DebtNet通信 (vol.8 #16)  
英国の「はげたかファンド」規制
2011年8月
北沢洋子

 イギリス海峡に浮かぶチャネル諸島は、王室属領という名で、英国領になっている。島々には、それぞれ政府と議会があり、自治領になっている。
 このような地位を利用して、チャネル諸島は、金融資本のタックス・ヘブンや、「はげたかファンド」の天国になってきた。
「はげたかファンド」とは、途上国政府の公的債務を簿価よりはるかに安く買い叩いて取得し、それを、金融資本の規制がない国や都市レベルの裁判所に訴え、債務の簿価全額を途上国政府に返済させるというまさに「はげたか」である。通常「はげたかファンド」は、最貧国政府で公的債務の帳消しを受けた国を狙う。最貧国政府が持っている私的債務を買い叩くのである。こうして、「はげたかファンド」は莫大な利ざやを稼ぐ。
 ジュビリー(債務帳消し)運動は、これまで、「はげたかファンド」の提訴を受け入れていたベルギーのブルッセル法廷などに対して、闘ってきた。現在、英国ジュビリー(JDC)は、英国領内のチャネル諸島など自治領に対して、「はげたかファンド」の規制をキャンペーンしてきた。そのロビーイングは実を結んだ。
 今年6月、英国下院は、昨年4月にアドホックなものとして制定された「はげたかファンド法」を永続的な法律にすることに合意した。そして英政府も3月中に執行することを公約した。これはジュビリーの勝利であった。
 英国財務省の試算では、この法律によって、最貧国の1億4,500万ポンドの債務が今後6年間、救済されることになるという。最貧国にとっては、これは、大きな救済である。
 しかし、チャネル諸島など王立属領地にとっては、英国下院の「はげたかファンド」法は直接には拘束されない。これを、受け入れ、独自の法律を制定することになる。ということは、現在のところ、チャネル諸島最大、オフショアーの金融センターであるジャージー島には適応されない。
 昨年、ニューヨークに本社を置く米企業「FG Hemishere社」が、ジャージー島の裁判所に訴訟した。裁判は同社の勝利に終わり、コンゴ民主共和国政府は。即時1億ドルの支払いを命じられた。コンゴはアフリカで第二位の貧困国である。
 2003年、FG Heminshere社がコンゴ政府から買ったときの額は、3,700万ポンドであった。いかに儲けが大きいものであるかを示す典型的な例である。
 そこで、英国ジュビリーは、「はげたかファンド」を完全に撲滅するには、このような抜け穴をなくさねばならない。
 このような英国ジュビリーのロビイングの結果、今年6月、ジャージー島のTerry la Sueur首相は、英国下院の「はげたかファンド」法を適応する法律の制定するために、上級委員会を設立した。これは、昨年の「FG Hemishere」社の判決が、多くの非難を浴びたからであった。
 一方、ガーンジー島政府も、「はげたかファンド」が法廷に提訴できないような法律の制定を考慮している。ガーンジー議会のDaniel Wimberley議員は、「チャネル諸島の法廷が、はげたかファンドの暗躍の場にならないために、法律の制定が必要だ」と語った。