DebtNet通信 (vol.8 #12)  
世銀が南アフリカESCOM火力発電所に融資
2010年8月31日
北沢洋子

 今年4月8日、世銀の理事会は、南アフリカの準国営電力会社ESCOM社のMedupiに石炭火力発電所6基の建設プロジェクトに、37億5,000万ドルの融資を承認した。しかし、米国、オランダ、英国はこのプロジェクトを支持していないという。
 4,800メガワットのMedupi 発電所本体の建設費は、30億5,000万ドルで世界第4位の規模となる。
 米国、ヨーロッパ、南アフリカの市民社会はこれに対して国際的な抗議キャンペーンを展開している。200の国際ネットワーク、65の南アフリカの社会、環境団体が世銀宛に署名している。

1.世銀融資は経済を圧迫する

  世銀の巨額の融資は、他の金融機関の融資を誘発するこになる。その結果、ESCOMは南アフリ、カ経済にとって重圧になるだろう。まず、電気料金が、急騰する。ESCOMは、2011年に電気料金を75%引き上げると言っている。現在、南アフリカの家庭で電気が通じているのは人口の70%に過ぎない。
 これまで、電力事業をほとんど独占しているESCOMは、巨大な多国籍企業には、コスト以下の安い電力料金で提供し、その分だけ一般家庭に4倍も高い電気料金を支払わせてきた。
 今後、この世銀融資は、長期間にわたって、元金、金利支払いが始まり、それもまた、南アフリカ経済にオネガティブな影響を与えるだろう。この世銀融資は、南アフリカの対外債務を5%引き上げることになる。また対外債務の返済は、ドル建て行なわれるので、南アフリカの通貨「ランド」の値下がりにより、返済額が増える。
 アパルトヘイト時代、南アフリカに対する経済制裁キャンペーンが有効な運動であった。そのため、世銀、IMFともにアパルトヘイトに対する投資を中止せざるを得なかった。
 にもかかわらず、世銀は、アパルトヘイト時代、ESCOMが白人ビジネス、白人家庭にのみ供給されることを知りながら、融資をしていた。
 しかし、アパルトヘイト崩壊後、直ちに、新しい政府は、世銀にマクロ経済政策を任せた。これが、今日、公共サービスの低下と失業の増大につながった。
 世銀は、アパルトヘイト後期に、すでに南アフリカ国内にある黒人王国レソトを使って、南アフリカへの進出をはかっていた。世銀は「レソト・ハイランド・ウォーター・プロジェクト」に融資した。それ以来、南アフリカの水道料金は値上がりした。
 南アフリカ政府とESCOMへの世銀の巨額の融資は、アパルトヘイト以後はじめてのケースとなった。

2.世銀融資は環境破壊につながる

  ESCOMに対する世銀融資は、アパルトヘイト以後の南アフリカ政府との世銀間の長期にわたる関係を保証するものであった。そればかりでなく、この融資は環境破壊と温暖化を促進する。
 ムベキ前大統領は、「アフリカ間発の新パートナーシップ(NEPAD)」の提唱者の1人であった。NEPADは、ベールに覆われた言葉だが、世銀とIMFがアフリカへの外国投資を促進することを願ったものである。
 これは、2002年、ヨハネスブルグで開かれた国連リオ+10サミットで、ムベキがサミットのタイトルであった「環境と開発」に対して、「企業主導の開発」に置き換えようと図ったことでも明らかである。ムベキとその仲間は、サミットのタイトルを「持続可能な開発サミット」に変更することに成功した。
 今回の世銀のESCOM融資についても、「開発をもたらす」という同じ論理が使われている。しかしこれは全く事実に反する。
 この融資は、石炭火力発電を促進する。そして、これは、大規模な炭鉱開発を必要とする。その結果、住民たちを土地追いたてが起こる。また、石炭火力発電は、大量の水を必要とする。一方、炭鉱は、汚染された水を大量に放出する。住民の飲み水が奪われることになる。これらは、現地で起こる環境破壊である。
 一方、発電所が二酸化炭素を排出し、地球温暖化をさらに促進する。これは、気候変動によって、アフリカ大陸に気候変動をもたらし、農業を左右する。
 大資本による石炭火力発電所の建設は、また、小規模な再生可能な発電プロジェクトを圧迫する。これは、雇用にも影響する。

3.日立をめぐる汚職疑惑

 ESCOM建設プロジェクトには、さまざまな汚職の疑いがある。例えば2ヵ所の発電所のボイラー2機を受注した「日立パワー・アフリカ社」は、何百万ドルもの賄賂をANC幹部に支払ったと言われている。これは、今年4月13日、議会で野党「民主同盟(DA)」スポークスマンであるSejamothopo Motauによって暴露された。
 もともとANCの投資会社であるChancellor House Holdingsは、日立パワーの株を25%所有している。その関係でボイラー2機を受注したのであった。4月12日、ANCと日立パワーとの関係について、ANCの本部であるLuthuli Houseでパートナーである南アフリカ労働組合会議(COSATU)から激しく追及された。COSATUのZwelinzima Vavi書記長は、ANCの株を手放すことを要求した。
 ANCは、株を手放すのは、6ヶ月後だと言っている。このことは、日立パワーがボイラー建設に着手し、株価が上昇したときに、25%の株を売るということだろう。

4.世銀は気候変動金融から手を引け

  世銀は、「ESCOM融資は、世銀の年間融資の僅か3%に過ぎない」と弁解している。これは間違いだ。しかもESCOM融資は世銀自体のガイドラインに違反している。その上、すでに述べたような、多くの問題を抱えている。
 ESCOM融資は、まさに世銀が、地球温暖化を推進していることを証明する。したがって、世銀には、気候変動の緩和・対応のための融資機関になる資格がない。