利益として主張する平和的生存権及び幸福追求権は、いずれも国民個々人に保障された具体的な法的権利とは認められず、また、いずれも国賠法上保護された利益とも認められない。
 また、本件における自衛隊のイラク派遣それ自体は、原告に向けられたものではなく、原告の法的利益を侵害するということはおよそあり得ない。
 さらに、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求においては、原告の国賠法上保護された利益が現実に侵害されたことが必要であり、侵害の危険性が発生しただけでは足りないところ、原告は、現実に侵害が発生したことについては何ら主張していない。
 したがって、本件損害賠償請求は、いずれにしても主張自体失当である。
3 小括
 以上のとおり、本件差止請求及び本件損害賠償請求は、いずれも主張自体失当であることが明白である。

第4 結論
 以上のとおり、本件差止の訴え、本件違憲等確認の訴え及び費用償還の訴えはいずれも不適法である。
 また、本件差止請求及び本件損害賠償請求はいずれも主張自体失当である。
 したがって、本件に関しては証拠調べの必要性は全くないから、速やかに、請求の趣旨に対する答弁のとおり、訴え却下または請求棄却の判決がされることを求める。