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DebtNet通信 (vol.9 #11) |
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「HIPCsイニシァティブ」の終了と最貧国の債務 |
2013年7月9日 北沢洋子 |
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1996年、前年コペンハーゲンで開かれた国連社会開発サミットの決議を受けて、IMF・世銀はHIPCsイニシャティブを発表した。これは、IMF・世銀が「重債務貧困国」と認定した国42カ国に対して、3年間忠実に「構造調整プログラム」を実施し、さらに3年後に完了点に達した場合のみ、「持続可能な債務(?)」を差し引いた分を帳消しにする、というスキームであった。しかし、HIPCsイニシャティブは、少なくとも6年間待たねばならず、最貧国にとっては、重圧であった。その結果、2000年に至るまで、HIPCsイニシャティブは1カ国も実施されなかった。 2000年のJubilee 2000国際キャンペーンの圧力によって、IMF・世銀は、HIPCsイニシャティブにもとづいて、35カ国の債務帳消しをした。その総額は1,300億ドルにのぼる。未だに帳消しになっていない国は、チャド、スーダン、ソマリア、ジンバブエの5カ国だが、これらの見通しは立っていない。それにもかわらず、IMF・世銀は「HIPCsイニシャティブは終了した」と宣言した。 IMF・世銀は、HIPCsイニシャティブの完了によって、HIPC国の債務返済額は、2011年にはGDPの平均0.9%までになった。これは、2010年には0.8%であった。それが2012年には、1.5%に上昇している。その理由は、2003年からHIPC国に対して、HIPCsイニシャティブによる帳消しの対象に入らない新規のローンが貸し付けられているからだ。 このローンの債務返済によって、最貧国の「貧困根絶」への支出は、2010年、GDPの9.1%だったものが、2011年には8.8%に落ちている。 明らかに、ポストHIPCsイニシャティブには、逆に債務返済が増えており、その分だけ貧困根絶の予算が減っている。これでは、とうてい、2015年の「ミレニアム開発ゴール(MDG)」の達成は望めない。 ようやく今年5月1日、IMFはHassan Sheikh Mohamud大統領の政府を承認した。これは債務帳消し交渉への第1歩である。 ソマリアは、HIPCsイニシャティブの対象国に入っており、22億ドルの対外債務を抱えている。しかし、正統な政府が存在しなかったので、債務削減を享受できなかった。今回、ソマリア政府はIMFと交渉を開始している。 最近、IMFがリークした文書によると、IMFは、ジャマイカを救済融資(Bail Out)する条件として、まずパリ・クラブとの交渉を義務付けた。しかし、パリ・クラブの保有する債務は、3%、2億3,600万ドルに過ぎない。 IMF自体は2014年5月に、債務削減の交渉を始め、2015年から実施するとしている。ジャマイカの対外債務は、商業銀行のローンが58%、国際金融機関が32%、それにパリ・クラブが3%になっている。今後7年間、ジャマイカは政府予算の20%、7億2,600万ドルを債務返済と利子支払いに充てなければならない ジャマイカ経済は良好である。債務返済の重圧から逃れることが出来れば、財政は5%の黒字になる。つまり、債務が経済成長の足枷になっている。にもかかわらず、IMFは、2013年4月、ジャマイカに4年間で9億3,000万ドルの融資をした。さらに世銀と米州開銀が10億ドルを、ジャマイカの債務返済資金として貸した。 この融資の条件として、IMFは、
などを条件にしている。 これらの規制は、ザンビアの場合、とくに鉱山業が輸出入の価格を操作して利益を国外に持ち出すという脱税を防止することに役立つ。 勿論、ザンビアの鉱山会議所は不満である。ザンビアのMiles Sampa 副鉱山相は「不満なのは、不正な行為をしている会社だけだ」と反論した。 ザンビアはIMFの構造調整プログラムの下にない。そのため、IMFの規制を受けなくてもよい。IMFは「資本の移動を規制すること」に反対しており、それを構造調整プログラム」の中に入れている。 ザンビアは13カ国と、2国間投資協定を締結している。これらの国ぐには、新しいザンビアの資本規制法について、当該国の投資会社が「新法律が外国資本を差別している」と判断したら、ザンビア政府を告訴することが出来る。ザンビアが投資協定を結んでいる国にはスイスがある。スイスのGlencore社はザンビアのMopani銅山の株の73%を所有している。また中国は、ザンビアの4つの銅鉱山を所有している。 ザンビアは、2005年にHIPCsイニシャティブによる債務帳消しを受けた。同じ頃、銅の価格が高騰した。ザンビアは1人当たり25%の成長率を記録した。そのほか、子どもの就学率は2004年の70%から2010年には90%に達した。幼児死亡率も1,000人中130人が80人に減った。しかし、ザンビアには人口の50%が栄養失調にあり、70%が絶対的貧困下にある。 そこで、グレナダ政府は、個人、2国間、多国間金融機関を含めた包括的な債務問題の解決をはかることを要求している。 ルアンダ政府は、この資金の半分をより高い利率の債務返済に充て、残りをキガリ会議センター、ルアンダ航空、水力発電所建設などに充てる。ルアンダのような貧困国には、このような利子率は、非常に安い。しかし、低利率に苦しむヨーロッパでは、この上ない良い投資先である。したがって、ルアンダ政府はやすやすと国債を売りつくすことが出来た。 一方、IMFはルアンダに有償のローンを供与した。そもそもルアンダはIMFからの借り入れはない。したがって、構造調整プログラムに縛られていない。にもかかわらず、ルアンダはIMFに従わねばならない。 ルアンダは今年中に外国からのローンの返済を迫られている。これは財政の11%に上る。そこでルアンダ政府は、ドルに対する自国通貨の切り下げを行う危険性がある。これは、ルアンダの債務返済を増やすことになるだろうが、コーヒーとティーの輸出には有利である。 ルアンダの対外債務は、16億ドルに達する。これはGDPの20%を占める。ルアンダは、2006年HIPCsイニシャティブによる債務帳消しを受けた。以後ルアンダは、今回の国債発行までに7億ドルの融資を受けた。そのなかで、世銀は3億ドル、その他の多国間金融機関が2億ドルのローンを給与した。 ルアンダ政府は、隣国のコンゴ民主共和国の内戦に介入している。ルアンダの援助を受けた反政府軍が、コンゴ東部で大量の虐殺やレイプ事件を起こしている。これは、国際刑事裁判所から起訴状が出ている事件である。そのため、ルアンダ政府は、欧米諸国から非難を浴びている。ルアンダ政府が、多額の多国間金融機関の融資や個人向け国債の発行に踏み切ったのにはこのような国際情勢のせいである。 |
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