DebtNet通信
(vol.9 #15)
 
キプロスの債務とトロイカ
2014年3月31日
北沢洋子

  地中海に浮かぶキプロス島は、わずか100万強の人口にもかかわらず、ギリシャ系住民とトルコ系住民が居住する地域に2分されている。国名も、それぞれ北キプロス・トルコ共和国とキプロス共和国を名乗っている。
 キプロス共和国は、EUの加盟国である。北キプロスの方は、トルコしか承認しておらず、国際的には忘れられた存在である。

1.キプロスの国営企業の民営化

 したがってここで取り上げるのはキプロス共和国である。あまり知られていないことだが、EU加盟国のなかで、IMF・ヨーロッパ中央銀行(ECB)・ヨーロッパ委員会(EC)、すなわち「トロイカ」によって財政援助の見返りに「緊縮政策」を押し付けられた国としては、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに次いで第4番目の国である。
 キプロスでは、13年3月に「トロイカ」との間で交わされたメモランダムに基いて、エネルギー、電信電話、造船部門の国有企業の民営化が始まった。これに対する民衆側の反撃は、予想を超えたものであった。電力労組は3日間毎に自動的に延長される方式のスト宣言を行い、また、キプロスの主要な2つのリマソール港とラルナカ港の港湾労組がストを宣言した。さる2月27日これに連帯する大規模なデモが行われた。
 その結果、キプロス議会では、国有化法案が25票対25票で否決された。(採択には29票が必要である)翌日、政府は辞任した。「トロイカ」を支持してきたメディアは、完全に沈黙した。これは、驚くべきことだった。
 3月4日、わずかに修正された法案が再度議会に提案された。その結果、30対26で採択された。修正部分は、民営化後も雇用は保証されるという条項だった。しかし、誰もこれを信じる者はいない。
 その結果、電力ではEAC,電信電話ではCYTA、港湾ではCPAという主要な国営企業が民営化された。これで、13年3月に「トロイカ」が融資を約束した100億ユーロの中の2億3,600万ユーロを受け取ったのであった。これで見るように、「トロイカ」は約束した金額を一度に払はない。融資総額は小分され、メモランダムで約束した「緊縮政策」の中で、キプロス政府が一つ一つ政策を実施する度に、小分けされた融資の一部を受け取ることが出来る。

2.キプロスの金融危機

 キプロスが「トロイカ」の融資を受けることになった原因は、金融危機であった。観光業ぐらいしかないキプロスは、タックス・ヘブンと高金利政策でもって、“金融市場”からお金を集めた。キプロスの銀行は、この金をリスキーな投資を行った。
 例えば、12年、キプロスの銀行は、全投資の40%をギリシャ国債に投資した。これは45億ユーロにのぼり、キプロスのGDPの4分の1を占める。このような無謀な投機が失敗し、銀行が抱える不良債権は、キプロスのGDPの7倍に達した。
 銀行の不良債権は、たちまち、公的な債務に肩代わりされた。したがって、キプロスの公的債務は不法な債務である。また、「トロイカ」の融資から発生する債務もキャンセルすべきである。
 09年、キプロスの公的債務は、GDPの52.4%であった。また10年には、これが60.8%になった。この額はユーロ圏の平均が80%であることを考えるとけっして高くない。
 法人税は、「トロイカ」のメモランダム以前は10%であった。これは「メモランダム」では12.5%に引き上げられたが、財政赤字を解消することは出来なかった。
 「トロイカ」が約束した財政融資の100億ユーロは、ECBが90億ユーロ、IMFが10億ユーロの割合になっている。キプロス政府は、これを受け取る代わりに、国営企業の民営化と法人税の引き上げに加えて、銀行の改革、財政支出の一律10%削減を約束させられたのであった。
 その結果、キプロスの失業率の上昇が予測される。14年末には、これが19.4%に達すると予測される。インフレが予測される中で、賃金や年金は20%削減されている。
 人びとの怒りは、毎日行動で表される、銀行の前には、ごみの袋が集められ、電力労組のストにより定期的に停電が起こり、議会や政府のビルがデモによって、囲まれている。